白景 -3
はじめは少し遠慮がちに男女分かれてリフトに乗ったりしていたが、いまは皆時々のタイミングでリフトに乗り、それぞれと話が弾む。みゆきは背も高くウエアの映えるちょっとモデルのような雰囲気を持っている。見た目とは少し違って人見知りだが話してみると落ち着いた話しぶりながら会話が面白い。ユキは細身で華奢だが喋り始めると実のところ話好きで子リスのような動きがかわいらしい。アキはみなかみで会ってはいたが、友人たちといると、面倒見の良さが際立つ。
「メシにしようぜ。」
「お腹すいたあ。」
史也が言うのを皮切りに各々が昼食への期待を口にする。今日は靖之が以前来たときに美味しかったという店にアキと靖之の先導で向かう。どうやら和人の少ない知識とは違って、ゲレンデ直営のレストランだけではなく、リフト乗り場付近にはいわゆる個人店の食事処もあると言う。たしかにこれだけ広大なスキー場で歴史もあるとなると新しい発見がいくつもあって面白い。
ここは丼ものにカレーにピザ、ゲレ食の定番がそろっていて入る前からその漂ってくる香りに食欲がそそられる。しかもそのすべては手作りというから目の前の混雑ぶりもよくわかる。
「ここの豚丼が美味くてさ。」
靖之が漫画のような仕草で舌を出すのがおかしくて、少しの待ち時間も苦にならない。
「おれが運転するからビール飲みなよ。」
と気を使ってくれるのがうれしい。もちろん夜は靖之には一杯飲ませるつもりだが、先に言ってくれる気遣いは本当にありがたい。
「女子は誰が運転するの?」
和人は気になって聞いた。
「私が運転するよ。そのかわり夜に余力残せるからね。」
アキが頼もしいことを言う。
「酒飲みの鑑だね。」
とみゆきも続けると、ピザを豪快にかぶりついていた隣席の中年男性が、笑いを堪えきれないといった表情をしていた。
今日は史也とアキで相談してペンションを取っておいてくれた。夕食は酒飲み六人が集うとのことで、近くのアメリカンバーを予約してあるらしい。
アキの先導で、雪に覆われて狭く感じるほどのペンションの駐車場に着く。白馬は雪を掻いて積んであるその雪まで軽そうに見える。すこしチェックインまでの時間があったので、荷物を置かせてもらえるよう聞くため、史也とアキがペンションに入っていった。
残された四人は駐車場の側で雪合戦を始める。ウエアを着たまま辿りついたのも手伝ってかなり本格的に盛り上がってきた。靖之はスポーツ全般得意とあって、結構な距離からいい球を投げる。ユキもなかなかの上手で和人とみゆきは防戦一方となった。ユキの笑い声にかき消されて聞こえなかったが、アキが出てきて手を振って何か言っている。どうやら荷物を置いて良いこと、乾燥室で着替えても良いこと、など許可を取ってくれたらしい。
「お前ら盛り上がりすぎてこっちの声聞こえてなかっただろ。」
史也が笑いながら言うと、口々にごめんごめんと言いながらも楽しいひとときの余韻を感じていた。
「アキありがとな。」
「アキちゃんありがとう。」
皆が言うと、
「いやいや、交渉したの俺だよ。」
と史也が笑って言う。もちろんそうだろうとは思っているが、皆で史也を弄っている。まだ会って半日だが、楽しい時間を過ごすと仲良くなるのはあっという間だな、と和人は思った。
一面の白い景色が淡い紅に染まるころ、六人はこぞって酒場への道を急いでいる。ダウンジャケットを着込んでいても寒さに首をすくめて歩くようだが、他愛もない会話を楽しんでいるうちにそれらしき店舗が目に入ってきた。
「おっ、あそこかな?」
史也が指差した先にはバドワイザーのネオンサインが光っていた。
「いい感じだね!」
ユキがうれしそうに小走りになって先に行く。
「わたしの名前で予約してあるよー」
アキが言うのが聞こえたのか、小走りのまま右手を軽く挙げてユキが店に入っていった。
「ユキは元気がいいなあ」
和人が言うと、
「ちょっと小動物っぽくてかわいいでしょ?」
とアキが言うので、確かに第一印象通りそうだと思った。
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