第2話 うみロコは変わらない?

 うみ「ロコ、頼む。あたしがトイレになるから、お前はそのままやっちゃってくれ」

 ロコ「えっ、さすがにそれは恥ずかしいよ……せめてパンツは脱がせてほしいな……」

 うみ「ダメだ。約束したろ? これからはそういうプレイをするときは、そうするって」

 ロコ「言ってないよぉ……うみちゃんが勝手にそう思ってるだけだよね……?」


 うみちゃんは見た目こそ変わってないものの、変態に磨きがかかった気が……。


 うみ「お願いっ、頼めるのロコくらいしかいなくてさ……あたしもヘンだとは思ってる。だけどもうここまでくるとそうしたくもなるだろ? わかるよな? 昔からずっとそうしてきたじゃないか……」

 ロコ「う、うん……だけどやっぱり恥ずかしいよぉ……」


 ムズムズする感覚だけはあの頃と本当に変わりがない。だけど何かが変わっちゃった気がする。


 ロコ「おしっこ我慢するのって、こんなに恥ずかしかったっけ……?」


 みるみるうちに赤くなるところを見ると、これはもうガチで恥ずかしいんだろう。


 うみ「いい表情してんな、おい……さすが、あの頃と寸分もたがわないあたしだけのロコだぜ」

 ロコ「よ、喜んでいいのかどうかわかんないよぉ……」


 アイドル級のかわいさをキープできてんのはほんと敬服に値する。あたしにはムリ。


 うみ「なぁ、そろそろいいだろ? ロコもおしっこしてきたくなった頃合いだろうしさ」

 ロコ「うん……」


 切なげな表情を浮かべ、きゅっと太ももを閉じる。


 ロコ「いくよ……?」


 それからロコは丁寧に、出始めから何から何まで言葉にしていき、あたしの口の中に入れていった。


 ロコ「おいしい、かな……?」

 うみ「うーん……お世辞にも美味しいとは言えないかなぁ……」

 ロコ「あはは、だよね……」

 うみ「でも、しっかりロコの味がする。あたしにはもうそれだけで十分なんだよ」

 ロコ「そう、なんだ……」


 言った刹那、ロコのだいじなところからゆっくりと、そして幸せそうに溢れ出していた。


 ロコ「なんだか不思議だよね……大人になってもこうやっておもらししちゃうなんて……」

 うみ「なに、じきにそういう歳になる」

 ロコ「そっか、そうだよね」


 妙に納得し、そこで排泄が終わった。


 ロコ「気持ち、よかったよ」

 うみ「そっか、よかったな」


 お互い笑顔を浮かべて、なかよく帰っていった。

 ちなみにいまでも家は近く、これはほんとうになにかの巡り合わせだった。


 ♢


 アパートの一室。そのお隣がうみちゃんの住まいだった。


 ロコ「えっ?! うみちゃん?!」

 うみ「よっ、久しぶりだなっ」


 面影は残しつつ喋りかたはすこし変わっていて、ほんとに男のひとが喋っているのかと思った。


 越してきてよかったと思う反面、どこか言葉にしづらい感情がどうしても渦巻いてしまう。


 うみ「俺はここの504に住んでる瀬戸内うみ。よろしくなっ」


 決まりきったあいさつだったけど、どこか他人くさい。そのあとの言葉があればよかったけど、うみちゃんはそれっきりで、すぐさま次の話題にうつっていた。


 うみ「最近あれ見た? あの番組面白かったよなー」

 ロコ「う、うん、そうだね……」


 うまく溶け合えない。何かが変わってることに気づくのに、それほど時間はかからなかった。


 ロコ「(あれ……? うみちゃんの一人称、『俺』に変わってる……)」


 違和感はさほどなく驚きこそしなかったけど、そうなるんだ……って思いは少しあった。

 あのころの『あたし』はきっともう、いない。


 うみ「俺さぁ、ぼんやり思い浮かべてることがあってさ」

 ロコ「……」

 うみ「どうした、ロコ?」

 ロコ「……ううん、なんでもない」

 うみ「そっか……話続けるぞ?」

 ロコ「うん……」


 せっかく久しぶりの再会なのに、こんなときに限って尿意をもよおしてしまう。


 ロコ「はぁ、はぁ……」


 肝心な部分を思いっきり押さえて手汗をかくほど我慢してみても、うみちゃんには届かない。うみちゃんってこんなにも鈍感だったの……?


