四十九 明智光秀
果心とともに堺に身を久秀は潜めた。
茶の湯を
その堺で、特に
その計らいで、こざっぱりした住まいに落ちついてしばらく、宗久の茶会に招かれた久秀は、その席で、明智光秀を紹介された。
この年、朝倉義景に使えていた光秀は、その居城、
二条城で久秀らの手にかかって死に追いやられた将軍、足利義輝の、義昭は弟である。
朝倉義景を頼って京から逃れてきた義昭は、再び政権を握らんがために義景に
ただ、これを覇権の好機と考えた光秀は、義景に鉄砲の買い付けを願い出た。
「ここで義昭様をお護りするにせよ、上洛するにせよ、備えは必要かと存じます。また、一向衆への抑えともなりましょう」
天王寺屋でその鉄砲を
「道意様にございます」
最初、それが松永久秀であることに光秀は気づかなかった。
「松永道意と申す」
「松永……」
つぶやいて道意の顔を改めて見た光秀に、
「久秀でござる」
不敵な笑みを久秀は見せた。
足利義輝を手にかけた久秀を、その弟の接待役を仰せつかっている朝倉の家臣として、見逃せない立場に光秀はあった。
しかし、そんな光秀の思いには気づかぬように、
「以後、お見知りおきを」
平然と久秀は言った。
「明智光秀」
低い声で名乗って、顔を光秀は背けた。
その様子を
「人の出会いは、面白うございますな」
言って、作法通りにまずは久秀に茶碗を差し出すと、自らの言葉で宗久は思いついたように、
「そう言えば、道意様は、なにやら面白い法師を飼うておられる、と
器を手に、
「別に、飼うておるわけではございませぬが……」
それを眺めながら、
「なかなか、手に入らぬものにございましょう」
と道意。
「器にございますか、それとも法師にございますか」
確かめるように言葉を投げた宗久に、一つ笑って
「結構な
「そやつには、何度も命を救われ申したが、わしの女を
思わず久秀に光秀は目をやった。
「いずれ、その者もお連れ願いたい」
「さて、気が向かねば、わしの言うことなど聞きもいたさぬが、さにあらずば、すでにどこぞにおるやもしれませんぞ」
面白そうに言いながら、狭い茶室の空間を久秀は見回した。
つられて
「あ」
揃って声を二人が上げると、
「果心にございます」
深く下げた
「今のは……」
問う光秀に、
「我が外法にございますれば」
答えたのは、久秀の声だった。
新しく手に入れた玩具を友だちに見せて喜ぶ子どものような久秀のその顔に、光秀はしばらく見入っていた。
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