第11話 わたしたちはみな Chilled’ren だった
水着姿のおとながひとり。わたしの名前は入野未咲。
小さいころから泳ぎが得意で、いまでも続けている。
そして、あのころの癖はいまでも治っていない。
未咲「おしっこしたい……」
もちろんこんなことがあっていいわけがない。したらたちまち迷惑がられる。だけど幸いわたしの場合においでごまかせたのでなんとかなってた。こどもの頃は――。いまはそうはいかない。どうにかして我慢してトイレまで向かう。そこで限界が来た。
未咲「あぁっ……」
塩素系のにおいと本来のおしっこの臭いが混じり、鼻を突く。ほんとうはその手前でもすこしやっちゃってたけど、そこは頑張って耐えたつもり。
未咲「またやっちゃった……」
泣きたくなるところをぐっとこらえて、きれいに拭き取った。
♢
さて、ところかわってここは瑞穂のふるさと。
こちらでも同様のことが行われていたが、違うとすれば気温だろうか。温暖で、未咲たちのいるところに比べると幾分か過ごしやすい。
瑞穂「きもちぃ〜ですねー……」
子どものころ使っていたプールセットをそのままいまも使っている。
うとうとしかけていて、そのことばに反応するかのように小水が溶け出していく。
瑞穂「んー……さいこぉ……」
顔が歪みだし、とても人に見せられない。
祖母「スイカ、おいとくよ」
瑞穂「ありがと……ん?」
スイカ、と聞いたとたん、ピタッと動きが止まった。
瑞穂「もしかしてわたし、いまおしっこしてた……?」
気づいたときにはもう遅く、半分以上出し切っていた。
瑞穂「はぁ……誰にも怒られないからいいにしても、女性としてこの上なく恥ずかしいです……」
自分への罰と称して、その日は2倍以上(のつもりで)働きました……。
♢
玲香「すごいわね……ずっと匂ってる」
トイレにこもりながら、ひとり興奮していた。
玲香「むしろ未咲は気狂わなかったのかしら」
慣れればなんてことないんだろうか。あれこれ考えてると、未咲から連絡が入る。
未咲「やっほー玲香ちゃん、今度いつ空いてる?」
玲香「そのノリやめなさいよ、いつまで経っても○校生に思われちゃうじゃないわたしたち」
未咲「それもいいでしょ。そんなことよりいつ?」
玲香「どうでもよくはないわね……真剣に話し合いたいところだけど、それは今度会ったときにしとくわ……そうね、2日なら空いてるわよ」
未咲「じゅふふ……会うの楽しみだなぁ……」
玲香「気持ち悪い笑いかただなぁ……」
と、いうことで。
玲香「どこよ、ここ」
未咲「じゃーん、愛を育むホテルですっ」
玲香「わたし帰る」
未咲「あーん待って玲香ちゃん! ていうかいまのちょっとかわいいっ。珍しいね、玲香ちゃんが語尾に『わ』とかつけないの」
玲香「そこ?」
肩を揉まれながら、半ば強引にホテルの中へ。
玲香「(雰囲気で押し込まれたような気もするけど……何を考えてるのかしら、この子……)」
鍵をもらい、部屋に入る。
未咲「さて、見せてもらうよ」
玲香「何をよ」
未咲「わかってるくせに〜。最近わかってきたでしょ? これまでわたしがどれだけスメルフルだったかってことっ」
玲香「まぁ、それはもう存分に」
未咲「だったら〜、ほら、いま見せてみてよ〜」
玲香「見せなさいったって、そんなのすぐに出るわけが……」
未咲「そういうと思って持ってきたの!」
玲香「?」
だいたい見当はつくけれど。
未咲「じゃじゃーん! 利尿剤〜。これを飲むとねー……」
玲香「いや、そんな国民的まんがみたいな説明いらないわよ、読んで字の如しなんだから」
未咲「それもそうだね。じゃさっそく……」
玲香「ちょっと待ちなさい。まずはあなたが試してみなさいよ」
未咲「えっ、そこも踏襲する感じ?」
