第1話

「おいクロウ。起きろ」

「ん……おはよう……」

「おはよう、じゃねぇんだよ。お前この店の従業員だろうが。仕事中に寝るな」


 王都アルバの街の片隅にある喫茶店兼酒場『オリビア』。

 一見すると客足の良さそうな外観や内装をしているわりに何故か客がほとんど来ない事で有名な店だ。その店のカウンターで洗い物をしていた店主、エドワードがカウンターでのんきに寝ている少年、クロウを起こした。


「ごめん。やることがないからつい」


 あぅー、と声をあげながら体を伸ばすとクロウは顔を上げる。


「やることが無いなら店の手伝いとか掃除とか色々あるだろ、と言いたいところだがお前にやらせると店がなぁ……」


 エドワードは深い溜め息をつきながら洗った食器を丁寧に棚に戻していく。クロウはその様子を頬杖をついて眺めていた。


「今のところ食器、窓ガラス、机、椅子……後何だっけ?とりあえず良く分からないけど僕がエドの仕事を手伝うとまともなことにならないみたいだし、しょうがないね」


「しょうがないね、じゃねぇんだよ。少しは努力するとかあるだろうに……」


 クロウは屈託のない無邪気な笑みを浮かべているが、対するエドワードの方はクロウによる数々の破壊活動を思い出してまた溜め息をついた。

 そこでふと何かを思い出したようにクロウに顔を向ける。


「そうだ、お前に頼みたいことがあるんだ。アニーが今日の授業に使うとか言ってたやつ忘れてったみたいなんだよ。そいつを学園まで届けてやってくれないか?」


「僕は構わないけど、エドは大丈夫なの?僕がお店を離れても」


「問題ねぇ。手伝いという名目で理由もなく店を破壊されたり何もせずにサボって惰眠を貪られるよりよっぽど都合が良い。お前が本格的に必要になるのは夕方と夜にやる酒場の営業の時だからな。その時間帯までなら俺一人でもなんとかなる」


「それじゃお言葉に甘えて」


「悪いな。ちょっと待っててくれ」


 エドワードはそう言うとカウンターから繋がる通路から店の奥へと進んでいく。少しするとエドワードは右手に可愛らしい装飾をした小さな袋を持って再び店内に戻って来た。


「それじゃ頼むな」


 エドワードは小さな袋をカウンターの上に置いた。クロウはそれを手に取ると、カウンターの椅子から立ち上がる。


「ちゃんと届けろよ。失くしたりとか落として壊したりとかしたら承知しねえからな。アニーはいつもお前に甘いが、俺は甘くないからな」


「心配しすぎだよ、さすがに物を運ぶ事くらいは大丈夫。それじゃ行ってくるね」


クロウは店の扉を開けて王都アルバの街へと繰り出した。

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