第3話 揺れる想い-3

 「どうして、あたしを推薦したんですか?」

練習の合間に思い切って訊ねてみた。先輩はあたしの言葉に驚いたような顔を見せた。

「どうしてって。そりゃあ、頑張ってるからさ」

「でも、あたしなんて…まだ、練習不足だし、チビだし、筋力もなくて、まだまだ鍛えなくちゃいけないし……」

先輩は澄ました顔であたしに言った。

「努力してる人を推薦することは、悪いことなのかなぁ?」

その言葉に何も言い返せなかった。確かに努力はしている。けれども、努力と呼べるようなものでもない。

「まぁ、いいじゃないか。みんな、認めてくれたし、頑張ろう」

いつもの笑顔に、もう、何も言えなくなった。そう、その時、初めて先輩の瞳を見ることができた。


 先輩の伴走で自己ベストを更新できた時は、奇跡のようにも思えた。自分の中に違う自分がいるようにも感じられるようになった。こんなにも、あたしは、あたしのために、頑張れるものなんだと、初めて知ることができた。

 ほんの、小さな動機で入った陸上部なのに、こんなにも、熱中できるなんて。

 息を切らして見上げた先輩の笑顔は、忘れたくても、忘れられない。

 いつの間にか、周りのみんなもあたしを認めてくれるようになった。励ましの言葉が、日に日に多くなっているように感じた。

 みんなが、期待してくれている。そう思うことで、一層、励みになった。


 速い。ペースがきつい。少し落として、様子を見るべきかもしれない。でも、前へ。少しでも、前へ。


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