Uターンの新幹線の中で

父さんが突然故郷へ戻ると言い出したのは、僕が小学五年生の三学期。


 じいちゃんが亡くなって、家の稼業を継ぐことになったからだ。


 突然の転校。しかも、都会から遠く離れた田舎町


 休みの時に何度かきたことがあるけれど、まさか定住することになるとは思ってもいなかった。いとこはいるけれど、それ以外の人たちはあまりしらない。


 まったく土地勘のないのだから、不安でたまらなかった。


 反対しても時間だけが過ぎていく。


 あっという間に三月の修了式が終わり、僕は友達と別れることになった。田舎にいくための新幹線に乗ると、クラスの友達が見送りに来てくれた。僕は泣きたい気持ちをグッと堪えて必死に笑顔を作ろうとした。


「ラインしろよ」


「うん。絶対にする」


 友達が泣いた。


 泣かないと思っていたけれど、涙がとまらない。


 僕の頬にしずくが流れていく。しずくはどんどん落ちてくる。


 新幹線の前。子供たちの鳴き声が響いた。


 そして、僕は電車に乗った。


 僕は窓から手を大きく振ってくれる友達の姿が小さくなるのを見ていた。やっぱり涙が出る。

 男の子なのに情けない


 今まで通りネットではつながっていけるだろう。


 でも、実際に彼らに触れることができるのは、今後ないかもしれない。


「スマホ。なっているわよ」


 母に言われてスマホを取り出した。


 ラインにいっぱいコメントが入っていた。


『元気でな』


『これからもラインでつながっていこうね』


『たまに遊びにこいよ』


『田舎がどんな感じか教えてね』



 など


 それぞれがコメントしてくれている。


 つながっている。


 きっと、これからもずっとつながっている。


 大丈夫


 きっと


 大丈夫。


 僕はそう言い聞かせた。


「今時は、ネットでつながるから寂しくないよな」


 突然、父がいった。


 今年、43歳になる父だ。


「俺が転校した時は、手紙くれだったなあ」


 そんなことをしみじみいっている。


「あら?あなたも転校したことあるの?」


「ああ。親父も稼業継ぐために実家のある町に戻ってきたからなあ。まあ、同じ県内での引っ越しだったんだけど、けど寂しいものだったよ。俺がちょうど六年生のころだった」


「あら、この子と同じね」


 母は、そういって笑う。


 なに笑っているんだ。


 父さんも同じ経験したなら、気持ちわかるだろう。


「小六ってことは、平成元年ね」


「ああ、そうだな。あれから三十年もたつ」


「そうね。私はまだ二年生だったかしら。早いわね。平成も終わりよ」


「もうじき、元号は発表になる」


 そんな会話をしている。


 僕にはどうでもいい話だ。


 平成でなくなろうとどうでもいい。


 友達と新しい元号に変わったら、一緒に祝おうなんて約束していたけれど、かなわなくなってしまった。


 どうしてくれるんだよ。


 僕は膨れている。


「俺は荒れていたなあ」


「荒れていた?」


「突然の引っ越しで友達とも別れただろう?ひねくれていて、しばらくクラスになじめなかった」


「そうなの?人懐こいあなたが……」


「しょぅがないさ。まだ子供だった」


 新幹線が走っていく。


 もうすでに見慣れた景色が消えていた。


 どんな子供だったのかなあ。


 僕はふいに思った。


 どんな子供だったのだろう。


 父さんはどんな子供時代を過ごしたのだろうか。


 父と母の会話を聞いているうちに寂しさよりも、そんな興味がわいてきた。


 見てみよう。


 父さんの実家ならば、父さんの子ども時代の写真があるはずだ。


 どんなにひねくれていたか見てみよう。


 そう思うと


 少しだけ


 寂しさが薄れていった。



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