第3話

(……ん?)


 アニーの通う学園まで後少しというところでクロウはふいに足を止めた。一瞬ではあるが、多くの人が賑わい続ける王都の雰囲気に似つかわしくないピリっとした嫌なものを感じたからだ。

 クロウはキョロキョロと辺りを見回しながら感覚を研ぎ澄ます。


(多分あそこからかな?変な感じがする)


 クロウの視線が一点に止まる。隣接する民家の間にある路地裏の方から嫌な気配を感じる。殺意ではないが、悪意。おそらく何か悪いことが起こっているか、もしくは今から起ころうとしているか。行ってみなければ判断はつかない。


(あまり寄り道はしたくないけど……)


 クロウは確認の為に路地裏へと方向を変えた。路地裏は活気ある王都の雰囲気とは逆にしん、と静まりかえっている。たまに猫の鳴き声やねずみが駆け回る音が聞こえるくらいのものだ。


「ーーい!ーーよ!」


 路地裏を歩いていたクロウの耳に威圧的な声が聞こえてきた。クロウは声のした方へと慎重に向かっていく。


「でも……やっぱり嫌です、もうやめてください!」

「静かにしろ!誰か来たらどうするんだ。さっさということをきけばすぐ終わるんだよ!」


 相手に見えないよう死角となる壁に背を当て、少しだけ顔を覗かせる。そこには所々に金の刺繍が施された灰色の服装をした少年と少女の姿があった。


(あれは……アニーの学園の生徒じゃないか)


「もういい、なら無理やりやらせてもらうからな!」

「やめて……きゃあっ!」


 少年は少女に覆い被さるように跨がると、制服を掴んで引き裂いた。少女の下着が露になり、表情が恐怖に歪む。それを見た少年の鼻息が荒くなる。


(なるほど……そういうことか)


 クロウは途端に興味を失ったように踵を返してその場を後にした。背後からは少年の下卑た笑い声と少女の叫び声が聞こえてくる。

 しかしクロウには何の感情も湧かなかった。思っていた展開と違ったからだ。それに男女とは等しくそういう行為をするものである。生理的な欲求なのだから、それは普通なのだ。


「平和になったなぁ……本当に」


 クロウは期待を裏切られた事に少しばかりショックを受けつつも、路地裏を出て賑わう王都の町を歩きながら一人溜め息をついた。

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