玲香「いいから。わたしを最初からそうやって無理やりねじ伏せてヘンにストレス与えてどうするつもりよ、なんかあったら責任取れるの?」
未咲「え、えー……? まぁ、それもそっか……じゃ、いただきまーす……」
納得いかないなりに水に溶かし、飲んでみる。
未咲「あっ、これ飲みやすい……」
そういうタイプのやつだったらしい。
玲香「さて、いつ効果が出るか……」
未咲「んんっ!」
さっそくそう言ってトイレに駆け込むも……。
未咲「あぁん間に合わなかったよ〜」
小さくそう聞こえる。かなりきついらしい。
玲香「どうなるのよわたし……」
早くも不安。あの子は戻ってこないので仕方なく自分から罠にかかりにいく。
玲香「思ってたよりきつい……」
涙が出てくるほど強烈な尿意に、目の前が暗くなる。トイレに行きたくても未咲が使用中なので行けないもどかしさ。じわっと溢れてくる。
玲香「あったかい……」
部屋の中とはいえ、どうしても寒いので温度差を感じそうつぶやく。腰が自然とよじれ、いっそのことなら未咲に見てもらいたい衝動さえ生まれる。
玲香「もったいない使いかたしたわね……」
そう感じながらひと噴きふた噴き。ここにきてはじめての限界が訪れる。
玲香「心の中で見なさい……ほんとついてないわね、あなたって……」
華やかな薔薇の香りが鼻をかすめ、未咲にまで届けと願いを込めながら排泄にいそしんだ。
玲香「くんっ! ふぅっ……」
自分でも恥ずかしくなるくらいの音量で鳴きながらベッドを汚し、未咲のほうを向く。
玲香「早く戻ってきなさい……大変なことになってるわよ……」
しかしなかなか戻ってこず、気づくと一時間分針が進んでいた。
玲香「……何してるのかしら」
倒れてないかとかいろいろ考えつつ、バスルームの中へ。
未咲「へにゃ……」
玲香「……」
寝てた。
未咲「は〜、いい匂いだったねぇ……」
玲香「それで眠りこけてたってわけね……」
未咲「そゆこと〜……」
いまもうとうとしかけている未咲にそのわけを訊くと、だいたいそういうことだったらしい。恐ろしい武器を手にしてしまったかのような感覚。手放そうにも手放せない。それがなおのこと怖い。
玲香「できれば慣れてくれるとありがたいんだけど……」
未咲「そだね〜……」
もしかすると未咲にしか効果をなさないかもしれないし、この匂いがいやっていう人もいるかもしれないから、今後は細心の注意を払っていかないといけないと強く感じた。
♢
うみ「あっ」
そこには、どこか面影を感じる人物がいた。
春泉「はぁ、はぁ……うぅっっっ!」
破水だった。よく見るとお腹が膨れているし、妊娠していたのだろう。
うみ「お、おい、大丈夫……ですか?!」
春泉「う、うん、ダイジョブ、だよ、ウミ……」
片言は変わっておらず、それだけで確信が持てた。なんならあたしのことわかってるし。
万に一違う人だったとしても、一大事であることに変わりはない。めでたいけど、病院に送り届けるまでは油断はできない。
うみ「すぐ呼んでやるから、おとなしくして呼吸保ってろよ」
春泉「よろしく……うっっ!」
うみ「すげぇ痛そう……早く呼んであげないと」
それからしばらくして、産声が聞こえた。
助産師「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」
つらさを乗り越えた安堵の表情。こちらまで嬉しくなる。
うみ「退院したらうちくるか? なんにももてなせなさそうだけど、気持ちだけでも祝いたくてさ」
その日はじめての笑顔が見られた。
♢
退院したあと、ささやかではあったけど出産祝いパーティーを開いてやることにした。
うみ「なんかごめんな? 救急車呼ぶまであたしがめっちゃ手こずってたの。実はあのときすっげートイレ行きたくてさ……」
春泉「気にしなくていいよ……それに……」
うみ「それに?」
