恭一は動けなくなってしまった。


 尚隆から連絡を受けて急いできてみると、眼の前には恭一がよく訪れた施設が炎に包まれていたからだ。


 児童福祉施設木場園


 生まれ育った村で起こった事件によって両親を亡くした恭一が妹とともに引き取られた施設である。とはいっても恭一はすでに高校卒業する年齢だったために数ヶ月で施設を出たのだが、妹のほうはそのまま施設で暮らしている。


 施設を出た後に大学へ通いながら働くことになった恭一は週に一回は施設を訪れてきた。そのたびに妹は心から嬉しそうに満面の笑顔を浮かべながら「お兄ちゃん」と呼ぶのだ。もう高校生になる彼女なのだが、その無邪気な笑顔は恭一の癒しになっていた。しかし、最近は仕事のほうが忙しくなり、何週間も訪れていなかったのだ。


 ちょうど仕事が落ち着いたから訪れようかと思ってた矢先に事件は起こった。


 一瞬足を止めた恭一だったのだが、野次馬たちの群れをかき分けながら施設の方へと近づく。




「リーダー!!」


 警察のなかにいる尚隆を見つけると名前を呼びながら彼の方へと近づく。



「寄田。来たか」

 

「リーダー。いったいなにが起こっているんだ!? 瑠璃は無事なのか?」


 らしくなく、恭一は声を荒くする。


「まだはっきりとはわからない。これがただの火事ではないのはお前にもわかるな」



 尚隆は燃え盛る炎を方を見る。



「わかる。わかるさ! これは普通じゃない! この炎は……」


 

「恭一くん!!」


 だれかに呼ばれて恭一が振り返ると、一人の女性が真っ青な顔をして駆け寄ってきた。


「園長?」


「あのこ……」


 園長と呼ばれた女性は、恭一の両腕をつかんだ。


「あの子が……あの子はなに? あの子はなんなの?」


「え?」


 恭一は、一瞬なにを言われたのか理解できずに目を丸くする。だがすぐになにかに気づくと炎のほうをみた。


 ゴーゴー


 ザクザク


 すると炎がまた激しくなっていく。それとともに炎のなかから人影がこちらへ向かってきているのがみえた。


「瑠美?」


 炎から這い出てきた人物が現れるなり、園長が悲鳴をあげながら尻餅をつく。それに気にする余地もなく、恭一は自分の最愛の妹・瑠美を見ていた。


 そこにはかつての無邪気な妹の姿はなくただ憎しみで心を焦がしたような眼差しが向けられていた。


「瑠美?」


 恭一は静かに彼女のほうへと近づいていったのだが、彼女にはまったく反応はなかった。


 まるで、恭一のことを理解していないようであった。


「敵。あんたも敵」


 瑠美が恭一に手をかざした瞬間。その手から炎が放たれ、恭一たちを飲み込もうと襲いかかってきた。


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