あいすくーる続編「オトナになった(?)あいすくーる!」

01♨

第1話 中学生のころのお話、そして現在のわたしたち 玲香編

 あれは衝撃だった。

 気は熟したと言わんばかりに、未咲が席を立ちこう言い放つ。


 未咲「玲香ちゃん、おいしいおしっこの準備できたよ?」


 あの子はいつでも突然だった。

 いつの日からかバナナの美味しさに気づいたり、あれほどできなかった逆上がりが急にできるようになったり。


 わたしにも、そんな才能があったら――。


 玲香「ってちょっと待ちなさいよ……えっ、いまあんた『わたしのおしっこ飲んで?』みたいな意味合いでそれ言ったの?」

 未咲「そうだよ? なにかおかしかったかな?」

 玲香「いや、いいわ……わたしがおかしいだけかもしれないから……」


 いま考えると、そんなこと絶対にありえないことくらいよくわかる。だけど、ありえないことが起こったりするのもこの世界の七不思議のひとつだった。


 この子は、それだけ特別だったのだ――と。


 玲香「おしっこを飲むってすごく抵抗あるんだけど……あんた、味の保証はできてるんでしょうね?」

 未咲「う〜ん……まぁもしまずくてもひと思いにごくっていっちゃってよ」

 玲香「怖いなぁ……」


 我慢できなくなりそうな未咲を見ながら、そう思った。ただ、そこまで危険な感じはむしろ漂ってこなかったので、すこし不安ではあったけど未咲を全面的に信用することにした。


 未咲「はぁ、はぁ……ねぇれいかちゃん、はやく、してっ……わたし、もうがまんのげんかいだよぉ……っ」


 このころの未咲はまだ恥じらいがあり、かわいげがあった。

 いつからああなったかは知らないけど、とにかくこのころの未咲はかわいい。


 だからかな、高校にあがってからもすんなり抵抗なく飲み続けられたのは。


 ただ、このときほんとうに飲んでいいのかどうかなんてわからなかった。

 なので、念のためもう一度たずねることにした。


 玲香「ねぇあんた、ほんとにあんたのおしっこ、飲めるようになったのよね?」

 未咲「ほんとだって言ってるでしょ! はやくのんでっ、もれちゃうからぁっ」


 ふるふると震える太もものその上あたりからは、ぷしぷしっとすこし漏れ出してきている。下着越しからいい香りがした。ほんとうにそうなってしまったんだ、とわたしはこのときはっきりと悟った。


