第29話 春泉ちゃんをお迎えして

 それからわたしたちは同棲生活をはじめた。布団をすぐに用意できず、なんとか工面して買った。それまでは雑魚寝させてしまって、ずっと辛そうだった。


 進「ごめんね、お金使わせちゃって」

 未咲「ううん、いいよ……こっちも失業手当ちょっと使わせてもらっちゃったし……いいよね?」

 進「えっ?! それは聞いてないけど……」

 未咲「……いいよね?」

 進「そうだね、ごめん……」


 この立場も悪くない。すこし優越感にひたる。


 進「生活するって大変だ……」

 未咲「わかってたらいいよ、こっち来て?」

 進「うん……」


 なんだか子犬みたいでいとおしい。ここでひとり友達を呼ぼうと決心。


 未咲「あっ春泉ちゃんいま暇? よければわたしのおうちに来てほしいんだけど……」


 何とは言わず、それだけ伝えて電話を切る。


 未咲「春泉ちゃんも熱心な進くんファンでね、ふわっとした髪の子覚えてない? サイン会行ったって言ってたから覚えててもおかしくないけど……」

 進「うーん、覚えてないなぁ……」


 これはまずい。会わせない選択肢がよぎるけど、春泉ちゃんだったら許してくれるかな……。


 未咲「まいっか、出たとこ勝負だよね」


 あまり深くは考えずにじっくり待つ。トイレには行かずに。


 未咲「まだかな〜……」


 それとなく我慢の体勢をとる。バレてないといいけど……。


 未咲「あっ、きたきた」


 ベランダから見えた気がして、迎える準備をする。


 未咲「ほら進くん、隠れて隠れて」

 進「えっ? いいけど……」


 こたつの下に隠れさせ、電気を消す。


 未咲「いいよ春泉ちゃん、入ってー」

 春泉「ハウディー! あれっ?」


 誰もどこにもいないどころか、真っ暗。ミサキの声がしたけど、どこだろ……。


 未咲「進くんごめん、電気つけて!」

 進「わかったー」

 春泉「進くん……?」


 聞き覚えのある名前だけど、うまく思い出せない。昔どこかで……。


 春泉「あっ!」

 未咲「はーい春泉ちゃん、まだだめだよー」


 後ろから覆い隠すように目をふさぐ。きっとらんらんとしてるだろうことは想像できるけど……。


 未咲「はい、では進くん自己紹介を!」

 進「渕上進です。覚えてるよね、僕のこと?」

 春泉「うん……うん!」


 うれしくて仕方ないって顔に書いてるみたいでなんだか面白い。早く見せてあげたいところだけど、このままでもずっと喜んでるかもしれないから放置しておこうかな。


 春泉「ちょっとミサキ! 早く〜!」

 未咲「あーごめんね、面白いからつい……」

 春泉「ぶぅーっ」


 こんなにかわいい春泉ちゃん、ひさしく見なかったな。


 春泉「わぁーっ、進くんだぁ!」


 まっすぐ澄んだ瞳で、春泉ちゃんが言う。心なしか話しかたもスムーズな気がする。


 進「こんにちは。いまは夜だからこんばんは、かな?」

 春泉「うれしい……進くんが目の前にいる……」


 「子猫ちゃん」のフレーズはここからきていたりする。写真集に載ってたセリフのなかに出てくる。


 春泉「あの……言ってもらってもいいですか、あのセリフ……」

 進「どのセリフかな?」

 春泉「『いまから子猫ちゃんを、僕のものにするよ』って……」

 進「こうなっちゃったいまとなってはちょっと言いにくいセリフだね、それは……」

 春泉「やっぱりもうお相手が……?」

 進「そうだね……僕の隣にいる人なんだけど」

 春泉「えっ、そうなのミサキ?!」

 未咲「うん、そうなんだ……電車の中でおしっこ我慢してたらたまたま知りあっちゃって……」

 春泉「ミサキのおしっこってまだ味したよね……どうだった、ミサキのは?」

 進「うん、美味しく飲ませてもらったよ」

 未咲「なんだか恥ずかしいね……異性に飲ませたことってそんなになくて……」

 春泉「そんなにってことは、他に飲ませた人が……?」

 未咲「最初はうちのパパだったよ」


 いまさらだけど、ミサキはけっこうやばかった……。


 未咲「だって、ふつう異変あったら味見したくなるでしょ?」

 春泉「ハルミわかんない……」


 あっ、ちょっと片言になった。


 進「すごい話が聞けちゃったな……」


 引き気味のようで、すでに受け入れつつある。プロのお仕事してた時期があっただけに、なにかと順応性にすぐれてるのかな……。


 春泉「あの……進くんのこと見てたらどきどきしちゃって……その……」

 進「なんだい? 何でもいってごらん」


 この喋りかた、最初出会ったときにもしてたな。


 春泉「おしっこ、したくなってきちゃって……」

 進「なんだ、そういうことか」


 すでにわたしのを見てるから怖くないみたい。


 春泉「もう一歩も動けなくて……このままだと」

 進「おもらししちゃいそうなんだ?」

 春泉「それ、ハルミが言おうとしてたのに……」


 彼におもらしと言われたことで、余計に意識しちゃうことになっちゃって……。


 春泉「ミサキのものにはなっちゃったけど、最後にハルミのおしっこ、見てくれる……?」


 下着まで見せて必死にアピールしても、進くんはもうわたしのものなんだよね……。そう思うとかわいそうになってきて、なんでかわからないけどわたしもおしっこしたくなってきちゃった。


 未咲「ねぇ、春泉ちゃんがおしっこする前に、わたしがまずしていいかな?」

 春泉「ミサキもおしっこしたいの?」

 未咲「なんだかむずむずしちゃって……あっやだでちゃう……♡」


 ミサキのおしっこは勢いがあってうらやましい。ハルミはくさいし、いつまで経っても自信ない。


 未咲「春泉ちゃんも進くんのこと真剣に考えながらおしっこしたらなにか変わるかも……」

 春泉「そう、なのかな……」


 進くんがすき。進くんのことを考えだしたら夜も眠れない。そういえば夢に出てきておねしょしたとき、布団にいい匂いがひろがってた気がする。


 春泉「進くん……ハルミのここ見て……」

 進「いいよ」

 春泉「そうしたらハルミ、いいおしっこができる気がする……ふぁっ、だめっ、でちゃうぅっ……」


 じょぉぉぉぉっ……。たちまちいい香りが広がり、思ったとおりになった。


 春泉「ハルミ、ずっとこれがしたかった……」


 いろんな感情が湧いてきて、ハルミは泣いた。


 春泉「そうだよね、進くんにはミサキがぴったりだよね……末永くお幸せにね……」


 いぜん続くおもらしの波に揺られていたかった。だけど冷えてくると、そうも思えなくなった。


 春泉「うぅっ、ぐすん……」


 泣くと余計にからだが冷えてきて、またしたくなってきた。


 春泉「おしっこ……」


 しゅいーーっ……音が素直になってきて、進くんを驚かせてしまった。


 進「大丈夫かい?」


 肩をもってはげまそうとする。すると余計に勢いが増して止まらない。


 未咲「そこは春泉ちゃんから離れようよ……」

 進「ごめん、気が回らなかったね」


 見守ることこそが大切だって気づけた。徐々に弱まっていき、落ち着きを取り戻していく。


 春泉「うらやましいよ、ミサキは全部もってて」

 未咲「春泉ちゃんだっていい匂いしてたよ?」

 春泉「はっそうだ、味は……」


 パンツを脱いで、そこから滴り落ちるおしっこを一滴のんでみる。


 春泉「……おいしい」

 未咲「ね? 春泉ちゃんにも素敵な人、見つかるといいね」

 春泉「そうだね、がんばってみる……」


 ぶるっと身震いしてくしゃみをしたとたん、まだ残ってたものがどっと出てきた。


 春泉「あっ、だめっ」


 しゅぉぉぉぉっ。さっきまでの悲しさは少し薄れて、前を向いていけそうな表情をしてる。


 春泉「きもちいい……♡」


 先っぽをいじりはじめたからもう大変。進くんには見なかったことにしてもらって事なきを得た。


 進「おっと、僕は見ちゃだめなんだね」

 未咲「当たり前でしょっ」


 わたしのを見て、って言外にあらわせたと思う。だけど一応言ってあげる。


 未咲「進くんにはあとでわたしのものをちゃんとみてもらうんだから……」

 進「それは楽しみだ」


 乙女らしく恥じらってあげた。届いたかどうかはわからないけど……。


 未咲「春泉ちゃん、もう終わった?」

 春泉「うん……あっ、えっと、最後に言い忘れたことがあるんだけど……」

 進「何?」

 春泉「進くんもおしっこ我慢したりする……?」

 進「えっと、そりゃ人間だからね……」


 そんなことか、ってまた思われちゃった。他に聞くべきことあったはずなのになぁ……。


 春泉「じゃ、ハルミかえる……」


 なんだかさみしい感じがして、ほっとけない。聞きたいことが浮かんだらまた連絡するようにだけ伝えて、その日は帰らせることにした。


 未咲「やっと終わった……長かった……」

 進「僕たちの生活はこれからだけどね」

 未咲「そうだね。お互い頑張ろ?」

 進「おいでよ、早く見たいから」

 未咲「わたしのタイミングでやらせてよね……」


 別々の道を歩むことになるけど、春泉ちゃんのほうもうまくいくといいね。

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