第5話 四天王最弱? そして悪魔





 そろそろ目を開けたいのだけど、まだ許可はもらえないのだろうか。

 というか、バメイさん? はちゃんと生きているのだろうか。

 俺が傷つけられたわけじゃないのに、体が勝手に震えてしまった。



「ユウたん、目を開けても良いよ」


「えっと……いいんですか?」


「そーっとね。何も怖くないから」



 不安になりながら、そっと目を開いてみるとバメイさんの姿がまず視界に入った。

 想像していたみたいな悲惨な感じじゃなくて、少し焦げているけど無事そうだ。



「たっく、冗談だろ。これ、服が燃えるから嫌なんだよな」


「お前が悪い。冗談でも先程の言葉は許さないからな。分かったか」


「へーへー、俺が悪かったですよ」



 二人の軽いやり取りに、さっきの攻撃は日常茶飯事だと知る。


 良かった。

 もう仲違いとかだったら、このままここにいていいのか不安になるところだった。



「あー、いってえ。ストレス解消に俺を使うのは止めてくれよな」


「自業自得だ。話をきちんと聞いていなかったお前が悪い」



 冷たい話し方をしている、こっちが本当の魔王なのだろうか。

 それともこっちが仕事モードで、デレデレなのが本性か。


 二人が話しているのを聞きながら、俺はバメイさんの姿を観察するように見た。

 魔王ほどじゃないけど、とてつもなく大きい。

 そして全身を覆う毛と鎧は、力強さを表しているようだ。


 今は面倒くさそうな表情で、頭をガリガリとかきながら、魔王と話をしている。

 魔王の強力な魔法を受けても無事なのだから、とても頑丈なんだろう。

 そういえば弱点以外は、攻撃が効かないと聞いたことがあった。



 俺の視線を感じたのか、バメイさんと目が合う。



「よお」


「こ、こんにちは?」


「そんなに怯えなくていいぞ。さっきのは冗談だからな。今日からこの城にいるんだろ?」



 怖くて野蛮な性格だと勝手に判断していたけど、そこまで酷い感じじゃ無さそうだ。

 たぶん子供が苦手なのは本当で、どう対応したらいいのか分からないんだろう。

 不器用なんだと知れば、そこまで恐怖心は抱かなくなった。



「あの、俺の名前はユウです。バメイさん、よろしくお願いします」


「ん、まあ、よろしく」



 きちんと挨拶すると、そっぽを向かれてしまったけど、ちゃんと返事があった。

 嬉しくなって顔が緩んでいたら、体がしめつけられる。



「ぐ、ぐえ」


「ユウたん! どうして、そんな可愛い顔してるの!?  バメイなんて、四天王の中でも一番弱いんだからね!」



 犯人はもちろん魔王で、俺がバメイさんと話していることに嫉妬したのか、勢いよく抱きしめてきたのだ。

 魔王からしたら軽い力なのかもしれないけど、俺からしたら下手すれば死ぬ強さである。


 というか、四天王最弱って。

 本人を前に言うことだろうか。

 そういうのは駄目だと言いたかったけど、その前に死にそうだ。


 魔王は文句を言うのに意識がいっていて、俺の様子に気がついていない。

 こんなところで死ぬとは、全く予想だにしていなかった。



「おい、魔王様。そいつ死にかけてないか?」


「あはは。そんなわけ……ってユウたん!?  ユウたん!?」



 耐えきれずに意識が暗くなった俺は、魔王の必死な声に答えを返すことが出来なかった。





 ◇◇◇




「かっわいいー! 食べちゃっていーい?」


「しー、静かに。ユウたんが起きちゃうでしょ!」


「ユウちゃんかあ。名前まで可愛い!」



 なんだか騒がしい。

 せっかくいい気分で寝ていたのに、あまりにもうるさいから、俺はむずがるように体をひねった。



「わっ! 動いたよ! やっぱり可愛い!」



 そのまま寝ても良かったけど、ここが魔王城だということを思い出す。

 それなら今話しているのは……。

 寝ている場合じゃないと、俺は起きることにした。


 眠気と必死に戦い、ゆっくりと目を開ける。

 それに気づいたのか、声がさらに騒がしくなった。



「あっ、起きちゃう起きちゃう。え、え、どうしよう!」


「落ち着きなさい。ユウたんが怯えるから」


「はーい、ごめんなさい。……うー、でも、こんなに可愛い子初めてなんだもん」


「それは分かるけど。ユウたんは可愛すぎて、世界を救うレベルなのは分かるけど」



 いや、全然分からない。

 世界を救うレベルの可愛さとは、一体どんなものなのだろう。

 そんな大層なものじゃないのは、自分が一番知っている。


 声で何となく、魔王と誰がいるのか予想は出来ていた。

 頭に感じる柔らかさを気にしないようにしていたけど、目を開けたことで理解してしまった。



 膝枕をされている。

 しかも女性に。

 顔よりも先に大きなものが目に入って、一気に体が熱くなった。



「……う、あっ!」


「どーも、初めましてー。私の名前はガリーナ。よろしくね。顔真っ赤っかだけど、どうしたのー?」


「えっと、えっと……ユウです」


「知ってるよー。ユウちゃん。私のことはリーナって呼んでね」



 語尾にハートマークがつくような言い方でウインクされたけど、俺にとって重要なのは名前でも何でもない。



「お、俺寝ちゃってて。ごめんなさい、すぐにどきますっ」


「えー、まだ寝てていいんだよ? ぐっすり寝るぐらい疲れちゃってんでしょ? ゆっくりしなー」


「ひゃ、ひゃい」



 頭を撫でる手は優しいけど、今の俺にとっては辛い。

 いくら子供だからといっても、この状態が続くのはまずい気がする。


 俺は助けを求めるために、近くにいる魔王に顔を向けた。



「いいなあ。リーナ。我もユウたんに膝枕したい! してもらうのも可!」


 駄目だ。

 全く助けが期待出来ない。


 自分の力で何とかするしかなくて、どうするべきか考える。



「ふふふ。ユウちゃんは可愛いねー」



 四天王の紅一点。

 その最大の特徴は、大きな黒い羽とその露出の高さだ。


 布面積をギリギリに設定しているんじゃないかというぐらい、季節関係なく薄着で、その残虐性に目をつむれば密かに人気があった。

 もちろん男性人気だけ。


 膝枕をされていると分かったら、羨ましいと言われるんじゃないか。

 しかも何故かすでに向こうからの好感度が高くて、慈しむように頭を撫でられていた。



「魔王様。ユウちゃん、私もちょっと食べていーい?」


「分かっていて言っている?」


「えー! 男の嫉妬は醜いわね」



 よしよしと撫でられたまま、俺は動くことが出来ず固まっていた。

 それを見て何を思ったのか、リーナさんの顔が近づいてくる。



「ユウちゃん、ちゅー」



 ぷちゅっという効果音が聞こえるぐらい、まるでペットにでもするかのような気軽さで、俺はキスをされた。



「ゆ、ユウたんのファーストキスが!!」



 一部始終を見ていた魔王の叫び声をBGMに、俺の意識は再び遠のいていく。




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