第14話
王都アルバの中央広場。辺りには街中には無い露店や屋台などが営業している場所で、街中とはまた違う賑わいを見せる王都の憩いの場所でもある。
「これから、どうしようかな……」
そんな賑やかな広場の風景に似つかわしく無い言葉を吐きながらベンチに座るクロウは呆けた顔で空を見上げていた。
「とりあえず寝る場所は欲しいな……もぐもぐ」
右手に持っていた昼御飯代わりの王都名物アルバ焼きの包みを開いて食べる。味は甘くて少し苦いチョコレート味である。
味覚が子供寄りのクロウにとってお菓子は大好物である。
「オリビアに居候する前まで寝泊まりしてた街外れの教会はもう無くなっちゃってたし……もぐもぐ」
二つ目のアルバ焼きを食べ始める。今度は甘いクリームの味が口いっぱいに広がるカスタード味だ。クロウはアルバ焼きを頬張りながら空から目線を広場に戻す。
(…………?)
ふいにクロウは首を傾げた後、賑やかな中央広場をキョロキョロと眺め始める。
先程までは何も感じなかった中央広場の中に昨日の学園近くの路地裏で感じたピリッとした悪意を感じ取ったからだ。
やがて、視線が一人の男へと止まった。白いスーツに白いスラックス、右手には黒いアタッシュケースを持っている。
(あの人まさか……いや、でも波長が王都の人達と明らかに違う。この感じは――)
――『魔術師』。
間違いなくその波長であるとクロウの脳は告げている。しかし、魔術師は〈魔導戦争〉終結後に王都の地を追われたはずだ。この王都アルバに一人とて居るわけがない。
クロウの視線に気がついたのか、男はクロウを横目で一瞬だけ見ると、足早に広場を後にする。
クロウはその行動に確信めいたものを感じた。
(間違いない。あの人は魔術師だ)
残っていたいちごホイップ味のアルバ焼きを真上に放り投げて一口で完食すると、クロウは魔術師の男を追いかけるように広場を後にした。
◆◆◆◆◆
アニーは一人、自分の部屋の机の上に置かれた資料の表紙を眺めていた。
『次世代レリフ開発計画』
アニーはゆっくりと表紙を開くと、そこには一文でこう記されていた。
『この計画は我々黒の教団が犯した最大の禁忌にして大罪である』
(黒の教団が犯した、大罪?教団は王都を解放した救世主のようなものだって授業では言っていたような気がするけど……)
アニーはさらにページをめくるとそこには数々の人の名前と年齢、性別が記されていた。
(被験者リスト……黒の教団は人を使って何かの実験をしていたの?)
アニーは資料の内容をよく確認する。名前や性別はバラバラだが、ある共通点が一つあった。
(……みんな12、13歳の子供達。こんなに若い人達を被験者にした研究って一体……?)
アニーは嫌な予感がしてしまう。次のページをめくろうとする手が止まる。自分はクロウの過去を知る、受け入れると決めたのだ。
ふるふる、と頭を振って雑念を消し去ると次のページをめくった。
次のページは図解になっていた。イラストで書かれた人の体に色々な線が引かれている。何かの構造を記している。その横には番号付きで手順が書かれていた。
①体内の中央部、心臓のすぐ近くにレリフを装着する。拒絶反応及びレリフの動作が正常に行われているか確認する。
②心臓部のレリフから脊髄を通して全身に魔術を行使する為の極小のケーブルを張り巡らせる。
③脳内に魔力を感知、使用する魔術の候補を瞬時に割り出すチップを埋め込む。
(これって……もしかして――)
アニーは言葉を失った。この研究は大罪などというレベルではない。倫理観を完全に無視した悪魔の所業の様なものだったからだ。
そして次のページをめくると、先程の被験者リストの名前と共に研究の結果が記されていた。
被験者No.1
心臓にレリフを装着後、脊髄にケーブルを繋ぐ段階で麻酔が切れ意識が覚醒。心臓部のレリフに過剰な魔力が供給されたことにより自壊。被験者死亡。
被験者No.2
脳内にチップを埋め込み、最終段階として心臓部のレリフから各ケーブル、脳のチップへの魔力の供給を行ったところ、チップへの負荷が強すぎたことにより脳が損壊。被験者死亡。
被験者No.3
手術は成功。しかし魔術起動時に全身に痛みを訴える。経過観察後、もう一度魔術を起動したところ両腕が破裂。被験者は出血多量により死亡。
(何なの……これ……)
アニーは震えが止まらなかった。ページをめくると、また研究の結果が記されている。
理由は様々だが、全てにおいて被験者は何らかの理由で死亡していた。
実験結果――被験者死亡
実験結果――被験者死亡
実験結果――被験者死亡
何ページにも渡って繰り返される実験と被験者の死亡の数々。
その悪魔のような実験の結果を生々しく記録した資料。
狂っている、とアニーは感じた。これが黒の教団が行っていた裏の真実。
魔導戦争に勝利する為だけに幼い子供達の体を改造し、『人造魔術師』として戦争の兵器として利用する、そういう研究だったのだ。
アニーは恐怖のあまり読んでいた資料を閉じた。
クロウは『人の手によって人工的に生み出された魔術師』という人間でもなければ魔術師でもない完全にイレギュラーな存在なのだと知ってしまったからだ。
(これが……クロウの真実なの……?)
アニーの背筋を冷たい汗が伝う。アニーは『何度読んでも今だに信じられない』というエドワードの言葉を思い出していた。
その通りだった。こんなもの、まず信じることなど出来ない。クロウは紛れもなく人間の形をしている。そんなクロウがこんな兵器のようなものにされているなど想像も出来ない。
アニーはクロウの真実を受け入れようと決めていた。しかしその真実はアニーの想像からはあまりにもかけ離れすぎていた。
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