理科の初恋

私は理科の授業が苦手だった。


小学校時代はよかった。それなりに楽しかったのだけれど、中学になると大嫌いになった。


その理由はひとえに理科の先生が嫌いだったからだ。有名大学出身のエリートでなにかと頭のいいことをひけらかすような先生だった。


とにかく、授業がついていけない子がいれば、罵倒するのだ。


「こんなものもわからないのか。本当にくずだな。僕がこんなにわかりやすく教えているというのに、どうしてわからないのか理解できないよ」


 なんていかにも高級そうな目がねをずらしながらいうものだから、とにかく生徒たちから評判のわるい先生だったのだ。


 ああ、最悪。


 もう最低。


 もう理科の授業ボイコットしようぜ。


 そんなある日。誰かがそんなことを言い出した。


 ちょうど2学期にすぐのことだったと思う。


 クラス全員で理科の授業をサボろうということになったのだ。


 それに反対するひとなんて誰もいなかった。


 だから、私たちはすんなりその先生の授業をボイコットして、先生たちにばれないように学校から出ていったのだ。


 もちろん、先生たちは大慌てだったに違いない。


 一番動揺のはあの理解の先生だろう。


 今ごろ、困っているだろうなあなんんて、想像しながら楽しんでいたことを覚えている。


 さて、学校をボイコットした私たちはどこへいったかというと、


 もちろん家には帰らなかった。


 実はそのまま学校の近くにある山にひっそりと隠れていただけだったのだ。


 その山には洞窟があり、私たちのクラス全員がすっぽりと入れるほどの洞穴だった。


 学校から近いからチャイムが聞こえる。


 授業が終わるチャイムが聞こえたら戻ろうということになったのだ。


 それから、私たちは仲良しの友達と思い思いに話をしながら時を待った。


「でも、その前にみつかったらどうする?」


 そんな意見もでたりもした。


「大丈夫。ここはおれのような地元のひとしかしらねえよ。先生はみんなよそもんだから、大丈夫」


 学校の近くにすむ男の子がそういった。その言葉を聞いて、私は不意に思った。


そういえば、理科の先生ってどこの出身だったのだろうか。


 いままで木にしたこともなかった。ただとにかく嫌いな先生だと思う気持ちだけで、それ以上の興味がわかなかったからだ。


「もうそろそろ授業おわるかなあ」


 だれかがそんなことをつぶやいたときだった。


「あれ? めまい」


だれかがそうつぶややいたときだった。突然地面が激しく揺れ始めたのだ。


「なに? なに?」


「地震!!」

 

 揺れはだんだん激しくなっていき、私たちに動揺が走る。


 悲鳴をあげるひともいる。


 とにかく、私たちはしゃがんで地震がおさまるのをまった。


 ようやくおさまるほっとしたのもつかの間。


  なにかが崩れるおとが聞こえてきたのだ。


「おい! 入り口が」


 だれかが叫んだ。


 振り向くと私たちが入ってきた入り口が瓦礫によって閉ざされていくではないか


 出る暇もない。


 一瞬のうちに外の景色が消え失せていき、暗闇の世界へとおとされてしまった。


「うそでしょう」



「でれないの」


 わたしたちに動揺が走る。


 どうしよう。


 どうすればいいのだろうか。


 誰からともなく、穴から出ようと崩れた瓦礫を排除するべくして入り口の方へと向かう。


 どうにか石をどかそうとするが、その石は大きくとても中学生のわたしたちには持つことさえもできないものだった。


「もうここから出られないの」



「助けてくれ」


「だれか、助けてくれ」


 もうあとは助けをも止めるしかない。


 私たちは外に聞こえるように必死に叫んだ。


 どれくらい叫んだのかはわからない。


 本当はさほど時間はたっていなかったのかもしれない。


 けれど、ものすごく長い時間がすぎたような気がした。

 

 不安で、


 不安でたまらず


 泣き出す子さえもいた。



「そこか!?」


 すると、瓦礫の向こうから人の声がした。


「ここです。助けてください」


 いちばん入り口付近にいた男の子が叫んだ。


「わかった。いま助ける。でも、少し待っていてくれ。必ず助ける」


 その声は頼もしかった。


 頼もしい心強い男の人の声に聞こえた。


 でも、不安は消えない。


なぜなら、外からまた声聞こえなくなったからだ。


 本当に助けてくれるのか。


 いったい、どうやって助けるというのか。


だれもが絶望的な不安を覚えながらも、その声の主に頼るしかなかった。


「待たせたな」


 そして、しばらくして再び声が聞こえてきた。


「いいか、僕のいうことを聞きなさい」


「はい」


「離れて」


「え?」


「とにかく、入り口からいちばん奥に離れてくれ。そこまで行けたら、合図しなさい。そうしたら、僕が入り口をあける」


 どういうことなのだろうか。


 その方法を想像できるものなどその場にはいなかった。


 みんなが困惑する。


「いいから、僕を信じて。早く」


 私たちはその声の主の言うことに従い、洞窟の奥へと下がった。


「離れました」


 クラスでいちばん声の大きな男の子がそう叫んだ。


「わかった」


 外から声がしたことを確認できたかと思ったら、突然入り口の瓦礫が爆発を起こて、あっという間に粉々になってしまった。


 その反動で私たちは思わず座り込んでしまった。


「大丈夫か! 君たち!!」


 開けられた入り口の向こうから顔を出したのは、なんとわたしたちが嫌ってボイコットした理科の先生だったのだ。


 先生は青ざめた顔でわたしたちのほうへと近づくと、けががないかを一人一人確認していった。


「よかったあああ」


 みんなが無事なことを確認しおえた先生は座り込んでしまった。


「ごめんね」


 突然の先生の謝罪に私たちは目を丸くしてお互いを見た。


「先生?」


「ごめんね。僕が至らない先生だったから、君たちに不快な思いさせたんだね」


「せんせい?」


「君たちが僕の授業ボイコットして、僕が思わず他の先生にいったんだよ。そしたらさ、君たちが僕の対応ですごくいやな思いしていたことを知らされたんだ。だから、反省したよ。今度からはちゃんとしたせんせいになるよ。ごめん」


そういいながら、頭が地面につくほどに下げる。いわゆる土下座状態だ。


 目の前にいる先生がえらく小さく見えた。


 そういえば、先生は新人だった。


 まだ不馴れな教師生活のなかで、本当はどう生徒に接していいのかわからずに戸惑っていたのかもしれない。


 だからといって、はっきりいって先生の授業のあり方を許した訳じゃない。


「先生。反省したならば、ちゃんとやってくださいね」


 私は思わずそういってしまった。


 すると何度もうなずいた。


 以外とこの先生は心が弱いかもしれない。


 プライドをひけらかしてその弱さを隠そうとしたというところだろう。



 その一件で少しは、先生への見る目がかわっていった。


先生も自分の学歴とかひけらかすこともなくなり、ちゃんと生徒たちに向き合うように努力するようになったのだ。



 それから十年もの月日が流れ


私は教師になった。



「久しぶりです。先生」


「久しぶりだね。 りかさん」


 教師一年目の赴任先は偶然にも先生の勤めている私の母校だった。


 なんかふしぎな感じだ。


「先生。私頑張りますね。絶対に先生のようになりませんから」


「いや。それはひどいなあ」


 ちょっとからかってみると、困惑する先生がなんだか可愛らしく思えたりもした。




ーーーーーーーーーーー



「初恋」関係ねえええええ



って話になってしまいました(--;)



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