横断歩道

 いつもの通勤道路。


 いつもの時間だと帰宅ラッシュで車が多く渋滞に巻き込まれてしまうのだが、その日は仕事がなかなかさばけずに残業する羽目になった。


 それもこれも新人のミスによるものだったので、私はただのとばっちりを食らったわけだ。だから、もちろん一言二言文句をいってやった。すると、新人はかなりふさぎ込んでしまった。


「はいはい。落ち込んでいるひまなーし。みんなで一気に片付けましょ」


 そういって、発破をかけ、同じ部署の同僚たち巻き込んで、新人のミスした分をカバーしてどうにか仕事を終わらせることに成功した。


 新人は必死に感謝していた。


「すみません。本当にすみません」

「いいのよ。失敗はだれにもある。新人はとくにね。今度から気を付ければいいことよ。次から気を付けなさい。お疲れ様」


 そう言いながら、新人にチョコレートを渡した。


 新人は面食らったような顔をする。


「君もがんばったからね。がんばったで賞よ」

「あ、ありがとうございます。明日からもがんばります」


 新人がはっきりした声で言いながら、頭を下げた。顔を上げた新人は少し元気になってきれたようだ。


 それから。各々が帰路についた。


 日はすっかり暮れている。


 車に乗った私は、いつもの道を走らせていた。


 いつもならば、たくさんの車が行きかうが、もうずいぶんと遅くなっていたために車は私の運転する車一台。


 両端が田園だらけだから、民家もない。


 ポツンポツンと佇む電灯だけが道路を照らしていた。


 そこにある信号機のない横断歩道の右端。


 だれかが手を挙げている。


 しかも小さい子供だ。


 もうだいぶん遅い時間だというのに、ランドセルを背負った子供が大きく手を挙げていた。


 時刻はもう十時を過ぎている。


 どうして、こんな時間に小さな子供がいるのだろうか。


 ふしぎに思いながらも、私は車を止めた。


 すると、子供がかけて横断歩道を渡る。


 わたり終えたのを確認するために子供の渡ったほうを見ると、子供がありがとうと会釈している。


「あれ?」


 私は違和感を覚えた。


 確か、渡る前は一人だったはずだ。 


 わたっているときも一人分の手しかなかった。


 けれど、渡った先には二人の子どもがいる。二人とも会釈している。


 もしかしたら、もう一人いたのかもしれないなあと思い、車を走らせようした。

 けれど、なんとなく子供へと視線を移した。


「あれ?」


 子供の姿はなかった。


 もうどこかに走り去ったのかもと思ったが、一本道だ。ガードレールをくぐって田んぼの中をかけていく以外の方法はない。もしかしてそうかもしれないなと思いながらも、気になってしまった。


 私は横断歩道を横切った先に車を止めると、降りて子供がいないのか確認した。

 けれど、子供のかけていく音も気配もしない。


 ただ、あるのは、横断歩道の左端に寄り添うようにある二体の子どもの人形だけだった。

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