第27話 嫉妬に次ぐ嫉妬

 大西「玲香さんこんにちは〜」

 玲香「……こんにちは」


 リモートで話をすることになり、かなりひさしぶりに対面となると落ち着きが多少なくなり隣に水分を置いている。


 大西「玲香さんはとてもいい生徒でしたから、おもらしをした日にはむしろ心配になって風邪でも引いたのではと思ったものです」


 そういえばなぜか下の名前で呼んでいる。馴れ馴れしさのようなものはあまり感じないけど、ちょっとした違和感には受け取れてしまう。


 大西「めずらしいものが見れたと思ってつい舞い上がってしまったその晩のわたし、どうなったと思いますか……?」

 玲香「……」


 聞きたくない答えが返ってきそうなことはもう見えていたので、ガラスに入れたお茶を飲み干そうとする。


 大西「……もうっ、あなたたちのせいなんですからね!」

 玲香「ぶーっ」


 急に大声を出されて、口に含んでいたものを全部吐き出す。


 大西「あなたたちが若さを存分に見せつけてくるからっ……こっちは興奮して夜も眠れない日々が何日も何日も続いて、身体とか、体調とか、挙げ句の果てには精神まで壊しかけたんですから……」

 玲香「お気の毒さまです……」


 わたしは未咲につきあわされる形が多かったので、槍玉にあがるとするなら彼女がまず先か。

 ただ、これでよく教師がつとまったなと関心を通りこした何かを感じずにはいられない。


 大西「なんなんですか、あの未咲さんっていう人は! どこからあんなにしゅいしゅいおしっこがでてくるんですか……同性でもおかしくなっちゃいますよ、あんなの見てたら……」


 また泣き出してしまった……この前偶然会ったときもずっと泣いてたし、意外と涙もろいのかもしれない。言ってることは100%同意するけど。


 大西「いいにおいだってしますし……未咲さんなんて、身体においては完璧じゃないですか……」


 含みのある言いかただと思った。もちろん生徒として見ているからこそなんだろうけど。


 大西「こうなったら……玲香さん、現在の尿意をゲージにして表すとどのくらいか、わたしにいまここで報告――もとい提出しなさい」

 玲香「えっ、なんでわたしなんですか……」

 大西「あなたしかいないじゃないですか! 未咲さんがここにいないんだとしたら、次によく漏らしていたのは実はあなただったんですよ!」

 玲香「そうなんですか?!」

 大西「自覚がなかったようですね……さすがは未咲さんの幼馴染といったところでしょうか」

 玲香「なんだか言いかたが癪に触るけど、まあいいわ……正直に報告してあげる、はっきり言ってもう限界、はちきれんほどに我慢してるわ」

 大西「あの頃のように、ですね?」

 玲香「もちろんよ……あなたのそのうすぎたない欲望を満たすためならわたし、このくらいのこと厭わないんだけど」

 大西「挑戦的ですね……そこまでしてわたしに尽くす理由が知りたいくらいに」

 玲香「理由? そんなの単純よ、あんたをただ快楽に溺れさせたい、それだけよ」

 大西「みっともなく漏らすんですね、あの頃みたいに……」

 玲香「そうよ、やりすぎてもう慣れたから、あんたに見られたところでダメージなんて……」


 こみ上げてくる尿意。恥じらっている場合ではないのに顔に出てしまいそうになる。


 大西「さっそく苦しそうですけど、準備は整いつつあると見ていいんでしょうか?」

 玲香「いいわよ、せいぜい惨状を見届けなさい……そして、あんたもするのよ」

 大西「そんなの当然じゃないですか……」


 同時にふたりして顔を赤くする。なんの時間なのかしら、これ……。


 玲香「おしっこを我慢するコツ、長年生きてきたあなたなら当然わかるわよね?」

 大西「そのことば、そのままあなたに返しても問題なさそうなのは気のせいかしら?」


 はっきり言って大人げない。だけどそんな時間がすこし楽しいと思えてしまうのはなぜか。


 玲香「っ、出る……」


 先に音を上げたのは玲香さんでした。太ももに汗をかいたようにおしっこが流れていきます。


 大西「もっと出しちゃえ♡」

 玲香「んっ♡ んんっ♡」


 先生の声に呼応するかのように勢いよく噴き出したおしっこは下着を否応なく濡らしていき、床に落ちていきます。


 大西「気持ちよさそうです……はぁ、わたしもしたいなぁ……」


 そう言って、漏らす気満々といった具合に入念にほぐしている。


 大西「はぁぁ、おしっこ出る……未咲さんや玲香さん、そして春泉さんたち……春泉さんはおもらししたときによく気持ちよさそうな顔をしていらっしゃって、こちらまでつられてしたくなってしまって実際にやっちゃったことあるんですよね……あの気持ちよさは格別でした……うみさんとロコさんの関係性も素晴らしかったです……たとえおしっこに特徴がなくてもあれだけ互いのことを思うだけで飲むことができる……わたし、これだけはどうしても真似しようとは思えませんでした……あのおふたりにしかできないような、いわば特殊な関係性のもとで成り立ってる、まさに奇跡にしか思えないような……はぅぅぅっ」


