第4話

 アニーの通う学園『セレニティ術士学園』は黒の教団によって〈魔術戦争〉が始まる前から魔術師達によって支配されていた者達に学びと人生に対する選択の自由を与える事を目的として建てられた学園である。

 通常の授業に加え、レリフの基礎的な扱い方や構造、実戦での運用など幅広い分野を生徒達に教えている。

 校舎は三階建てで敷地面積は王都アルバの建築物としては最大で、国王が住まう城の三倍にも及ぶ規模である。


「はぇー。いつ見ても大きいなぁ。この中を全力で走り回ったり飛び回ったりしたら凄く楽しそう」


 学園を外からまじまじと眺めながらクロウは子供のように目を輝かせながら感嘆する。


「ははは、そんなことをしたらすぐに警備兵の私が捕まえて城まで引っ張っていくので止めておいた方が身のためですよ」


 学園の門の前で子供のようにはしゃぐ不審な人物を見つけた警備兵の青年がクロウの目の前まで歩いてくる。


「うーん、ダメかぁ……ならしょうがないね。あ、そうだ」


 クロウは右手に持っていた可愛らしい装飾の袋を青年に手渡す。青年は訝しげな表情で手渡された袋を見る。


「何ですか、これは?」


「それ、この学園のアニーって女の子に渡しておいてくれない?何か……授業、とかで使うみたいなんだ」


 事情を聞いた青年は爽やかな笑顔を浮かべると、クロウに袋を返してきた。


「そういうことであれば、ご自分で手渡しても構いませんよ。私は警備兵なので、アニーという女の子がどのような人物なのか分かりません」


「じゃあ僕、この中に入っていいの?」


「それはダメです。部外者を一人で学園内には入れさせてはならないという規則があるので」


「何それ。じゃあどうやって手渡せば良いの?」


「ご迷惑だと思いますが私も同行させていただきます」


 そう言うと青年は小型のレリフを内臓した通信機を取り出した。液晶を指先でなぞるようにすると、液晶の上に半透明な地図が浮かび上がる。


「へー、便利だねそれ」


 青年は驚いた顔をしてクロウを見た。〈魔術戦争〉以降、この世界においてレリフを用いた道具や技術を知らない者は一人もいない。ましてやここは王都アルバ、レリフ発祥の地である。それなのにこの少年はそれを知らないと言うのだ。

 不思議な少年だと青年は思ったが、おそらくはたまたま知らない環境で育ったのだろう、と結論づける。

 青年は腰のベルトにぶら下げられた手の平サイズの黒い棒を取ってその先端にレリフが搭載された端末を押し当てる。すると手の平サイズの黒い棒は一瞬で青年の身の丈程の黒い槍へと変化した。


「では、参りましょうか」


警備兵の青年に先導されて、クロウは学園の中へと足を踏み入れた。

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