 玲香「あんたってほんと、どこの星の子なのかしらね……」


 ゆっくりと腰をおろし、導かれるように未咲の股間に顔を接近させる。


 玲香「それじゃいくわ」

 未咲「ちょっと待って! やっぱりおもらししたくないっ!」


 そういってしゃがみこむ未咲。こうなってはとる方法はひとつ。


 未咲「ひゃんっ?!」


 ごろ寝の態勢でパンツの大事なところが丸見えのスタイル。いわゆるまんぐり返しだ。


 玲香「これならいけそう?」

 未咲「いけそう、って……やだぁっ、こんなの恥ずかしいよぉっ」


 そのとき、しゅっ、しゅぅっ、とほんとうに恥ずかしい音。


 未咲「あっあっだめっ、もうほんとにげんかいっ、おしっこがまんできないっ」


 続けさまにしゅぅっ、しゅぅぅぅっ……と、今度ははっきり聞こえるように。


 未咲「れいかちゃぁん……はやくのんでぇっ……」


 まるでとらわれた獲物のように怯え涙する当時の未咲。


 玲香「……これならいけそうね」


 わたしも納得するようなにおいがかすめ、静かに頷いた。


 未咲「もれちゃう……おしっこ、もれちゃうよぉっ……!」


 しゅぅぅぅぅぅぅっ……。とても長い時間だったように思う。

 まるでトロピカルな、どこか夏を思わせるミックスの味。

 りんごやバナナ、果てにはマンゴーやオレンジ、そして……。


 玲香「……さば?」


 思えばこのときから、未咲のどこかちゃらんぽらんなようで意外と芯が通った感じを覚えていたのかもしれない。

 ほんとにお店で売っているような、あのさば缶みたいな味がほんのりとだがしていた。


 未咲「れいかちゃん、もういいよ、はなれて……」


 まだ出続けてるのにこの発言。ほんとうにあのころの未咲はピュアだった。


 未咲「おしっこくさいでしょ……っ、だから、ほんとにはなれてぇ……」


 言えば言うほど、いきおいが増していく。言わないほうがいいとさえ思った。


 玲香「いいから黙って、わたしが飲み終わるまで待ちなさい。あとでわたしのも飲ませてあげるから……」


 この関係性はすでにこのころから出来上がっており、


 未咲「よかった……じゃ、いっぱいだすねっ」


 たちまち元気になる。この子の感性にはついていくだけで精いっぱいだ。


 玲香「もっと飲んでおいた方がいいかしら?」

 未咲「いいよ……どうせわたしの中で全部解毒されるし……」


 わたし、つまり未咲の体内は神秘に満ちている。誰にも覗きようがない。

 覗こうとしたところで、きっと覗かれるだけだろう。やめておいたほうがいい。


 飲むのをやめたところで、当然ながら未咲のおしっこが床に流れていく。


 未咲「あー……また掃除しなくちゃね」


 そう言いながら、未咲は笑顔になって最後になってなおいちばんいきおいよく出し切った。


 玲香「じゃ、わたしがもよおすまでそのまま待ってなさい」

 未咲「どうせすぐしたくなるくせに~」

 玲香「そっ、そんなことないわよ」


 言ってるそばからぞぞぞっと寒気が襲い、その影響はすぐさま下半身へ及んだ。


 玲香「やだっ、まだしたくないのにっ」


 このころの玲香ちゃんもかわいかったなぁ……あのころに戻りたい。


 未咲「ふふふ~、どうするどうする~?」

 玲香「その笑顔やめなさいよねっ……あぁっ」


 いきのいいのが二、三回、じょっ、じょっと溢れてくる。


 未咲「その様子だと、もう数分ももたなそうだね~」

 玲香「……未咲、恥ずかしいけど飲んでくれるかしら?」

 未咲「お安いご用だよ~」


 未咲は他人のおしっこさえもおいしく感じる器官が備わっているようで、これに関してはもはや誇っていいほどの唯一無二さを感じた。


 玲香「い、いくわよ……まずかったらごめんなさいね」

 未咲「そんなことないから、えんりょなく出して?♡」


 玲香ちゃんの呼吸が早くなる。


 玲香「はぁ、はぁ……やだっ、どうしよう、漏れちゃう……あんっ」


 ものの数秒後に、それは未咲の口にするすると入っていった。


 玲香「未咲……飲んでるわよね?」

 未咲「(とうぜん、でしょ……?♡)」