 ぐしょぉぉぉっ……この音を聞いただけで、どれだけ漏れたかなんて容易く想像はつく。


 大西「出しますっ……早く楽になりたい……」


 まだおむつをする年齢じゃない、と笑っていた人とは思えなくなっていく。当分先のことだとしても、そう思ってしまいそうな自分がいる。


 大西「とくに未咲さん……やっぱりあなたは最高でした……誰にもかなわない、あなたにしかもっていないものがあります……それを今後も活かし続けていってください……」


 活かすっていっても、その活かしかたをもちろん先生が教えてくれるわけでもなく、ただそれは励ましのことばとして出ただけのようだった。


 玲香「わたしに関する声かけはなしってことね……」

 大西「そんなことありませんよ、いま考えてますので……」

 玲香「考えてなかったんじゃない」

 大西「そうですね……玲香さんはほんとに未咲さん思いの子で……」

 玲香「やっぱり未咲ありきなのね……」

 大西「話は最後まで聞いてくださいっ。玲香さんの未咲さんを思う気持ちは、それは幼馴染ということもあって誰よりも強いものでした」

 玲香「そんなの誰が見たって明白でしょ」

 大西「だとしても、それはかけがえのないことなんですよ」

 玲香「わかりますけど……」


 こっちがちょっと泣きそうになってくる。なんか考えさせられてるのかもしれない。


 玲香「……出していいわよ。楽になりたいんでしょ?」

 大西「先生に対してそんなふうに声をかけてくださるのもあなただけでしたね……」


 そうして先生は絶え間なく失禁した。なめているとかではなく、なんというかこの先生にしてこのことばづかいありなところがあった。ほんとのことを言うともっと慕いたかったけど。


 玲香「すっきりした?」

 大西「ええ、それはもう」


 これまでの汚れがそれなりに洗われたような顔をしてくれて、こちらもようやく安心できる。


 大西「これからまたしばらく忙しくなりそうなので、また疎遠になっちゃいますね……」

 玲香「今度はヘンな気起こさないでくださいよ」

 大西「もちろん……とも言いきれませんが、もしなってしまった場合、またお付き合いよろしくお願いしますね」

 玲香「はい。では、このへんで」


 真っ暗になる画面を見て、少し思うことがある。


 玲香「そういえば未咲、むかし首筋に大きめの傷をつくってそれをずっと放置してたわよね……痛くなかったのかしら……」


 なんでこのタイミングで思い出したのかまったくわからないけど、未咲に電話したくなった。


 玲香「もしもし未咲? 小さいころあんた首に大きな傷つくってなかった?」

 未咲「えっ? なんのこと?」


 覚えてなかったか……どうやって思い出させよう……。


 玲香「ほら、たっかい滑り台からあんたが降りてこようとしてそのときに……」

 未咲「あー、そんなことあったっけ……」


 言われてようやく思い出す。それほど強く残っているわけでもないらしい。


 未咲「あれね、玲香ちゃんをびっくりさせようって思ってこっそり傷みたいにしてたの」

 玲香「なんでまたそんなこと……」

 未咲「えーおもしろいかなーって……玲香ちゃん心配しすぎて泣いてたっけ?」

 玲香「ほら、ちゃんと覚えてるじゃない」

 未咲「そうだねっ」


 何気ない会話で終わりたくはなかった。先述のことがあったから。だけど未咲に話してもしれっとかわされそうでやめておくことにした。


 玲香「はぁ……」


 なんだか疲れた。自分で凝った肩もんで寝よう。そう思っていると……。

 ぬうっ。


 玲香「ひぃぃぃぃっ?!」


 見ると、さっきリモートで会話してた大西先生がなぜだかわたしの家の窓のほうを覗いてきた。


 玲香「あっ……!」


 さっき出し足りなかったぶんがちょろっと漏れてきて、それが狙いだったかもしれないと思うと背筋がぞくっとした。

 先生はにっこり笑って、そそくさと去っていく。


 玲香「驚かさないでよもう、まったく……」


 ふだんあまり出さないような声音でそう言う。先生にこの声が聞かれてないことを祈るしかない。

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