⑤
「ここか~」
先に向かった詩歌と
いまはまだ昼間で警察が会社内をうろついている。
「けど、どうやって入るんだ? 警察がたくさんいたら入れねえだろう?それとも、芦屋さんの口利きがあるのか?」
「あるわけないじゃない。基本的に私たちの存在は秘密なのよ。いくら、警視庁の管轄内にあるとはいえ、警察内部でも知っている人は限られていることわかっているの?」
「わかっているよ。一応、芦屋さんに教わっているんだよ」
健は、少々機嫌悪そうにつぶやく。
「じゃあ、どうするんだよ」
健は難しい顔をする。その様子をみて、なぜ自分を先に行かせたのかを理解した。
なるほど、そういうわけだったのね。
ため息をつくと、詩歌は背負っていたリュックを下ろすと開いて中に手を入れた。
「どうしたんだ?」
「改めて思うわ。私のリュックはドラえもんの四次元ポケットね」
「はあ、なんだよ。それ......」
やがて、リュックの中からスプレー缶を取り出した。
「なんだよ。スプレーなんて出してさ」
健は、怪訝そうに詩歌を見る。
「すぐにわかるわ」
そういうと、詩歌は容赦なく、健にスプレーを吹きかけた。
「うわっ! なにするんだよ!?」
「うるさい、黙っていなさい」
健は突然のスプレー攻撃で、思わずむせてしまった。
「はい。自分の手を見て」
詩歌に言われるままに自分の手を見る。見たはずなのだが、そこには手などなかった。
あるはずなのに・・
見えない。
これはどういうことなのだろうかと、健は怪訝そうに詩歌へと視線を向けた。
「これはねえ。すけるスプレーなの」
「へっ?」
「だから、吹きかけられたものは、一定期間透明になれるという優れもの。でもね。時間が限られているのよね。だから、急ぐわよ」
そういうなり、詩歌は自分にもスプレーを吹きかける。
詩歌の身体は、スプレーを吹きかけた箇所から透明になっていき、たちまち見えなくなっていった。
「おい、詩歌、これじゃあ、お互いがみえないじゃん。こういうのって、お互いに見えるのを開発してくれよ」
「うるさいわねえ。とにかく、行くわよ」
「でもさあ。詩歌」
「気配で感じなさい。気配でっ! いくわよ」
そういって、詩歌は会社へと向かって歩き出す。
「おい、詩歌。いくのか?」
「もういっているわよ。あなたも歩きなさい。とりあえず、社長室にいくわよ」
詩歌は、健の言動に少々苛立ちを覚えながら先へと進むことにした。
健はちゃんと自分の後をつい着ているのだろうか。
そんなこと気にしている場合ではない。
とにかく、先を急がないといけない。
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