尚隆はある施設の前にいた。その施設は炎に包まれており、消防隊員たちが消火にあたっているところだった。そんな火事の現場に尚隆たち警察がいるのかというと警察に“施設が爆破された”という匿名の通報があったからだ。それゆえに出動した尚隆たちだったのだが、駆けつけた頃にはすでに施設は火の海に成り果てていた。


 すでに消防隊がやってきており、中にいる人々を次々と救助している。


 それに並行して消火を試みているようだが、火はまったく消える様子を見せない。


 周囲にはすでに野次馬がたくさん集まっており、彼らが炎に近づかぬように警察は規制線をはって抑え込む。


「火の勢いがまったく弱りません!」


 消防士たちの間から悲鳴があがる。


「芦屋刑事。これはいったいどういうことなんですか?」


 尚隆といっしょにきた後輩の刑事が不安そうにたずねる。



「俺にもわからん。ただ言えるのは普通の炎ではないということだ」


「どんな爆弾がつかわれたのでしょうか」


「それは火が消えないとわからないが、本当に爆弾なのだろうか」


 尚隆はそうつぶやきながらもひとりの少女を思い出す。もしもこの状況を作り出せるとすれば“彼女”ぐらいしか思いつかないのだ。


 この施設のなかで生活しているはずの“彼女”にはその力がある。


(しかし、なぜあの子が?)


 そこまで考えたとき、尚隆は自分に向けられた視線にはっとする。


 ちょうど尚隆の向かい側にいる野次馬たちのなかに炎ではなく確実に尚隆をみている人物がいたのだ。


 銀色の長い髪と長くて黒いコートにシルクハットを深くかぶった男とも女とも言えない中性的な人物。

 

 その顔には見覚えがない。しかし、相手の方は尚隆のことをじっと見ている。まるで尚隆のすべてを知っているのだといわんばかりに見てかすかな笑みを浮かべている。


 すこし距離はあったにも関わらず、尚隆にはそう思えてならなかった。


 やがてシルクハットをかぶった人物は背を向けると人混みの中へと消えていく。


 その人物の方へと向かおうとした。しかし、もうすでにどこへいったのかわからなくなっている。


 無駄だとわかると、尚隆はポケットに入れていたスマホを取り出すとルリカへ電話をかけることにした。




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