四 無間の術
その夜、耳を引っ張った兄弟子に、
「無間さんは、大仏建立のおり、
平家に焼かれた大仏が
鑑真和上の渡日の際ではなく、大仏再建の法要では話が違うのではないかと思いながら、
「天竺とは、いずれにありましょうや」
素朴に問うたよたに、なんだそんなことも知らぬのか、といった口ぶりで、
「
兄弟子は答えた。
それで、よたの中でつながった。
「無間さんは、ほんとうは鑑真和上の外法師の末裔ではありませぬか」
「げほうし?」
「鑑真和上の船を、嵐より護る外法を
「さあて、船を護るか否かはわからぬが、無間さんは
「不可思議な術?」
今度はよたが問い返した。
それを待っていたように口元に笑みを浮かべて兄弟子は、
「木の葉を蛙に変じなさる」
「木の葉を蛙に?」
「そうじゃ。その蛙を猿沢池に放すと、元の木の葉に戻る」
「ご覧になったのですか」
「見た」
と言い切った兄弟子に、よたは身を乗り出して、
「どのようにされたのでしょうか」
まさに、これをやりたかったのだと言わんばかりに、左手で木の葉をつまむ仕草を見せて、
「えいっ……」
鋭い声を上げながら、右手の人差し指でそれを兄弟子は指した。
「どのような修行を積めば、そのような摩訶不思議な術が遣えるようになりましょう」
よたの問いに、
「ようはわからぬが、
と言ってから、師僧の
「たかが
と兄弟子は言ったが、そんなことによたは気づきもしないで、
「目眩し?」
「無間さんも、
「子供騙し……」
少し気落ちしたようなよたの声に、己はさも大人だと言わんばかりの口ぶりで、
「それを喜んでおるうちは、まだまだ子どもということよ。はっ、はっ、はっ……」
と、いかにも
「もし、船を護る術をお遣いなら、子供騙しとは言えますまい」
よたのこの言葉に、一瞬、何か
「実はな……」
そこで、周囲を
「無間さんの遣う術は、子どもを騙すばかりではないぞ」
「子どもを騙すばかりではない術とは、いったいどのような術でございましょうか」
よたのその反応をいかにも待ち望んでいたように、ことさらに秘密めかした小さな声で、
「おなごを
言った兄弟子に、みぞおちの辺りから、身体の中に真っ黒な
「よたとか言うたか?」
まだ法名を、よたは
「……」
「その肌の色という、鼻、口、耳の形といい、よたの母こそ、無間さんの術に誑かされたのではあるまいか」
面白がる兄弟子の言葉が終らぬ前に、よたの胸の内で
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