「今日未明。会社内で女性の遺体が発見された」

 

「それって、昼間のニュースでやっていたやつだろう?」

 

 つよしが、資料に眼を通しながらつぶやく。


「ああそうだ」


「でも、いつも思うんだけど、いいのか?これって、警察の資料だろう?」


「はい、そこ黙ってなさい!」

 

 詩歌は、再び健の頭を殴りつける。


「いちいち、殴らなくてもいいだろう~」


「あんたがあほだからよ!!」


 そういって、詩歌はそっぽをむいた。


「おまえら、人の話をきけ」


 尚隆は、頭を抱えながらあきれたようにため息をついたがすぐに気を取り直して、話を続けることにした。


「そう。みんなも知っていると思うが、その女性の遺体の様子が変わっていた。まるで獣にでも襲われたかのように噛み砕かれている。目撃者であるそこの会社員は大ザルが殺したらしい。まあ、混乱していたから、彼の言葉を信じるものはいなかったみたいだけどな」


「でも、リーダーたちは信じたんやろう?」


 淳也が尋ねると尚隆は頷く。


「まあ、信じるもなにも、日常茶飯事だし~」


「だから、そこ黙ってなさい」


 つよしの言葉に詩歌は激しく突っ込みを入れた。


「はいはい。そこ夫婦漫才はしない」


「だれが!?」


「そうかい?」


 あからさまに否定する詩歌に対して、健は心から嬉しそうに笑う。


「だから、話をそらすなよ。おまえら」


 詩歌たちはまじめに尚隆のほうへと視線を向ける。


「おれも現場をみたからな。あれは、確かに獣に食い殺されていた。それに、気配は残っていた」


「『核』の?」


「ああ」


「もし『核』だとしたら、処理する必要があるわけだね」


大吾は、食器を拭いていきながら、のんびりとした口調でいった。


「そう。あの社員の話によると社長の服を来た化け物が女性を食ったらしいわ」


「怪しいのは社長ってことやな」

 

 淳也の言葉に尚隆が頷く。


「ああ。、おそらくはその社長が『核』に取り付かれたんだろう」


「そんで、社長が女を殺したちゅうわけか~。そんでその社長は、どないしたんや?」


「行方不明だ」


「行方不明!?」


詩歌は思わず声を上げた。


「ちょっとまてや! それじゃあ、処理できへんやないか!?」


「大丈夫だよ。ねえ、健くん」


 大吾が、にっこりと微笑みながら健のほうを見た。健はしばらく、なぜ自分をみるのか把握できていない様子できょとんとしていた。


「あ! そうだったわ!!」


 それに気付いたのは、詩歌のほうだった。健は詩歌へと視線を向ける。


「サイコメトリーか」


 詩歌がいうまえに、恭一がつぶやいた。そのつぶやきに、ようやく健が気付いた様子で、そうかとぽんと自分の手のひらをこぶしでたたいた。


「そうか! おれか!」

 

 なるほどなるほどと、納得したようにうなずいた。


 こいつ本当に馬鹿だと、詩歌は隣にいながら改めて思う 。


「それならば、決まりだな。今回の担当は、嶽崎たけざきだ」


「おう! まかせとけ!!」


 健は張り切って威勢の声を上げた。


「嶽﨑くんだけでいかせるの? 尚孝?」


 尚隆の隣にいたルリカがこっそりと耳打ちする。


 そうだなあと尚隆が周囲をみた。


 尚隆が指名するよりも早く、健は隣にいた詩歌の肩にぽんと自分の手を乗せる。


「じゃあ、詩歌と組むぜ」


「え? 私!?」


 冗談じゃないといわんばかりに、詩歌は自分を指差した。


「いいじゃん。いいじゃん! 組もうぜ!」


 健がまるで子犬のように、詩歌に抱きつこうとした。しかし、その前に詩歌は健の顔を押して強引に離した。


「止めなさい! 馬鹿男!」


「いいじゃないか~。俺たち愛し合っているんだからさ~」


「だれがよ! 私と付き合おうなんて百万年早いわよ!!」


「くすん、いけず。俺、泣いちゃう」


「勝手に泣けば……。リーダー。私こいつと組むのは絶対にいやです」


 詩歌ははっきりと告げた。


 それには尚孝も苦笑する。


「まあ、そういうな。一緒にいってやれ」


 リーダーの言葉に、詩歌は思わず絶句する。


 冗談じゃない!


 なんで、あんな最低なやつと組まなければならないのよ!!


 どうせ組むなら……。


 詩歌は、目の前にいる尚隆のほうを見た。けれど、尚孝は、そんな詩歌の視線など気付いてはいないようだった。


「そういうわけで~。行こうぜ! 詩歌!!」


「あ! ちょっと!嶽﨑!」


 健は、詩歌の腕を掴むと強引に引きずって外へと出て行ってしまった。


 その様子を他のメンバーたちが見ていた。


「騒がしいやつらだ」


 恭一があきれたようにつぶやいた。


「さてと、俺たちも行くとするか」


 尚隆は残っていたメンバーたちを見回しながらいった。


「結局はおれたちもいくんやな」


「当たり前だ。嶽﨑も赤城さんもまだ素人だ」


「それにしても、どうして素人の二人に先人きらせるんだい?」


 大吾の言葉に尚隆は黙り込んでしまった。


「まあいっか。僕たちはリーダーの命令に従うだけだよ」


 大吾がそういって微笑む。


「よし、いくでえ」

 

 純也と恭一が出ていく。


「僕は店を閉めてから行くよ」


「ああ、済まないな」


 尚隆も彼らに続いて店を後にした。


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