鴉の亡霊
五本角
プロローグ
そこはまるで地獄のような有様だった。
辺りの木々は焼け焦げ、民家だった建物はわずかな面影を残して全壊してしまっている。
そして地面にはおびただしい数の死体。そのほとんどが原型を留めていなかった。辺りは血液で真紅に染まり、人間の体を構成していた内臓や腕などがそこらじゅうに転がっている。
「……これで終わりかな」
そんな地獄のような場所にまだ幼さの残る顔立ちをした少年が一人立っていた。
全身は飛散した血液で真っ赤に染まり、右手には一振りの剣を握りしめている。
「鴉、よくやってくれた。後は我々の仕事だ」
野太い男の声が背後から聞こえ、少年は振り返る。そこには黒いローブを纏った鋭い目付きの男が少年を見下ろすように立っていた。
瞬間、空を駆ける数々の人影。皆一様に黒いローブを纏っており、その手には先端が機械的な形状をした棒状の武器を携えている。
「そっか。わかったよ」
少年は笑顔を浮かべる。そして右手の剣を軽く振るうと、踵を返し男の横を通り過ぎていく。男は血に濡れた少年の背中を眺めながら目を細めた。
「我々は決して許されないことに手を染めてしまった……すまない」
こうして一つの戦争が幕を閉じた。大勢の犠牲者を出した史上最悪の戦争。
しかし、この戦争で活躍した血濡れの少年は世に名前を知られる事はなく、その存在は闇に葬られたのであった。
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