春泉「ハルミ、いまちょっとやっちゃったから……」
うみ「あー、まだ産んだばっかだからそこらへん緩んでんだな」
春泉「これからちゃんとする……カツヤクキン? あたりのトレーニングとか……」
うみ「頑張れよ、もしよかったらあたしと一緒に……」
春泉「……ありがとう、ウミ。でもダイジョウブ、これくらいのこと、ハルミひとりでしていくから……」
うみ「そういうわけにもいかないだろ。お前もう独りなんだろ? いろいろ話聞いていきゃそういうこと言い出すからびっくりしたぜ」
春泉「キモチは受け取る。だけどハルミ、ずっとひとりだったから……」
うみ「だから、あたしがついてるだろ?」
春泉「そうなんだけど……うぅっ」
泣いてるらしい。よほどこれまでつらかったのかもしれない。
うみ「よしよし、泣くな泣くな……ってうわっ! めっちゃ漏らしてる……」
上からも下からも出ていき、内側から痛むけど、それでもしっかり生きていくと決めている春泉がいまのあたしにはまぶしい。
春泉「……もっと出していい?」
うみ「いいいい、あたしが全部片付けとく」
春泉「ありがと、うみ……」
やさしさを感じる呼びかただった。大きくなっていく排泄音には耳をふさぐことにした。
春泉「……ふぅ」
ひとしきり終わりすっきりしたのか、ついて出たのはそんな声。
うみ「きょうも冷えるから、あったかいもん食べて、そんで帰りな」
春泉「うん……」
また泣き出す。まだ残ってたぶんが溢れ出し、衣服を濡らす。
うみ「にしてもすげぇにおい……これとれんのかな……」
春泉「ごめんなさい……」
うみ「いいって。早く食べな」
春泉「うん……」
同じ返事をし、着替えを貸してやり帰らせた。
うみ「大変だろうなぁ……」
はかりしれない苦労かきっとこれからあるはず。それが見えているだけに余計に心配になる。
うみ「うまくやってくれ……なんならいつでもあたしを頼ってくれよ……」
あたしもそれなりに大変だけど。
♢
ロコ「は〜い、きょうもおもらし配信やろうと思いま〜す」
カメラに向かって笑顔を見せているロコちゃんを見つけ、わたしもその気になった。
ロコ「この人いつもコメントくれるなぁ……ありがとうございま〜す」
そう、それがわたし入野未咲。ネット上では《バニラちゃん》と名乗っている。
バレそうだな、と思って一度変えることを検討したけど、そこはあえてそのままいくことに。案外バレてないのが少々不思議だったり。
ロコ「えへへ、おむつかわいいですか?」
かわいいよ! そう思ったときにはすでに腕はその文字を入力し終えている。
ロコ「きょうはここに、た〜っぷり、やっていきますねっ」
色目までつかっちゃってもう。できればみんなにまで使わないでほしいな。
ロコ「はぁ……最近やなことおおいです……」
どうしたの? 入力して聞いてみる。
ロコ「あのね……男の人につけられたんです」
それは大変だ……続きが聞きたくてお金を払う。
ロコ「あっありがとうございます……それでね、まさぐられたんですよ……わたしのたいせつなところを……」
ごくり……。
ロコ「と〜っても気持ちよくて、ひさしぶりにお外でおもらししちゃったんです……」
ロコちゃん、それ痴漢だから……。
ロコ「そうなんですか……? わたし、あの人になら何されてもいいかなって……振り向いてみたら
、と、とってもかっこよかったですし……」
うーん、こりゃまいったな……。
ロコ「あの体験が忘れられなくて、いまのわたしがあります……」
そうなのかもしれないけど、早いうちに目を覚ましてほしい……。
ロコ「わたし最近セックスレスで、付き合ってる彼氏からとことん無視される日々が続いてて……だから、だから……もういいんです……」
声が震えていき、呼吸が早くなっていく。寒さもあいまって、だんだん吐く息も白く見えてくる。
