ソロであること

なんとなく、独り身を続けていただけにすぎなかった。


彼女もなく、毎日のように職場と自宅との往復の日々。趣味のネット小説をしたり、友人たちと飲み会へいったりとそれなりに楽しんでいた。


その友人たちのほとんどが既婚者で妻がどうとか、子供がどうとか話をする。


どの話も俺にはまったく現実味のない話で、まるでおとぎ話をされているような心地がしていた。


だからといって、羨ましいとは思わない。


思ったところでいますぐに彼女ができるわけでもなく、結婚できるわけでもない。


ゆえに子供なんてもってのほかだ。


だから、適当に酒でものみながら聞き流していた。



「けどさあ。おまえはいつ結婚するんだよ」


とかいってくる世話好きな友人もいたりもする。


「別に結婚なんていいさ。俺はソロを満喫してるんだぞ」


嘘じゃない。


40をすぎると、結婚なんてどうでもよくなるものだ。


煩わしい家族というしがらみがなくて、本当に自由なのだ。


仕事して、家帰って、ネット小説やネットゲームして


ときには友達と飲みに行ったりして


こんな有意義な日々はないではないか。


彼女?


そんなものが必要ない。


別にいなくても、俺は幸せだ。


「結婚っていいぞ。子供っていいぞ。ほら、かわいいだろう」


そういって、スマホに入っている子供の写真を見せびらかせる友人。

確かにかわいいとは思うが、俺に結婚を押し付けるのも違うと思う。


まあ、そんなことをしていた友人も最近写真を見せなくなった。どうやら思春期にはいった子供が写真をとらせてくれないらしい。


それどころか口も聞いてくれないのだと嘆いている。


そうか。


四十すぎると、俺の同級生の子供も思春期に入っていてもおかしくない。


それどころか、早く子供できていたら成人越えててもおかしくない。


そう思うと年を取ったなあと思う。


そのとき、脳裏に浮かぶのは元カノの姿だった。


元カノとは高校の同級生で、俺の告白で付き合うようになった。


高校、大学、社会人と


実に十年も付き合っていたから、もうそろそろ結婚じゃないかと親でさえも期待していたところだった。


それなのに別れてしまった。


きっかけは俺の転勤だった。


海外へ転勤することになった俺は、彼女に一緒に来てほしいと申し出た。


けれど、彼女はそれを断ったのだ。このまま、日本で帰りを待っているといってくれていたのだが、俺はもう別れようといい放ったのだ。彼女は答えなかった。


無言のまま俯いていた。


俺はそんな彼女に背を向けてさった。


それから、彼女とは連絡さえもしていない。


ただ、数年後彼女が結婚したという噂を聞いただけだった。


「じゃあな。また明日」


一年ぶり飲み会を終えて友人と別れた俺は帰路についた。


久しぶりの飲み会は、感染症がはやっているから二時間程度でおわり、二次会もなく皆が帰宅していく。


友人たちは灯りの着いた家に帰っていく。


俺はというと、相変わらず電気のついていないボロアパート。


そこでいつものように鍵をあけて、返事がこない「ただいま」をいって入るといったルーティーを繰り返すのだろう。


そう考えると少し寂しい気がする。


仕方のないことだ。


俺がずっとソロとして生きているのだからな。



そんなことを考えているうちに俺は自分の暮らすアパートへとたどり着いた。


そのとき、俺の部屋の前に人が佇んでいるのが見えた。


長い髪をした四十ほどの女性の姿。


でも、すぐに彼女がなにものかわかった。



「ゆか?」


俺は彼女の名前を呼んだ。


彼女は振り替えるとほっとしたように振り替える。


「一哉。久しぶりね」


それは元カノだった。


俺の記憶にある彼女よりもだいぶん更けていたのだが、面影はそのままだった。



「アパート変わっていなかったのね。よかった」


「なぜ? ここに?」


「会いに来たの」


どうしていまさら会いに来たのかと首を傾げる。



「会いたかったからよ。ただそれだけ」


そういいながら、彼女は俺を見つめていた。







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