第18話 話し合いまでの時間
話し合いの結果次第で、戦争が始まる。
簡単に決めたことでは無いと思うけど、それでも裏切られたような気分だった。
勇者の生死が分かるまでは攻撃を仕掛けないと言った時、俺は安心していた。
やっぱり魔王は優しいんだと、感激さえも覚えていたのに。
でもやっぱり、魔物であることに変わりはなかったようだ。
もしも戦争だなんて事態になったら、俺はどっちの味方をすればいいのだろう。
前までだったら人間側だと即答出来たけど、今は答えに 今年も迷ってしまう。
それぐらい魔王達には優しくしてもらっていて、大きな恩があった。
勇者が魔王軍についたら、それこそ裏切りだ。
そうなれば、今度こそ完全に殺されるだろう。
俺が死ぬのは別にいい。どうせ運良く生き残った命だ。
でも、誰も死んで欲しくない。
人間も魔物も、誰も。
甘いと言われようがなんだろうが、これが俺の本音である。
だから話し合いは上手くいって欲しいし、出来れば話し合いすらも行われて欲しくはない。
それでも俺が止められるものでは無くなっているから、誰も傷つかない道に進めるように力を尽くそうと考えていた。
「魔王、お願いがあります」
パーティーの後、にわかに忙しくなった魔王に、時間の合間を縫って俺は話しかけた。
「どうしたの? そんなに改まって」
俺の様子がいつもと違うのに気づいたようで、魔王も真剣な顔をする。
これから頼むことは、とてつもないわがままだ。
普通であれば、良いと言われるわけが無い。
でも俺に甘い魔王だったら、もしかしたらオッケーを出してくれるかもしれなかった。
「この前、人間と話をするって言ってましたよね」
「そうだね。使者を送って返事が来たから、五日後に話し合いをすることになっているよ」
「五日後……」
もう話はそこまで進んでいたのか。
ここまで来たら、話し合いを止めることは無理である。
「向こうがこの城に来るらしい。生産的な話し合いが出来ることを期待しているよ。でも、それがどうしたの?」
向こうがこっちに来るのなら、俺の頼み事にとっては都合が良い。
「……俺も、その話し合いに参加したいです」
この話が出てからずっと考えていた。
俺に出来ることは何か、何をするべきなのか。
そして考えついたのが、話し合いに参加していい方向に結果を進める役割を果たそうというものだった。
俺は魔物のことも人間のことも知っていて、和解を望んでいる。
険悪な空気になる前に、ストップをかけられるのではないだろうか。
それに最悪泣き落としをすれば、甘い魔王は戦争なんて考えを捨ててくれるかもしれないという打算もあった。
「話し合いに? どうしてそんなことを考えたの?」
「それは、えっと、この話し合いの結果次第で人間に戦いを挑むって言ったじゃないですか」
「そう言ったね」
「俺はその話し合いの経緯と結果を、ちゃんと自分の耳で聞かなきゃいけないと思ったんです」
「……そう」
魔王からしたら、こんな子供が何を言っているんだっていう話だろう。
大人の話に首を突っ込むなと思ったかもしれない。
それでも引くことは出来なかった。
俺の必死な願いを聞き、口元に手を当てて考え込む姿からは、駄目だと言われそうな雰囲気があった。
もしも駄目だと言われたら、どうやって駄々をこねようか。
相手にとっては嫌なことを考えながら、俺は結論を待った。
「……どんな危険があるかは分からないから、その場にいることは許可出来ない」
「でも!」
「ただ、隣の部屋でこっそり話を聞くのなら……それなら許す」
出来れば、その場にいたかった。
でもそれを言ったら、隣の部屋で聞くことさえも許可してもらえなくなるかもしれない。
ここは完全なものじゃなくても、受け入れた方が賢い選択だ。
「分かりました」
もしも何かあれば、隙を見て乱入出来る。
心配している魔王には悪いが、俺もなりふり構っていられなかった。
五日後、この世界の運命が決まる。
どの結果に転んだとしても、俺はもう逃げない。
◇◇◇
じれったくなるような時間の経過の遅さに、何度もプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
夜も上手く眠れなくて、子供には似つかわしくないクマが出来てしまい、みんなをかなり心配をかけてしまった。
大丈夫だと誤魔化したけど、体調不良だと話し合いを聞かせてもらえないと思い、眠り魔法をかけて無理やり自分を寝かしつけた。
倒れるのは嫌だったから、この魔法は重宝した。
そのおかげで万全とは言えないけど、及第点の体調で当日を迎えることが出来そうだ。
いよいよ明日、話し合いがされる。
城の中もどこかそわそわとしていて、四天王以外の魔物の姿も見かけた。たぶん、何かがあった時のためだろう。
落ち着かない空気に充てられてしまい、夜になっても俺の睡魔はどこかに吹っ飛んだ。
これは寝られない。
でも、寝ないと明日に支障が出る。
眠り魔法をかけることも考えたけど、この魔法には欠点がある。
それは起きる時間を設定出来ないことだ。
これまでは何時に起きたとしても、たとえ寝坊したとしても怒られはしなかった。だから時間が設定出来なくても困らずに済んだ。
でももしも明日俺が寝ていたら、絶対に起こされることはないという予感があった。
それは優しさ半分、俺を話し合いに巻き込みたく無い気持ちが半分といったところだろう。
頑張って眠るしかない。
俺は部屋から出て、少し歩くことにした。
城の中は静まり返り、まるで自分が一人なのかというような気持ちになる。
明日の結末次第で、俺はまた一人になるかもしれない。
どうなったとしても、誰も憎まずにいよう。
そうは思っても、一度優しさに触れてしまった今は、孤独がとても怖かった。
人間としてか、魔物としてか。
未だにどちらを選ぶか、俺は決めかねていた。
フラフラとあてもなくさまよっていたら、気がつけばキッチンのある廊下にいた。
ホットミルクでも飲んで落ち着こうか。
俺は中に入ろうとして、そして固まった。
部屋の中には魔王がいた。
ゴソゴソと戸棚をあさっている後ろ姿だったけど、すぐに分かった。
俺は中に入るべきか迷って、部屋の入口で立ちつくす。
そのまま立っていると、背中を向けたままの魔王が声をかけてくる。
「そこは寒いでしょ。中に入りな」
俺の気配は、すでに気づかれていたらしい。
中に入れと言われたら迷う必要は無かった。
俺はそっと中に入り、魔王の元に近づいた。
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