それに伴って増幅していく尿意。わたしもロコちゃんと一緒に果てたいと思うようになっていく。
ロコ「わたし、あの人の連絡先をなんとしてでも手に入れて、いまの彼氏と別れます……」
ここで吹っ切れたのか、マイクを取って精一杯声を張り上げる。
ロコ「聞いてますか、彼氏さん! わたし、これから帰るべき場所に帰るんだから!」
勢いを感じる水の音がくぐもって聞こえ、中身はなくなっていくようだった。
ロコ「わたしに魅力を感じてくれる人がいる……さようなら、あなたではもはや役不足です……」
音に興奮しっぱなしのわたしは同様におむつを用意し、それを見ながらそこに全部出した。
ロコ「わたし、前しか向いてませんから……」
勢いは増し、興奮度マックスにいたったところで感謝の課金。惜しむべきではない。
ロコ「ここでコメント読み上げます……えっと……すっごく抜けました? そんな……わたしみたいな出来損ないに……えへへ、もう一回しようかな……卒倒しないでくださいね?」
そこからすこしやさしい音になり、それはそれでまた興奮することができた。
ロコ「はぁ〜ぁ……赤ちゃんほしかったな……」
いまの彼氏の話だ。もう脈なしなんだろう。
ロコ「はい、ということできょうはあと一回してねます。あしたは縁切りで有名なあの神社にいってみたいと思いま〜す。あした早い人はおやすみなさ〜い、もうちょっと付き合うよって人は……」
そこまででわたしは満足したので、離脱した。
未咲「うん、あしたもがんばれそうっ」
謎に励まされているのだった。
♢
千秋「ちょっとぉ! トイレ替わってよぉっ!」
千冬「そーだそーだっ! わたしたちどれだけ我慢してると思ってるのっ?!」
いままさに漏れそうになってる女子がふたり。
女性「うるさいわねぇ……いま替わるって何度も言ってるじゃない」
千冬「それ言ってから何分経ったと思ってるの?! あぁだめだめっ、ちょっと出ちゃったぁ……」
あのころから寸分も変わってなさそうな千冬と。
千秋「だめだめっ……もう我慢できない……」
すでにぐっしょぐしょになって放っておいても全部出してしまいそうになっている千秋。
女性「おしっこなんでしょ? 悪いけどね、それより時間かかることいまあたししてるから」
秋冬「「そんなぁ〜〜〜っ!」」
もじもじする四本の脚。内ももから伝う汗と尿がじりじりとふたりを焦らせる。
女性「(ふんっ、ふたりまとめてそこで漏らせばいいのよ♪)」
そう、中に入ってる人は何もしておらず、その様子をじっくりと楽しんでいた。
千秋「このままいくと、中○生以来の恥ずかしいことに……?!」
千冬「そんなのいやだぁ!」
うぅぅ〜〜っ、とじたばたを繰り返すふたり。長くはもたなそうだった。
女性「(ふふっ、いい調子……♪)」
ひとつしかない個室でじっくりにらみ合い。負けたのはもちろん……。
千秋「あぁぁもうだめ、全部でちゃうよぉっ」
千冬「わたしも……ねぇ千秋、いっせーので漏らさない? そのほうがまだ恥ずかしくないから!」
千秋「うんっ、そうだね!」
いい大人だからということもあるだろうけど、いつの間にかちゃんづけはやめており、それが違和感なく通用していた。
秋冬「いっせーのっ!」
個性的な音たちが鳴り響き、扉の向こうからは高笑いが聞こえてくる。
千秋「やっぱりあの人、わたしたちをもてあそんでたんだ……」
千冬「ころす! ぜったいころすっ!」
気が済んだのか女が出てきて、ふたりの頭を馴れ馴れしく掴む。
女性「あ〜ら嬢ちゃんたち、おちっち終わったかしら〜〜〜?」
秋冬「〜〜〜〜〜!」
届かない手。そう、向こうのほうが大きかった。
ぐちゃぐちゃの感情。おさまりどころがわからず、しまいにはふたりして大泣きしてしまった。
女性「きれいにしておきなさいね、アデュー♪」
