その他

隣の子なんて好きじゃない

それは、小学校五年生のときのこと。


ある男の子となぜか三回続けて隣同士という事態が起こった。


好きな人だったら、もうずっと隣がいいなんて思うかもしれないが、あいにく彼はまったくタイプではなかった。だから、もういいかげん離れてよと思っていた。


それに、私には別に好きな人がいたからだ。

去年まで同じクラスだった男の子。でも、いまは別の小学校に行ってしまい、私の通う学校にはいない。それでも、忘れられないでいた。


けれど、それは秘密。


だれにもその気持ちを言ったことはなかった。


そんなある日のことだった。


その男の子こと鷹巣哲幸くんがふざけて、

「ゆうちゃん、くるみが好きだってさ」

といったのだ。


ゆうちゃんとは、私のすぐ後ろに座っている長洲裕太くんで、くるみとは、彼の後ろに座っている来栖実可子ちゃんだった。


裕太くんはどうしていいか戸惑っていると、哲幸くんがさらにこういった。


「くるみもまんざらじゃないよなあ。仲がいいからさあ」

と冷やかして見せた。


「そんなわけないでしょ。あー、そういうならば、哲幸くん知ってる?」


「なにが?」


「セナちゃん、哲幸くんが好きなんだよ」


突然、私の名前を呼ばれて、飲んでいた給食の牛乳を吹き出しそうになった。


私は思わず、哲幸くんのほうを振り替えった。私と哲幸くんの視線が会う。


哲幸は、驚いたような顔をしていた。


実可子ちゃんの声が大きかったのだろう。


クラスメートたちが集まってきた。


「まじで?セナちゃん、てっちゃんが好きなのか」


そんなことを言い出したのだ。


私は困った。だから、哲幸くんがどんな顔をしていたのかはわからない。


ありえない!



哲幸くんを好きだなんてありえないでしょ!


私が好きなのは別の人よ!


「違う!違う!なんで、こんなやつ好きになるのよ」


「こっちだって、ありえねえよ!ぼけ!変なこというな!くるみ」


もう険悪なムードだった。


お互いに睨み付けあったのちにそっぽを向いた。


「なーんだ。違うのかあ」


クラスメートの一人がそう締めくくったおかげでその場は治まった。



けれど、それだけではおわらなかった。


その騒動がきっかけなのか。


わたしは、哲幸くんを意識するようになったのだ。


だけど、


何も言わなかった。


何も言わずに、


なにもなかったかのような日々が過ぎていった。


なにも起こらない。



なにも発展しない。


きっと、


私たちは



それだけの存在だった。



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