第2話
王都アルバ。
空気中に存在する『魔力』を資源として利用することで栄える大都市であると同時に、100年前に〈魔術戦争〉と呼ばれる歴史上最悪の戦争が勃発した場所でもある。
この世界には遥か昔から空気中に『魔力』という謎の多い物質があり、それを用い不可思議な現象を行使する『魔術師』が少数ではあるが存在していた。
魔術師達は自分達の事を選ばれた存在であると定義し、魔術の使えない者達を皆下等な存在であると見下していた。故に自分達が気に入らない者は殺し、欲しいものは略奪する、という悪逆の限りを尽くしていた。
対して魔術を使えない者達は自分達とは違う強い力を持つ魔術師達に怯えながら生活するしかないという埋めようのない格差が生じてしまっていた。
しかしある時黒いローブを纏った謎の集団、通称『黒の教団』によって空気中の魔力を認識し、それを用いて擬似的な魔術を行使できる装置『レリフ』が開発されたことでその構図は一転する。
魔術師でなくても魔術が使えるようになったのだ。そして黒の教団はその装置を用い、王都アルバの魔術師達に反旗を翻した。
それが歴史上最悪の戦争〈魔術戦争〉の始まりであった。最初こそ魔術師側が優勢ではあったものの、黒の教団は戦争の中でレリフを改良、増産を繰り返す事で戦力を瞬く間に増強することで次第に魔術師達を圧倒し始めた。
そして数十年にも渡る長き戦いの末、当時の王都を支配していたアルバの国王にして歴代最高クラスといわれていた魔術師を討ち倒したことにより戦争は黒の教団の勝利という形で終結した。
この戦争による死者は数千万に及び、この世界の歴史上最悪の犠牲者を出した戦争として世の中に語り継がれることとなったのだ。
「随分と平和になったなぁ……」
クロウは王都の町並みや行き交う人々を眺めながら呟いた。辺りは笑顔で歩く家族連れや、昼間から酒を飲んで上機嫌になっている者、店先で食材を売る商人達の元気な声などが混ざり合い、活気に満ち溢れている。
「おっとと、危ない」
突然クロウは身を翻した。
前から走ってきた子供と危うくぶつかりそうになったからだ。子供はそのまま真っ直ぐ進んで母親にぶつかると幸せそうに母親の体を抱き締める。そんな子供を両腕で抱え上げる母親の姿を見て思わずクロウは笑みをこぼした。
「さて、早くアニーにこれを届けに行かないと。授業までに間に合わなかったら違う理由で怒られちゃうしね」
クロウは可愛く飾り付けられた小さな袋が無事な事を確認すると、アニーの通う学園へと向かうのだった。
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