恨めしげに見つめ、その状態を保ちながら手は床のおしっこを片付けに入っていた。
千冬「あいつムカつく! すっごいムカつく!」
千秋「ほんとむかつくよね……○ねばいいのに」
目には深い闇をたたえていた。顔は覚えた。あとはどうしよう……。
千秋「まぁでも、あの人にももしかしたら嫌なこととかいろいろあったんじゃない?」
千冬「おぉ……よっ、前向き!」
千秋「だから復讐とかしちゃだめ、いい千冬?」
千冬「あっ、だめなのね……」
いやいや考えていたんかい。
♢
両角「未咲さんのおしっこ、また飲みたいです……」
いまだに思い出しては、その餓えにたいする向き合いかたに夜毎真剣になる。
両角「でも、いまはもうすべきじゃないんですよね……」
考え出すと止まらない。せめてもうちょっとまともに生きてみたいと、最後には思うけれど。
両角「こうなったら、あの人に頼むしか……」
思い立ったとき、文章を打ち込んでいた。
両角「『お元気ですか? ひとつ頼まれごとをしていただきたいのです……』」
文章はざっと読み上げて二分ほど。我ながらよくここまで書けたものだ。
両角「よし、こんな感じかな。送信っと」
返事を待ち、その日は寝ることにした。
♢
ピロロン♪
両角「……ほへぇ?」
その着信音に寝ぼけた姿を自分でも情けないと思いつつ、内容を確認する。
玲香「いいわよ あしたの5時にわたしの家に来なさい」
両角「玲香さん……よかった、怒ってなくて」
もちろん文面だけなのでわからないが、すくなくともその感じは幸いにも一ミリも伝わってこない。
両角「いきます、っと」
すぐに返信が。
玲香「了解」
相変わらずスマートだなぁ……いいように言うと、だけど。
冷たい、という意味でクールとでも言っておきましょうか。
♢
両角「ほ、ほんとにいいんですか?」
玲香「いいって言ってんでしょ、わたしのあの文章のどこをどう読んだらそうなるわけ?」
両角「いえなんでもありません……不束者ですが何卒よろしくお願いしますっ」
玲香「わかればよし」
両角「は、はい……」
うわぁ、なんだかすごくやりづらい……。
玲香「んしょ」
玲香さんの下着があらわになり、そこについ目がいきそうになる。
玲香「なによ」
両角「いやなんというか……すごく玲香さんらしいなぁと」
玲香「なにそれ……まぁいいわ、そこで餌を待ちわびる犬のような体勢になりなさい」
両角「と仰いますと……?」
玲香「わからない? こんな感じ」
そう言って玲香さんは正座の姿勢から前に手をついて顔を思いっきり下に下げ、腰を突き上げました……。
玲香「できるわよね?」
両角「できないですよ! なんですかその、欲しくてしかたありません、みたいな体勢は?!」
玲香「そうでもしないとわたしが大変だから」
両角「なるほど、わたしに負担を強いるわけですね……まぁいいでしょう、やりたいと言い出したのはわたしなわけですからね」
玲香「そうとわかればさっさとやって頂戴。わたし、もう結構我慢してるんだけど」
両角「すぐそうやって急かそうとする……言われなくてもやりますけど!」
玲香「やってないじゃない」
両角「これからやろうと思ってたんです! 飲まれる側なんですから大人しくしてください!」
玲香「はいはい」
ため息をつかれました。なんだってわたしはこんなこと……。ほんとは未咲さんのが飲みたいのに。
玲香「いくわよ、溢すんじゃないわよ」
両角「もちろんですっ」
むぐっ、と口をつける。
玲香「おかしいわね……」
両角「どうしたんですか?」
玲香「出ないのよ……なんでかしら……」
両角「……わたしのせいとか言わないでくださいね?」
玲香「誰がそんなこと……一部あるかもしれないけど」
両角「じゃぁ、なんでなんですか?」
玲香「なにか足りないのよ……あなたの前で出す義理を感じないからかしら?」
