あこがれのノーテイ
いつから彼は、なにもしなくなったのだろうか。
元は小学校の同級生だった彼は、いわゆる「悪ガキ」という言葉が似合いそうな子だった。
私の学校は集団登校だったから毎朝近所の子ども同士で学校へ行っている。
彼は私とは違う班だったけれど、なにせ集団登校というものは毎朝同じ時間に集合場所から出発するものだ。
だから、毎朝私の班と彼の班は途中で合流することになる。
合流するときは必ずといっていいほどに私たちの班が前にくるのだが、彼のいる班はわざとらしく車道にはみ出して、私たちの班を追い越していくのだ。時折、車が通って「危ないだろう」と怒られることもあるのだが、その直後に彼がとった行動はなんと怒鳴り声をあげた大人の乗る車に向かって石を投げるのだ。もちろん、車のほうが早いのだから、石は地面に落ちるだけだ。
すると、今度は同じ班の小さい子供にやつありしたり、私にむかって「なにみてんだよ。くそむかつく」と言い出したりもする。
ある時は、だれかをトイレに呼び出して脅したり、この前はよってたかってカツアゲしている姿も見受けられた。
先生にも大人たちにも目を付けられていて、いつも注意される姿が見受けられていた。けれど、反省しない。
すぐにいたずらするし、暴力をふるい。
素行の悪さは小学校でも有名だった。
そんな彼だったが、小学校を卒業して中学生にあがったころにはなぜかなりを潜めるようになった。
なぜなら、そんな素行の悪い彼よりもずっと荒れている少年たちがいたのだ。
髪は染めて、ビアスをする。リーゼントをしたり借り上げをしたりするし、普通の学校の窓ガラスを割るといったことをする中学生が私の通っていた学校で横行していた。
それを目の当たりにした彼には反面教師になったのかもしれない。
とにかくおとなしくなった。
だれかに声を荒げることもなく、暴力をふるうこともない。
いたって平凡な中学生活を過ごそうとしていた。
だけど、周囲はそれを許さなかった。
なにせ彼の小学時代の素行の悪さはそれなりに知れ渡っていたからだ。
自然と悪い人たちが絡んでくる。
その度に彼は傷が増えていく。
彼はただひたすら殴られつづけたのか。抵抗したのか。
私にははっきりと言えない。
ただ、彼に絡んでくる不良どもの様子を見る限りでは、彼が反撃した様子はなかった。
なぜなら、彼らが笑っているのだ。
彼を小ばかにしたように笑っている。そして、奴隷のような扱いをしていた。それに必死に耐えている彼が哀れにさえ思えた。
「どうして、従っているの?」
ある日、私は思いっきり尋ねてみた。
「別に……。ただ、もうひとを傷づけることに飽きただけだよ」
そういっている彼の眼にはくやしさが滲んでいた。
手をあげないかわりに手をあげられるというのは決してよいことではないのだと私は思う。
自分を犠牲にしてまで得られるものが本当にあるというのか。
私にはまったくわからなかった。
暴力はいけない。
だからっていって、暴力を耐えることが正しいわけじゃない。
「傷つけてもいいんじゃないの? へんに我慢するのはあなたらしくないよ。殴ってもいいんじゃないかな。正当防衛というやつよ。殴られたら殴られたよりも少し少なく返す。でも、なにかもらったら倍にして返せばいいのよ」
「はあ? だれのセリフ?」
「私の持論。倍返しするのはいいことだけだよ」
「おまえって、俺よりもやんちゃじゃないのか?」
「どういう意味よ」
私がムッとすると、彼が笑う。
その度に顔につけられた傷が痛むらしくて、最終的に「いててて」と顔をしかめるのだ。
それから、しばらくして
今度は不良連中が傷だらけで登校してきた。
そのかわり、彼はなぜかすがすがしい顔をしている。
おそらくちゃっかり自分を奴隷扱いした人たちに仕返しをしたのだろう。
あれは倍返しだったのか。少なめ返しをしたのかはわからない。
ただ、小学生のときのようなやんちゃ坊主の顔をしていたのは確かだ。
だけど、ほんの少し違う。
そこには少し大人になったやんちゃ坊主がいた。
そんな彼の姿にほっとする私がいる。
うーん。
どうなんだろうか?
正直、困った男の子なのだけれど、私はそのやんちゃさにどこか憧れていたのかもしれない。
やんちゃ坊主をノーティなんていった人がいたなあ。
それが正しいのかはわからないが、
まあ
とりあえず
このやんちゃ坊主をあこがれのノーティとでも
しておこう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます