相合傘
三郎
本編
天気予報では晴れだったのに。予報外れの雨が降る窓の外を眺めながら、置き傘をしておいて良かったなと、少女はため息を吐きながら下駄箱へ向かう。靴を履き替えていると「あれ、私の傘なんだけどなぁ……」という呟きが背後から聞こえてきた。声の主は、少女のクラスメイトの女子だ。視線の先には傘立てからビニール傘を取り出す二人組の女子生徒。「これ使おうか」「でも、誰の傘かわかんないのに……」「だからだよ。ビニール傘なんて盗んでもコンビニで買ったって言えば誤魔化せるじゃん」などと話す声が聞こえる。少女はため息を吐き、傘立てからもしもの時ように置いていた傘を二人に差し出した。
「貸してあげる。私の傘、ちょっと大きいから二人で入るならこっちの方が良いでしょ。その傘は私のクラスメイトのだから、返して貰うね」
そう言って彼女は自分の傘とビニール傘を無理矢理交換した。
「いくら困ってるからって、勝手に借りちゃ駄目だよ。傘だろうがなんだろうが、無断で借りれば窃盗だからね。良かったね。犯罪者になる一歩手前で済んで」
少女が優しく諭すと二人は気まずそうにお礼を言って、逃げるように去って行った。
「私にお礼言うんじゃなくてあの子に謝罪すべきだと思うんだけど……まぁ良いや。君の傘だよね?はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……けど……良かったの?あなたの傘……」
「私は大丈夫。折り畳み持ってるし」
「風、結構強いけど……」
「大丈夫大丈夫。またね」
クラスメイトを見守り、少女は外に出ようとはせずに玄関で友人を待つ。
「あ、来た。ねぇ、置き傘してあるよね?」
「してあるけど……」
「いーれーて」
「……あなたも置き傘してなかった?」
「困っている人が居たから貸しちゃったんだ」
「折り畳み持ってるでしょ」
「忘れた」
「……はぁ。分かった。入れてあげる」
「ふふ。ありがとう」
少女の友人は、渋々傘を差した。背の高い少女が傘を持ち、一つの傘に二人で入りながら通学路を歩く。
「……本当に貸したの?」
「貸したのは本当。折り畳み傘は持ってる」
悪びれる様子もなく正直に答える少女に、友人はため息を吐く。
「……だと思った」
「ふふ。ごめんね。狭い?」
「……このままで良い。今日は風も強いし、折り畳みじゃ頼りないでしょうし」
「ふふ。ありがとね。ねぇ、知ってる?雨の日の傘の中ってね、人の声が一番綺麗に聞こえる場所なんだって」
「そう」
「だから、私以外の人に相合傘しないでね」
少女がそう笑うと、友人は真っ赤になった顔を彼女から逸らし「しないわよ」と呟いた。
相合傘 三郎 @sabu_saburou
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