「ここか~」


 先に向かった詩歌とつよしは、会社の入り口のところで見上げていた。


 いまはまだ昼間で警察が会社内をうろついている。


「けど、どうやって入るんだ? 警察がたくさんいたら入れねえだろう?それとも、芦屋さんの口利きがあるのか?」


「あるわけないじゃない。基本的に私たちの存在は秘密なのよ。いくら、警視庁の管轄内にあるとはいえ、警察内部でも知っている人は限られていることわかっているの?」


「わかっているよ。一応、芦屋さんに教わっているんだよ」


 健は、少々機嫌悪そうにつぶやく。


「じゃあ、どうするんだよ」


 健は難しい顔をする。その様子をみて、なぜ自分を先に行かせたのかを理解した。


 なるほど、そういうわけだったのね。


 ため息をつくと、詩歌は背負っていたリュックを下ろすと開いて中に手を入れた。


「どうしたんだ?」


「改めて思うわ。私のリュックはドラえもんの四次元ポケットね」


「はあ、なんだよ。それ......」


 やがて、リュックの中からスプレー缶を取り出した。


「なんだよ。スプレーなんて出してさ」


 健は、怪訝そうに詩歌を見る。


「すぐにわかるわ」


 そういうと、詩歌は容赦なく、健にスプレーを吹きかけた。


「うわっ! なにするんだよ!?」


「うるさい、黙っていなさい」


 健は突然のスプレー攻撃で、思わずむせてしまった。



「はい。自分の手を見て」

 

 詩歌に言われるままに自分の手を見る。見たはずなのだが、そこには手などなかった。


 あるはずなのに・・


 見えない。


 これはどういうことなのだろうかと、健は怪訝そうに詩歌へと視線を向けた。


「これはねえ。すけるスプレーなの」


「へっ?」


「だから、吹きかけられたものは、一定期間透明になれるという優れもの。でもね。時間が限られているのよね。だから、急ぐわよ」


 そういうなり、詩歌は自分にもスプレーを吹きかける。


 詩歌の身体は、スプレーを吹きかけた箇所から透明になっていき、たちまち見えなくなっていった。


「おい、詩歌、これじゃあ、お互いがみえないじゃん。こういうのって、お互いに見えるのを開発してくれよ」


「うるさいわねえ。とにかく、行くわよ」


「でもさあ。詩歌」


「気配で感じなさい。気配でっ! いくわよ」


 そういって、詩歌は会社へと向かって歩き出す。


「おい、詩歌。いくのか?」


「もういっているわよ。あなたも歩きなさい。とりあえず、社長室にいくわよ」


 詩歌は、健の言動に少々苛立ちを覚えながら先へと進むことにした。


 健はちゃんと自分の後をつい着ているのだろうか。


 そんなこと気にしている場合ではない。


 とにかく、先を急がないといけない。


 

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