第20話 ロコのそのへんの事情

 ロコ「ようこそ〜」


 澄ました顔でうみちゃんを迎え入れる。裏でわたしが抱えているものを隠しながら。


 うみ「おいロコ、なんか部屋の雰囲気変わったよな?」

 ロコ「そう? うみちゃんがよく覚えてないだねなんじゃ……」


 そんな会話をするくらいには会ってない。私生活がお互いに忙しいせいで。


 うみ「んじゃ、ゆっくりしてからあれしようぜ」

 ロコ「うんっ」


 あれとは、もうこれを読んでる同志なら想像に難くないだろう。


 うみ「なー、もうこんなに溜め込んじゃって」

 ロコ「ちょっとうみちゃん、いきなり触るの禁止……んっ」


 さっそく反応があり、このまま様子見。


 ロコ「うみちゃんのことずっと待ってたんだから……」


 嬉しいことを言ってくれる。限界がきているのがそのままセリフを言ってるときにも出てしまう。


 うみ「そのまま出していいぞ」

 ロコ「わかってるけど、出していいって言われてもそんなすぐには……あぁっ」


 いや、出てるし。


 うみ「それにしてもロコのこれのにおいはそんなに気にはならないな。誰かとは違って」

 ロコ「ぼかす必要あるのかなぁ……」


 誰のことかはだいたい想像はつく。特に最近になって大きく変わったこともあるからよく覚えてる。


 ロコ「それって喜んでいいんだよね……」

 うみ「いいんじゃないか? くさいよか無臭に近いほうがそりゃよっぽどましだろ」


 これ、本人が聞いてたら相当傷つきそう……。


 ロコ「なんか、あっさり終わっちゃったね」

 うみ「そうだな。続けてするか?」

 ロコ「いい。きょうはこれだけのために呼んだんじゃないんだよ?」


 そう、きょうはせっかくだから家で手軽にできるお菓子でもつくろうってことになっていて。


 うみ「じゃ、そっちするか」

 ロコ「待って。これ、どうすつもりだったの……?」


 ロコのもので汚れたカーペット。地味に大変なんだよな、こういうことした後って。


 うみ「んー……やっぱそっちが先かぁ」


 めんどくさいけど、ちゃんと片付けることに。


 うみ「いや思い出すんだよな……これやったあとにお菓子つくります、だとさ」


 先に我慢させたあたしが100パー悪いけど。


 うみ「ロコももうちょっとこれ、あたしが驚くほど耐えてそのままお菓子づくりにいけたらそれはそれでおもしろかったんだけど」


 まぁ、そんなことはなかったわけで。


 うみ「水とか見るだけでもね……」

 ロコ「うみちゃん、もうやめて……」


 しゅんとなり股間をぎゅっとおさえるロコを前にして、それ以上何かをいうのははばかられた。


 ♢


 うみ「よーし、お菓子でも作るか」

 ロコ「でも、って……こっちがほんとはメインだからね?」


 パウンドケーキのレシピをネットで検索して見つけ、早速作ってみることに。材料はあたし持ちで、ロコは主につくる担当ということになっている。


 ロコ「うみちゃんはわたしが調理し終わったあとの器具を洗うのよろしくね」

 うみ「おう! 任せてくれよ」


 じつはこのときあたしの尿意はかなり切迫していて、ただロコがすんげーやる気だっただけにその場を離れるのはやっぱりこっちもはばかられた。


 うみ「行きたいんだけどなー」


 ちらっ、ちらっとロコのほうを見るももうすでに集中しており、かける声も見当たらない。


 うみ「おしっこ」


 耳もとで言おうとして、くすぐられてるとしか思ってないのかほとんどスルーされた。


 うみ「早くしてくれよ……」


 意外にやることもすぐ終わってしまい、次の洗い物を待つ状態がずーっと続いている。


 うみ「おしっこ……」


 弱々しい声が出て、自分でびっくりしてしまう。

 わざとらしく股んとこおさえてそれとなくロコに気づいてもらう作戦だったけど、あえなく失敗。


 うみ「いやでもこれあたし、もしかしなくても漏らす可能性はあるな……」