 終始笑顔だ。大人になったいまとなってはもはや驚きもしないけれど、このときの未咲はとにかく強い。


 未咲「もう終わりかな?」

 玲香「……だったらなんだっていうのよ」

 未咲「そうだね……もうちょっと出せる?」

 玲香「ほかの子で我慢しなさい」


 じつは当時この他にも未咲は関係をもっていて、わたしは少し嫉妬していた。そして、そのことを残念かな、容認していた。

 未咲のことだから、いずれはわたしのもとに帰ってくるって信じてたけど。


 未咲はとにかく同性にもてまくっていた。そのことが、わたしを少しならずかなり歪ませたのかもしれない。将来の夢さえ変わるくらいに。


 わたしはひたすら安泰を望んでいた。だけどそんな人生、つまらないと思った。

 だからわたしはいったんこの国を飛び出して、旅に出た。


 玲香「懐かしいわね。この潮風を浴びているとあの子を思い出すようで」


 未咲の苗字が(漢字は違うけれど)くしくもそうである、という理由だけではなく。

 いつの日かわたしたちは、一線を超えるような関係性になっていたからだ。


 未咲「あぁんっ、玲香ちゃんはげしいよぉっ」

 玲香「イキなさいっ……天井を見上げながら、なさけなくひぃひぃと……♡」


 正直、あの中学生のころに一緒にいれなかったぶんのストレスを発散していたのではないか、といまにして思う。


 玲香「ひどいことしてしまったわね……あの子いまごろ泣いてないといいけど」


 ……勘が当たっていたようで。


 未咲「玲香ちゃん、会いたいよ……」


 普通のOLになったわたし未咲は、連日の激務に耐えかねて泣いていた。


 未咲「あの子がいないとわたし、こんなにもやる気が出なくなってたんだ……」


 とっくに忘れてもいい頃合いのはずなんだけど、なぜかそうなる。


 未咲「もう、仕事やめようかな……」


 そう思い切り、長らく勤めていた職場を離れた。

 そしてその間に貯めたお金を、玲香ちゃんに会うために使うことにした。


 最初は右も左もわからず、なにもかもひたすらアプリに頼りきりだったけど、

 ある日、有力な情報を思いがけず街の人から聞き出すことに成功した。

 街の人はこう言っていた。


 男性「レイカ? ああ、あのハルミって子といっしょにいた子かい?」

 女性「あの子たちってほんとフレンドリーだわ。娘にしたいくらいね」


 春泉ちゃんといっしょ……? どういうことだろうと最初は思ったけど、そういえばあの子、妙に片言だった記憶が……。


 未咲「……いま、すべての謎が解けた気がする」


 春泉ちゃんはもったいぶってぜんぜん教えてくれなかったけど、きっとそういうことだ。あの子、帰国子女だったんだ。


 未咲「あーあ、英語のテスト勉強、ちょっとくらい助けてくれてもよかったのになー……」


 わたしもすこし、いや、けっこう年をとった。わたしより上の人たちからしてみれば全然なんだろうけど。


 未咲「いま何してるんだろう、あのふたり……」


 見えるようで見えてこない。だから、会うのもすこしこわい。


 未咲「玲香ちゃんに会える……いかないと!」


 その後のことはよく覚えてない。早足でたったったっ、とがむしゃらになって走っていたことだけはぼんやりとだけど覚えてる。


 思い切って扉を開けてみる。


 女性「ちょっとあなた! 不法侵入よ!」

 未咲「わかってます! 玲香ちゃん!」


 我ながらひどい返事をしたものだ。女性がこの世のものとは思えない顔をしている。あとでちゃんと謝っておかないと……。


 玲香「なに」


 そのひとことだけをくれてやり、長い沈黙が続いた。


 未咲「えっとー……元気、だった?」


 久しぶりに会って、その一言を紡ぐだけでこんなにも時間がかかってしまう。


 玲香「ええ」


 再び沈黙。何か言わないと……そう思っていると、不法侵入と言ってきた女性がわたしの両肩をつかむ。


 未咲「待ってください! もう少し話がしたいんです!」

 女性「悪いけど帰ってもらえるかしら? ご覧の通り彼女、ずっと口を紡いだままよね?」

 未咲「わかってます……それでも話がしたいんです……」

 女性「はぁ……あと5分だけよ」