両角「なんですかそれ……そしたらどうすれば出せるようになるんですか?」
玲香「両角さん、とりあえずいまの間だけ未咲役をお願いするわ」
両角「わたしが……未咲さんの役を……?」
いきなり未咲さんの名前を出されて、すこし動揺した。
両角「いいんでしょうか……わたしが未咲さんなんか演じても」
玲香「あなた以外に誰ができるのよ、いまここにいる人の中で」
両角「玲香さんがひとり二役、とか……?」
玲香「わたしが演じてどうにかなるとでも?」
両角「違うんですか?」
玲香「わかったわよ……やればいいんでしょ」
ぱやぱや〜みたいな感じを出せば大丈夫。そう見くびっていた。
両角「なんか違いますね……」
玲香「おかしいわね……あの子のことはよく知ってるつもりなんだけど」
両角「これだったらわたしのほうが上手くできますよ?」
玲香「だから言ったのよ。もはやあの子とわたしは違うってことね……」
両角「残念ですが……というか、元々そうだった気もしますけど……」
玲香「どういう意味かしら?」
両角「それは……わたしのほうが、未咲さんを好きってことですよ」
玲香「そうはならないと思うんだけど……」
この状態になってどれだけの時間が経ったことか。出るものも出ない。
両角「見せてあげますよ……これまでわたしがどれだけ未咲さんにはげまされてきたかを……」
深く息を吸い、たちまち人を変えた。
両角「玲香ちゃん、おしっこ飲ませて?」
玲香「え、えぇいいわよ……」
似すぎていてびっくりした。このセリフをあたかも準備していたかのように。
両角「わたしね、玲香ちゃんのおしっこ飲んだらあしたも頑張れそうなんだぁ〜、だからお願〜い、いますぐ出してっ!」
このへんはすこし誇張が入った気がしたけど、○校のころの未咲を思い出すようで完成度は高い。
玲香「待ってなさい、すぐ出すから」
両角「やったっ!」
ここまでくるとものまねは必要なくなってくるけど、まだやり続けてくれてる。おかげでやりやすい。
玲香「んっ、出るわ、よ……」
両角「早くはやくぅ〜」
よく聞くと両角さんの特徴は見えてくるけど、声だけ聞くと未咲がしゃべっているかのよう。
玲香「はぁぁ……っ!」
しょろろろっ……ちょうどあの頃のように眼鏡をしてないせいで余計に未咲に見えてくる。もちろん違うことはちゃんと理解はしてるけど。
両角「わたし、ほんとに未咲さんのこと好きだったんですから……未咲さんのおしっこも、未咲さんのすべてが……」
思い出の味がして、なんだか泣けてきた。振り返って笑顔を見せたときとか、家庭科の授業で塩と砂糖とかの分量がわからないときに助けてくれたりしたときはそれだけで神様に見えるわたしがいたり。プリントを落としたときにも拾ってくれて、ちらっと見えたパンツにどきっとしているわたしに気づいてしまったり。
玲香「あともうちょっとで終わるわよ、どうする?」
両角「延長希望って言ったらしてくれるんですか?」
玲香「そうね……また頑張って溜めるわよ、幸いにもここは常時冷えてるしすぐ溜まるわね」
両角「よかった……引き続きよろしくお願いしますねっ」
玲香「お安いご用」
思い出話まで聞かされながら、役目を果たす。
玲香「はぁ疲れた……わたしここまで我慢させられたことって実はあんまりないのよ」
両角「そうだったんですね……ご負担おかけしました……」
玲香「構わないわ。恋しくなったらいつでもわたしに頼って頂戴。今度はどんな体勢でも受けて立つわ」
両角「ありがとうございます!」
感謝のことばを述べ、玄関前に立つ。
両角「それではまたの機会に。お身体大事になさってください」
玲香「ほんとよ……どれだけ疲れたか……」
両角「赤ーくなってましたもんね」
玲香「あなたが強く吸うからよ」
両角「そうでした……」
軽く小突かれる。調子に乗っちゃったかな……?
