⑥
会社内に入り、警察関係者とは何度もすれ違った。しかし、だれも詩歌たちの存在に気づいた者などいない。
「ここね」
「警察はいないみたいだな」
いつの間にか姿が元に戻っている。
どうやら、途中で時間切れになったようだ。
ちょうど社長室の前にたどり着いたうえに人の気配がまったくなかったために、突然現れた少年たちに驚くものはいなかった。
だからといって油断は禁物だ。詩歌たちは周囲に人がいないことを再確認する。
「
詩歌が、
「特になにもねえなあ。よし、中に入ってみよう」
「ちょっと、嶽崎!」
「大丈夫だって。中に人はいねえよ」
健は、何のためらいもなく社長室の扉を開く。
確かに健の言ったとおり社長室の中には、だれもいなかった。
ただ、社長室の中は無残にも荒らされており、窓際にある社長の机あたりには血がべっとりとついているという、惨劇があった様子がそのままで残っていた。
そして、発見された女性を示すようには人型に張られた白いテープの付近がもっとも多く血がついていた。
「嶽崎……」
「わかっているって。なんか強烈なやつ、見られそう。なれているけどっ!」
健は右手をテープの張られた付近において目を閉じた。
頭の中で映像が流れ込む。
社長らしき男が突如として全身に毛をはやし、歯が鋭い牙となり、化け物へと変貌を遂げる姿である。
化け物は女性を食らう。
そして、あの社員が青ざめた顔で逃げさる姿。
化け物は女性が絶命するのを見届けると再び社長の姿へと戻った。
「嶽崎?」
健はハッとする。
「どうだった?」
「わかった。やはり、社長が『核』に取り付かれている」
「場所は?」
健は、その質問に口を閉じると困惑気味に頭をかいた。
「まさか、わからなかったわけ? この役立たず!」
「うるさいなあ! 仕方ないだろう~。女の残存思念が強すぎるんだよ!」
「なによ! それ! それでもサイコメトラーなの!」
『赤城、嶽崎』
突然、尚隆の声が耳にはめられた通信機から聞こえてくる。
「リーダー!」
健はすぐに反応した。
『どうだ? わかったか?』
「まだっす。なんか、女の残存思念が強いらしくて邪魔されちまう。」
健は愚痴る。
『弱音を吐くな、とにかく、部屋中をサイコメトリーしろ!』
「ちょっ……」
通信がプツンと切れる
「リーダー。それはないだろう」
「早くしないと警察が戻ってくるわよ」
「ちっ!」
健は舌打ちをすると仕方なく部屋中をサイコメトリーすることにした。
その間、詩歌はというと、部屋へ人がこないかと持参した特殊電子手帳で部屋周囲をチェックすることにした。
「詩歌。まだ大丈夫か?」
「ああ。いまのところは警察も近寄っていないみたい。けど、時間の問題ね」
「わかっている。」
詩歌は手当たりしだいにサイコメトリーしているために汗がにじみ出始めている。
「詩歌!」
突然、健が声を上げた。
「どうしたの?」
健が振り返るとその手には手帳が握られていた。
「わかったぞ! 社長の居場所!」
「どこ?」
「警察だ!」
「え?」
詩歌は顔を歪めた。
「この手帳から社長の思考が読み取れたんだ。社長は目撃者を殺そうとしている!」
「え!」
『それは本当か?』
再び通信機から尚隆の声が漏れる。
「本当だよ。リーダー! 急いだほうがよさそうだ!」
『わかった! 俺たちは先にいく』
「わかった。おれたちも早くいくから!」
通信は再び切れた。
「詩歌! 行くぞ!」
「うん! わかった」
詩歌と健は急いで社長室を出て行くと、非常階段を駆け下りようとした。
「嶽崎?」
突然、健がよろめく。
「大丈夫?」
「大丈夫だ。ちょっと力を使いすぎただけだから……それよりも急ごう」
健は立ち上がると階段を駆け下りた。
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