第4話 お泊まりパーティー?




 ランハートさんは、とても世話焼きな人だった。


 お泊まりパーティーというのを受け入れたかと思えば、そこからは目まぐるしいスピードで準備をし始める。



「食事は? まだとってないんですか? 何か食べられないものあります?」


「な、無いです」


「よろしい。見たところ、まだ子供のようですからね。軽いものを用意させましょう」


「ありがとうございます?」



 次々に決まっていく早さにに目を白黒させながらも、何とかお礼を言う。

 そうすれば、ふっと優しく笑って、また頭を撫でてくれた。



「遠慮しなくていいんですよ。子供なんだから、たくさんわがままを言っていいんですからね」


「う……はい」


「ランハートばっかりずるい! ユウたん、我にもいっぱいお願いしてくれていいんだよ!」


「は、はいっ」


「魔王様、ユウたんさんが飛ばされますから、もう少し落ち着いてください」


「わわっ、ごめんねユウたん」



 抱っこしてもらっているのはいいけど、元々の体格差があるから、まるでおもちゃにでもなったような気分だ。

 ランハートさんの忠告のおかげで、鼻息で飛ばされるなんてことは無くなったから良かったが、落ちたら大惨事である。俺はそっと胸を撫で下ろした。


 それにしても、魔王だから一番偉いのかと思えば、立場的には部下のはずのランハートさんに頭が上がらないように見える。

 もっと殺伐した関係をイメージしていたから、思っていた魔物と違いすぎて混乱しそうだ。

 本当に倒すべき存在なのかと、そう考えてしまう。



「そういえば魔王様。ユウたんさんを招き入れたことを、他の者にまさか伝えてありますよね?」


「ぎくぅっ!!」


「……魔王様?」



 言葉だけで、ここまで人を威圧することが出来るなんて知らなかった。

 魔王に向けられたものなのに、俺もつられて肩がはねた。

 魔王なんて汗がダラダラと流れていて、目をそらしている。完全に後ろめたいと言っている証拠だ。



「えーっと、それはですね」


「分かっていますよね? 全員が全員、話の通じる者ばかりじゃないことは。ユウたんさんを客人とするならば、きちんと紹介しておかないと、危険な目にあわせることになりますよ。そこら辺、理解なさっていますか?」


「……おっしゃる通りです」


「それなら、すべきことは言わなくても、もう分かっていますよね」


「はい! 今すぐユウたんを紹介してきます!」



 どちらが上なのか分からないやり取りを終えると、魔王は俺を抱え直して元気良く部屋を飛び出した。

 その背中に、ランハートさんの言葉がかけられる。



「それでは、私は準備をして待っていますので、お気をつけて」



 それは魔王に向けられたものなのか、それとも俺になのか、俺のところからは顔が見えなかったから判断出来なかった。





 ◇◇◇





「うーん、どうしようかなあ?」



 魔王は俺を抱えたまま、転移魔法を使うことなく廊下を進む。

 使った方が早いんじゃないかと聞けば、一日に何度もすると気持ち悪くなっちゃうでしょう、と言われたのでどうやら俺に気を遣ってくれたらしい。


 大事に扱われることに慣れなくて、俺は口をもにょもにょと動かしてごまかした。



「ユウたんは、腹黒と熊と悪魔のどれがいい?」


「えっ?」



 なんだその選択肢。全部嫌だ。

 今から行こうとしているところの予想が何となく出来て、顔が引きつった。


 腹黒、熊、悪魔、それは四天王の残りの三人に特徴が当てはまっている。

 三人共、癖のありそうな性格で、そして容赦がなかった。


 いくら魔王の提案とはいえ、挨拶しに行ったら気分次第では殺されてしまいそうだ。

 身の危険を感じて、俺はそっと魔王に擦り寄った。



「こ、怖くないところがいいです」



 そんなところはどこにもなさそうだけど、とりあえず言ってみる。


 魔王が守ってくれなければ、今の俺は弱い。

 守ってもらうために、少しだけあざとく言うと、魔王の顔がデレデレと緩んだ。



「大丈夫だよ、ユウたん。怖いことは何も無いからね」



 鼻血は出なかったけど、完全に変質者のそれだ。

 守ってくれるのは確実でも、あまり甘えるのは良くないかもしれない。



「ユウたんのことは絶対に守るし、傷つけられるなんてことは起こらないからね。すこーし挨拶するだけだから。ちょっとだけ我慢出来るかな?」


「はい」



 俺を紹介するためなのだから、これ以上わがままは言えない。

 魔王が一緒にいる心強さに、きっと大丈夫だろうと確信する。



「どこか選べないのなら、近いところから行こうか。ここからだと……あそこかな」



 絶対に選べなかったから、決めてくれて助かった。




 一体誰のところに行くんだろう、そのまま運ばれていれば、すぐに大きな扉の前に辿り着く。



「はーい、とうちゃーく。ユウたん、ちゃんとしがみついていてね。それと、いいと言うまでは絶対に目を開けちゃ駄目だよ。約束出来るかな?」


「約束出来ます!」


「いいこいいこ。それじゃあ、目をつむっって」



 何が待ち構えているのか気になったけど、魔王の言うことを聞いて目を閉じる。

 わざわざ約束をするぐらいだから、開けていたら不都合なことがあるんだろう。


 ぎゅっと閉じていると、優しく笑う声が聞こえてきて、頭をそっと撫でられる。



「行くよ」




 扉を開けた瞬間、魔王の柔らかい雰囲気が一気に冷たいものに変わった。



「バメイ」


「あ゛? なんだ魔王様か……って、何だそれ」



 中は熱気に包まれていて、気合を入れる声と動く音が聞こえてくる。

 魔王が声をかけた途端、音は聞こえなくなって、代わりに威圧されるようなオーラがビリビリと突き刺さってきた。


 異物である俺に、いち早く気がついたみたいだ。



「ガキか。嫌いなんだよな。それとも、殺していいやつか?」



 たぶんだけど、ここにいるのは候補で熊と言われていた人だ。

 戦うのが好き、といった感じで脳筋と呼ばれるタイプである。

 名前はバメイというのか。


 俺みたいなのは、たぶん指先で簡単に潰せる。

 殺せるなんて言われてしまったが、魔王はどうするつもりなんだろう。


 目を閉じながら待っていると、強い魔力を突然感じた。

 そして、叫び声。

 見ていないから分からないけど、多分魔王が攻撃した。

 しかもそれは、軽いものじゃなく殺意の強い魔法だった。



 ……もしかして、殺した?

 ものすごく目を開けたいけど、まだ許可がおりていないから、閉じているしかない。


 ぷすぷすという音と、焦げ臭さを感じながら、まさか殺していないだろうなと信じたい気持ちが、どんどん縮んでいった。




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