 最後のチャンス。そう思ってわたしは玲香ちゃんに話しかける。


 未咲「玲香ちゃん……聞こえてるよね? 返事をして!」

 玲香「……」


 聞こえないふりだろうとは思うけど、気まずい空気が流れ続けている。


 未咲「わたし、がんばってお金貯めてここまで来たの。だからお願い、まずはわたしのほうを向いて!」

 玲香「……」


 ゆっくりとではあるけど、わたしのほうに顔を向けてくれた。


 未咲「あれから何してたの? これからどうするつもり?」

 玲香「あんたが知るまでもないでしょ」

 未咲「それはそうなんだけど……」


 すると突然、玲香ちゃんがわたしをまじまじと見て笑った。


 玲香「ふふ、相変わらずおもらししてそうな顔してる」

 未咲「それ、どういう意味……? 場合によったら嫌がらせだよ?」

 玲香「ふぅん……あんたもそこまで言うようになったのね……」

 未咲「玲香ちゃん、ほんとに変わっちゃったの……?」

 玲香「言わせないで頂戴。わたしはあんたとは違うって」

 未咲「それはそうなんだけど……う~ん、どうしたらいいの……?」


 ふとこみあげる尿意。こんなところまで来てみっともなく漏らすわけには……。


 玲香「あんたにしかないものがあって、私が獲得したいものがある。そうでしょ?」

 未咲「それもそうなんだけどぉ……」


 怖くなってきた。泣きたいくらいに。大人になっても怖いものは怖い。だけどこんなに幼馴染が怖いだなんて、思ったことはない。


 玲香「なに? 私が怖いの?」

 未咲「ち、違うよぉ……っ」


 このときすでに、つつーっと太ももに汗をかき始めていた。


 玲香「中学生のころのあんたに戻ってる」

 未咲「それって嬉しいの……? もしかして馬鹿にしてる……?」

 玲香「いいえ。本来のあなたが見れて、私は嬉しい」

 未咲「うーん、ちょっと複雑だなぁ……っ!」


 いままで我慢してたものがぎゅっとそこに凝縮されているような気がした。


 未咲「うわぁぁぁぁぁぁぁん! 玲香ちゃん、会いたかったよー!」

 玲香「はいはい、もうすぐ時間だから、早く出しきるのよ」

 未咲「うぅ……大人になっちゃった玲香ちゃん、どこまでも冷たいよぉっ……」


 早く去れ、なんて言われなくてもそうするつもりだったけど、ここにきて少し虚しさを覚えた。そのせいで漏らすスピードまで変わってしまっているようだ。


 玲香「……この子の排泄、思ったより長いわね」


 青筋が立ちそうになっているけれど、完全には立っていなかったので、そのへんのやさしさはまだ残っているのかも、なんて思えたりして嬉しくなった。


 玲香「最後になることもあるかもしれないし、しっかり目に焼き付けておこうかしら」


 これからわたしはいろいろな人とかかわりを持つようになりそうなので、今度いつ未咲に会えるか、ということがまったくといっていいほどわからない。


 だから、そう思った。


 未咲「(あの頃みたいに『玲香ちゃんのおしっこ飲ませてほしい』なんて言えないよね……)」


 言いたかったけど、ここはぐっとこらえることにして、その場を去った。


 玲香「(いまごろわたしのおしっこ飲みたかった、なんて考えていそうね……)」


 そうだとしてもさせないけど。


 玲香「(それにしてもあの子、いくつになっても強烈ね……今回が最後かもしれないけど、ドリアンの香りさせて立ち去っていったわ……)」


 あとでおいしくいただく方法を考えておこう。


 玲香「(さて、用も済んだことだし……ってこの言いかたはこの流れだとなんとなくちょっとまずいわね……身支度をしてここを去ろうかしら)」


 仮住まいの自宅の片づけは春泉に完全に任せるとして、わたしは行く。


 玲香「あとでついておいでなさい、春泉」

 春泉「うん、待っててよレイカ」


 春泉の目は死んでいた。


 春泉「ねぇレイカ、ミサキにちゃんづけで呼ばれてうれしかった?」

 玲香「……想像に任せるわ」


 ぎぃぃ、ばたんと扉を閉じた。

 「怖い」の関係逆転、それじたいが怖い。ハルミはそう感じた。

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