四十六 清明神社
安倍晴明神社は、平安の昔に名を
果心でなくとも、小半時もかからぬ距離、流酔の屋敷から西にそれはある。
ただ、そこへ至るには、堀川にかかる一条
しかし、そこで果心を待っていたのは、式神でも死霊でもなかった。
橋の中ほどにかかったとき、行く手に現れた虎が
頓着することなく、走りながら頭上に右手を上げて掌を天に果心が向けると、朝焼けの空に黒雲が
同時に、唸り声を発して虎と狼が襲いかかったのが合図であったかのように、宙空に右手を大きく果心が回したそこから、稲妻とともに走り出た龍が旋回し、それに巻かれた黒雲が渦となって天の一点に吸い込まれるごとくに橋の上の龍虎は消える。すかさず
しかし、橋を渡り切る前に、
「待て」
現れた大男の突き出した両手から飛び出した左の狼には己の龍を
舌打ちしてすぐに巨大な虎を新たに放とうとする大男の足下に素早く欄干から飛び降りた果心はしゃがみこみ、それに大男が目を向けたときには、地面に果心の描いた円の中に、そいつは吸い込まれていた。
清明神社の鳥居の前には、髪を振り乱した女の首が三つ、じゃれあうように飛んで、果心の行く手を妨げたが、これらも果心の龍の
「ここまでよ」
笑った刹那、背中から果心を斬りつけたのは、髭面の野武士だった。
だが、斬られたはずの果心の姿は、
「したり。これも目眩しか」
言って辺りを見回す二人の足下にいつのまにかがんでいたのか立ち上がって二人の首筋に、両手を果心は当てがう。とたんに、息の合った道化役者のように、大きな痙攣を三度見せて、その場に二人は崩れ落ちた。
参道を、そのままゆるりと歩いて社殿の前に立った果心の背後に、
「やはり、急ごしらえの罠にはかからぬか」
現れたのは、朝日を背にして黒い影となった飛び加藤、加藤段蔵である。
すぐに右に走って立ち位置の不利を覆そうとしたが、影を消して太い光の束を加藤は投げつけた。
光の束とともに飛来する数本の短刀は、しかしことごとく果心の目の前で止まる。
長い爪の真っ赤な手や毛むくじゃらの手が、それらをつかんでいる。
「式神か」
飛び加藤が呟いた瞬間、いっせいに刃は投げ返される。
それを鳥居の上に飛んでかわした加藤は、
「我らを邪魔立てした代償は、必ず払うてもらう」
笑ってそこから飛び去った。
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