 うみ「いや〜、結構話したな……大丈夫かロコ、疲れてない……えっ、どしたん? その感じ……」

 ロコ「……うみちゃんってほんと気が利かない! わたしのこれ見てなんとも思わなかったの……?」

 うみ「あー悪かった悪かった。いまから家あげるから。間に合うよな?」

 ロコ「無理だよぉっ! うみちゃんずっと話してるし、聞かなきゃって思ったから……」

 うみ「お前のそういうとこ、全然変わんないな……」

 ロコ「そりゃそうだよ……逆にうみちゃんはどうしちゃったの?! わたしの知ってるうみちゃんはそんな感じじゃなかった!」

 うみ「もう忘れたよそんな昔のこと……これから取り返すから、とりあえず今回のところは……」

 ロコ「やっ……もうだめぇっ……」


 そうしてロコは、あたしん前できれいにぶちまけていった。


 うみ「そんなに我慢できなかったのかよ……」

 ロコ「うみちゃんのばかぁ……」


 可愛いと思ってしまった。だけど、それで済むような問題でも同時になかった。


 うみ「俺んとこ来い。拭いてやる」

 ロコ「……おねがいね?」


 涙も下も拭いたところで、ロコに笑顔が戻ってきた。これでもし嫌われでもしたらどうしようかと……。


 うみ「これでよし、と。風呂入るか?」

 ロコ「お風呂に入る、ということは……」


 いろいろ想像が浮かんだけど、可能性をひとつひとつ潰していくと、気になることはひとつ。


 ロコ「わたし、うみちゃんの下着とかつけることになるよね……?」

 うみ「まぁ、そうだな」

 ロコ「それはいいよ! だったらわたし隣だし、ここで帰るよっ?!」


 なにか特別な思いでも抱えていたのかもしれない。このときわたしはあまり深くは考えなかったけど、もしかするとそういうことだったのかも。


 で、そうなった。


 日が改まり。


 うみ「ぷはーっ! やっぱうめぇなぁ」


 断っておくけど、お酒だよ?


 ロコ「すごく飲むんだね、うみちゃん……」

 うみ「あたりめぇよ! あたしがどんな、ひっく、毎日扱い受けてるか知らねぇだろ?!」

 ロコ「そりゃわからないけど……」

 うみ「だろ? だったらあたしの話を素・直・に! ききなさいって〜の!」


 そう言われて数時間、わたしは家飲みにつきあわされるはめに……。

 そういえばこのとき、喋りかたがあの頃に戻ってた気がする。


 うみ「上のやつにさ、『お前はこんなこともわからないのか』とか言われたくねぇんだよ毎日毎日……あたしの限界値知ってくれよぉ!」

 ロコ「それは大変だね……」


 泣きが入るとまた長い。ここから2時間くらい経った気がする。わたしにとっては長い時間のように思えた。


 うみ「最悪の場合首吊ろうかと……」

 ロコ「そこまで思い詰めるくらいなら、もうその職場やめたほうがいいんじゃないかなぁ……」


 ちなみにわたしは受付の仕事をしていて、毎日充実していると感じている。


 ロコ「じゃわたしもう帰る」

 うみ「はいちょっと待った〜」


 喋ってる途中で遮られ、呼び止められてしまった。


 ロコ「やだっ、そこさわんないで……」

 うみ「おまえもちょっと酔ってんだろ〜? だったらちょっと自分開放してみろよ〜」

 ロコ「だめだって……いまうるさいんだよ? そういうセクハラ? みたいなの」

 うみ「同性どうしなんだからいいじゃ〜ん」

 ロコ「それもだめっ……あぁっ、とにかくトイレいかせてよぉ……っ」


 もじもじしながらう〜んう〜んと言い、久しぶりに感じる尿意の苦しみにさえ酔っていた。


 うみ「いきたいの? そんなに? どうせまた間に合わなくてやっちゃうくせに?」

 ロコ「そんなことないから、いかせて……っ」


 ロコの酔い始めは早く、一口含んだと思えばもう顔を真っ赤にしていた。おかげで尿意も早く……。


 ロコ「やっ、なんでぇ……」


 このひとことが出た、ということは、もうこのときには出始めてた、ということなんだろう。


 ロコ「どうしよう、うみちゃん……わたし、うみちゃんの家の床のカーペット汚しちゃう……」

 うみ「あー気にすんな、あたしがなんとかしとくわ」

 ロコ「そう? だったら……」


 正直これが誘導だったなんて、酔いが覚めてからじゃないとなかなか気付けない。


 ロコ「ぐすっ、うみちゃんひどい……」

 うみ「ごめんって。俺もそんなつもりじゃなかったんだよ」

 ロコ「さっきのは、うみちゃんの素の部分……?」

 うみ「まぁ、そうなるな」

 ロコ「やっぱりひどい……!」

 うみ「あー、泣くなって! ほら、お前この前ゲームセンターで見かけたカピバラのぬいぐるみ欲しかったろ? あれ俺が頑張ってゲットするから、な?」

 ロコ「そんなのいらないもん……」

 うみ「おーすねか? すねがはいっちゃうか……そうか、そうか……」


 いまのほうがよっぽど子どもっぽいよな、昔なんかと比べて……っていったらあれだけど。

 とにかく喜んでほしい……そう考えて浮かんだこと。


 うみ「俺、やっぱこの一人称やめるわ」

 ロコ「えっ……?」

 うみ「なんかさ、違和感あっただろ? あのころの……そう、あたし? じゃないみたいでさ」

 ロコ「そう、だけど……いいの? いまのうみちゃんにとっては、そっちのほうが馴染んでたはずだよね……?」

 うみ「いいんだよ。あたしはあたしだ」

 ロコ「うみちゃん……」


 だけど、意図せずおもらしさせたという事実だけはどう取り繕っても消えるものではない。

 それでも昔に戻れたような気もして、それはそれでなんだかよかった。


 うみ「これからもよろしくな、ロコ」

 ロコ「うんっ、よろしくね、うみちゃん」


 しみは消えないし、この関係もきっと消えない。いまはそう思いたい。

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