玲香「上手かったわよ、未咲のものまね」
両角「練習してもっとうまくなっておきますね」
玲香「いいわよ疲れるし、あの子系統の声って」
両角「そうですか……ともかくありがとうございました」
玲香「またいらっしゃい、もてなす余裕ならあるから」
両角「なんとお優しい……あした来ても?」
玲香「いくらなんでもそれは来すぎ」
両角「ですね……それではこれで」
玲香「あぁ待って」
両角「なんですか?」
玲香「ちょっと、忘れるところだったじゃないのよ……これは何? まさか置いてくつもりじゃなかったでしょうね?!」
見るとそれは、汚れたわたしの下着でした……。そうだ、そういえば煩わしくて脱いでたんだった。
両角「汚れたので玲香さんにあげますっ」
玲香「いらないわよこんなの! わたしに穿けと? 使用済みの人のものを?! 冗談じゃないわよ!」
両角「すみません、じゃ持って帰りまーす」
玲香「最初からそうしなさいよ!」
ちょっとどころじゃなくかなり驚かされた。
♢
春泉「ハルミはひとりだけど、この子たちをひとりにさせるわけにはいかないよね」
おむつを替えながらそうつぶやく。
春泉「ウミには言えなかったけど、ハルミずっとハミゴにされてた……」
思い出したくもない記憶の数々。そのひとつひとつがいまでもハルミの心を抉ってやまない。
春泉「ミズぶっかけられておもらししたとき、あいつずっと笑ってた……クサいクサいって」
そんなひとりを脱したくて、生徒会委員になるため努力した。
春泉「最初はやっぱり笑われたけど、最終的にはみんな認めてくれて……スゴく嬉しかった」
だけど、天はそれでハルミを許してはくれなかった。
春泉「……ふたりとも出てった」
お父さんとお母さん。いまもどこにいるかわからない。
春泉「スゴくさみしい。妹たち元気かな……」
早くから自分でなんでもできるよう身につけさせ、家から出した。
春泉「ハルミは信じたい。いまもどこかで元気でやってること……」
消息はつかめない。不良にはならなくても、あるいはなったとしても、どちらにしろ苦しいと思う。
ハルミにはもう救えない。育てることに限界を感じたから。きっと恨んでるよね……。
春泉「くちゅん!」
きょうも冷える。最低限の衣食住とそれなりのおしゃれ。バランスはとれてるとは言い難い。
春泉「誰がハルミたちを救ってくれるの……?」
寒空を見上げ、ぽつんと立ち尽くす。
未咲「春泉ちゃーん!」
笑顔で駆け寄る声。誰かなんて、とっくに知ってる。
春泉「ミサキ……」
ミサキは元気だけど、妹たちはどうだろう。見えない不安がそこまで押し寄せている。
未咲「あのね、支援受けられるって!」
春泉「わざわざそれを知らせに来たの……?」
未咲「うん! この街に移住した人限定ってことにはなるんだけど……どう? 一回考えてみるのもいいんじゃない?」
春泉「……そうだね。考えてみる」
チラシを受け取り、家路に着く。
春泉「信じて、いいよね……?」
思い立ち、申請を受けてみる。
役員「では、すべてご了承でしたらこちらに必要事項をご記入の上、印鑑を押してください」
春泉「どきどき……」
これで少しくらいラクになる。ハルミはそう信じてみることにした。
子供「えーん、えーん!」
春泉「あぁよしよし……いい子ね……」
強い母になる。そう決心がついた。
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