うざすぎるので思いっきりぶっ飛ばした

「詩歌ーー! 愛してるぜ」


それが日々生健の口癖である。


出会ったその日に赤城詩歌に人目ばれした瞬間に、おれとつきあってほしいと告白した。


もちろん、みごとに断られたわけなのだが、それ以来、健の猛烈アピールが続いていた。


ある意味ストーカーではないかといわんばかりに、毎朝詩歌の暮らしている寄宿舎の前に待っていて一緒に学校へいこうと言い出すのだ。

この前は自転車の後ろにのれといわれたので、それは交通違反だと断った。

けれど、この男ときたら、見られなければ大丈夫と詩歌を自転車の後ろに乗せようとするのだ。あまりのしつこさでぶちギレた詩歌は健の顔を思いっきり殴ってやり、気絶しているすきに自転車を奪ってやった。


詩歌は余裕で学校にたどり着いたが、健はみごとに遅刻した。


健は恨み言ひとついわずにニコニコと詩歌の前に現れた。

「今日はハッピーだぜ。なにせ、おれの自転車に詩歌が乗ったんだ。これの自転車のサドルに詩歌のあそこが♥️」


あきらかによからぬ妄想を始めるものだから、詩歌は健のあそこに思いっきり蹴りを入れてやった。


健は悶絶して床をのたうち回っているのになぜか嬉しそうな顔をしている。


詩歌はそんな健をほっといて、去っていった。


またあるときには、『仕事』が終わったあとに、ちょっと怪我をした健の手当てをしてあげた。正直したくはなかった。


この男はこれよがしになにをしでかすかわかったものではないからだ。

それでも、手当てを施すのは、詩歌にとって憧れの上司からの指示があったからだ。


まあ、せっかくの『仕事仲間』をそのまま膨張しておくのも偲びない気持ちも多少なりともありはする。


治療を終えたら、さっさと彼の元から離れたい気分だ。


「サンキュー、詩歌の力ってやっぱりすごいなあ。妖魔倒したときの傷すっかり治ったぜ」


健はいつものように満面の笑みを浮かべながら腕に力をいれて見せた。


誉めてくれているようだが、いつもの健の態度をみると素直に喜べない。


このまま、立ち去りたい気分だ。


そう思って立ち上がろうとしたときに、鍵盤詩歌の腕を掴んで自分のほうへと引き寄せて抱き締めた。


「詩歌ーーー!ありがとうーー!愛してるぜーー」


あーーうざい


うざい


「うざいんだよーー!さっさとあっちいけえええええ」


詩歌が健の顔面に拳を食らわせた直後に、彼の体は上空彼方に吹っ飛んでしまった。


健の悲鳴が遠ざかっていき、どこかに激突する音だけが響いていた。


「今日も高くとんだねえ」


すると、詩歌の妖魔退治の仲間たちが健が飛んでいった方向をみる。


「そうだねえ。妖魔の怪我よりも重症だよね。今回こそ」


背後のそんな会話なんてどうでもいいけど、いうまで続くのだろうと詩歌は思いながら、遠くに飛ばされた健を見ていた。


「いやいや、大丈夫じゃないの?」


「そうだね。あれぐらい大したことないだろう」


「いつものことだよ。いつものこと」


好き勝手にいっているが、詩歌にはいちいち突っ込む気力もない。


「ちなみに詩歌」


ひとりが尋ねてきた。


「今日は何回目?」


「数えてないわよ」


「20回目だよーん♥️」


いつのまにか、健がニコニコと笑いながら戻ってきていた。


「詩歌ーー、おれと」


たちまち、健は詩歌に抱きつこうとした。


「いいかげんにしなさーい」


詩歌は再びぶっ飛ばしてやった。


「詩歌の愛のパンチ!21回目ゲットだぜーー」


そんな声が上空で聞こえてくる。


「あいつ、頑丈すぎるだろう」


「ぜったい、死なないね」


そんな仲間たちの声はどうでもいい



とにかく


うざい

うざすぎるんだよーー!


詩歌は思った。







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