ある議長はこう言った

「転校生がくるそうですね」


 小学四年生の三学期。地区ごとで集まって話し合いを行う“地区児童会”が行われた。


 年度末ということで、来年度の地区児童会の議長、副議長、一人ずつ。


 それと、書記を二人決めることになっていた。


 大概は新六年生から選ぶものなのだが、その地区の新六年生が三人しかいない。一人足りなかったのだ。


 自然と新五年生の私たちのうち、だれかが書記しなければならなくなる。


 いやだなあ。


 五年生からそんなことしたくないなあ。


 そんなことを考えていると、当時の六年生で地区児童会の議長をしていた女の子が言い出した。


「たしか、四月に転校生来るんですよね。先生」


 児童会の担当教師に尋ねる。


「そうだよ」


 それだけで想像はつく。


「たしか、高学年ですよね」


「ああ。まだ五年か六年か聞いていない」


「じゃあ、その子にしましょ」


 やっぱりこうくるよね。


 よくあること。


 いやなことはその日休んでいた人にしちゃぃましょうという流れ……。


 けど、転校生はないだろう。


 転校生は……。


 それは先生も思っていたのだろう。


 渋い顔をしていた。


 言えよ。


 先生


 はっきりダメだといいなよ。


 でも、そうなると私たちのだれかが書記をないといけなくなる。


 そう思うと複雑だ。


 議長は黒板に『転校生』と書き込む。


「あっ、そういえば、転校生って男の子?女の子?」


 議長が尋ねる。


「それもまだわからない」


 先生が答えた。


「じゃぁ、男か女かわからないなら」


 そう言いながら、議長は『転校生』の後に付け加えた。


『オカマ』と



「それはないだろう。すぐに消しなさい」


 さすがの先生も却下した。


 オカマはないだろう。


 書記にされたあげく、オカマ扱いされる転校生がかわいそうだ。


 っていうか、転校生を書記にするのはありえないだろう。


 何て学校だーって叫ばずにいられなくなるに違いない。


 そのまま、登校しなくなるぞ。


 そんなことを突っ込んだりしていた。



 まあ、結局は転校生が書記になることもなく、書記は一人で行うことに決まった。


 とりあえず、一件落着したわけだ。





 

 そして、四月になり、私のクラスに転校生がきた。


 転校生は男の子だった。


 女らしい男ではない。




 正真正銘のごく普通の少年で、オカマとは程遠かった。



 それから、十年後、大人になったその転校生は“スタイリスト”になった。



 オカマのスタイリストといえば、“IKKO”だよね。


 そのことに気づいた私は


 その子をひそかに“イッコー”くんと呼んでいるのはもちろん内緒だ。


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