 最近トイレが近く、走っても間に合わないなんてこともざらに出てきてしまっている。


 うみ「次水の音聞いたらあたし、どうなるんだ……」


 想像するだけで恐ろしい。ただロコの許可なしにトイレに向かうのもなんだかな……。


 うみ「早く気づいてくれよ……!」


 だめだ、祈りが完全に通じない。いまあたしは軽い生き地獄を味わっている。


 うみ「あっ、この工程も終わった……洗わないと……」


 そう思い、蛇口をひねろうとしたとたん。


 うみ「あっ!」


 しょぉぉっ。確実にやってしまったという実感が、衣服越しにもうわかってしまった。


 ロコ「ん?」


 そこでようやく異変に気づいた。さっきも聞こえてたような音がしてしまったから。


 ロコ「うみちゃん、もしかしておしっこ我慢……」

 うみ「しっ、してないぞ! ロコは気にせずそのまま続けてくれ!」

 ロコ「でも、いま明らかにおしっこの音がしたような……」

 うみ「気のせいじゃないか? ほら、さっきロコがやってたのが勘違いで聞こえちゃったとか……」

 ロコ「幻聴、ってこと?」

 うみ「そう、それ! なんだ、そういうことかよ……」


 うまくごまかしたつもりだったけど、そういえばあたし、はたからわかるくらいに思いっきり我慢してた……。股おさえてるし……。


 ロコ「どう見てもうみちゃんがしたような……」

 うみ「してないってば! あぁっ!」


 さっきと似たような音がして、疑惑が事実だったことが白日のもとに曝された。


 うみ「早くトイレにいかないと……」

 ロコ「間に合うの?! 顔色悪いよ?!」

 うみ「平気……ちょっと我慢しすぎただけだから……ひゃっ」


 先ほどよりも勢いが強いものが出てきて、もうこれはだめだと悟った。


 うみ「あ、あったけぇ……」

 ロコ「だめだようみちゃん! おしっこはトイレでしないと!」

 うみ「お前それ人のこと言えんのかよ……」


 それが最後のことばだった。


 ロコ「うみちゃーーーーーん!」


 結局どうすることもできず、ロコと同様に床を汚すハメになっちまった。


 うみ「もとはと言えばだな……」

 ロコ「んもぅ、勝手に行ってくれてよかったのに……」

 うみ「できるかよんなこと! ロコだって心配しちまうだろ?」

 ロコ「それはそうだけど……それとこれとは違うでしょ!」

 うみ「あー悪かった悪かった。まーロコもおもらししたしおあいこだろ、どう見てもこれは」

 ロコ「わたしびっくりしたんだからね?! 隣見たらもう漏れちゃってるうみちゃんがいたんだし……」

 うみ「驚かせて悪かった。ロコも集中してたのに途中で作業中断するような真似して」

 ロコ「わたしだって……気づけなかったのがいけなかったんだもん……」


 なんとかその場はうまくおさまって、片付けは今回は後回しにして素早く終わらせた。


 うみ「よし、食べるか!」

 ロコ「うん! どう? なかなか美味しそうにできたかな〜って思うんだけど……」

 うみ「見た目は申し分ないな……どれどれ……」


 ひと口食べてみる。


 うみ「んっ?!」

 ロコ「ど、どうかな……」

 うみ「えっと……まぁ美味しい、っていう表現がしっくりくるかはわからないけど……なんていうか、その……ロコっぽく仕上がってる気がする」

 ロコ「それどういう意味〜?」


 たぶんあのときだ。あたしがおもらしして、ロコが取り乱してしまったけど、そこが分岐点になっているような気がする。要するにその……まずい。


 うみ「これに関しては、あたしが全部責任持って食べさせていただきます……」


 うみちゃんがおいしくいただいてくれました。


 うみ「何入ってんだよこれ……うぇっ」


 吐きそうになりながらなんとか食べて、事なきを得た。あしたちゃんと起きられるといいけど……。

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