「瑠美?」


 恭一がいま眼の前で起こっていることを理解するにはあまりにも情報がなさすぎた。それでも、想像はつく。


これをやったのは瑠美だ。


瑠美が己の能力を用いて施設を燃やしたのだ。


なぜそんなことができるかというと、そういう家系に生まれたからにほかならない。


だから、恭一の一族は人里離れた山奥でひっそりと暮らしていた。


恭一の脳裏には幼いころの妹の姿がよぎる。


無邪気に笑いながら、自分を追いかけていた幼いころの瑠美。


あのころは幸せだった。人里はなれた小さな村。


子供は少なく、自分たち兄弟を合わせても二十人ほどだった。


彼女が村人たちの中で年齢が下だったために、よくかわいがられた。


そんな平凡で平和な時を過ごしていたある日、突如としてそれが出現した。


それの名前がなんというのかはわからない。人の姿をしていて、真っ黒な翼を持つのだから悪魔とも呼ぶべき存在だったのかもしれない。



だから悪魔と呼ぶ。


突如やってき悪魔は不敵な笑みを浮かべながらなにもいわずに村を炎を生み出して焼き払っていったのだ。


自分たちの能力も炎を扱うこと、その悪魔も同じように炎を扱っていることから村のだれかではないかとも考えられたのだが、その姿は村でみた覚えはない。


小さな村だ。


村人全員の顔はわかる。


その顔と一致するものなどいなかった。


ならば、なぜ村を襲うのだろうか。


村人と同じ力で襲うのか。


だれかが問いかける。


すると悪魔は愉快そうに笑うばかりで答えることはなかった。



やがて炎によって家も人も焼き尽くされてしまったのだ。


生き残ったのは、ほんの数人の子供ばかりだった。



子供たちは途方にくれた。


それでも、悪魔に見つかってはならないという気持ちだけが彼らを動かしていった。


逃げたのだ。


生まれ育った村を捨てて子どもたちは悪魔に見つからぬようにして逃げた。


逃げて、逃げて。


分散していった。


だから、生き残った村人がどうなったのかはしらない。唯一わかるのは決して手を離すことがなかった妹だけだ。



その妹が眼の前で業火の炎のごとく激しい憎悪を抱いて立っているのだ。


「あんたは敵」


聞いたことのない冷たく言うと瑠美は炎を生み出し、恭一たちに襲いかかった。



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