さよなら祭り

 私の地区の子供クラブ。


 春休みになってすぐに祭りがある。



「さよなら祭り」だ。


 さよなら祭りは卒業した六年生を祝って毎年開かれる祭りで、近くの山にある施設に一泊するというものだった。


 祭りというよりもキャンプに思われるのだが、実際に昼間は祭りではなくキャンプに違いない。


 バーベキューをしたり、近くの山を探検したりといったものが行われる。


 けれど、祭りの本番は夜だ。


 夜になるとなにもなかったはずの施設の広場が一変する。


 提灯が飾られ、広場に中央にはお立ち台。


 広場のわきには飾り人形。


 縁日の規模は小さいものの、それなりに屋台はある。


 子供にとっては、さよなら祭りは楽しいものだった。


 けれど、それに参加できるのは、子供クラブに所属している小学生とその家族のみ。


 中学生でも家族であれば参加できるのが、基本小学生とその親が多い。


 そして、私も小学校を卒業し、最後の祭りの参加になる。


 これで最後かと思うと寂しい気持ちもあった。


 しょうがないといえば、仕方がない。


 もしも、この祭りは今後も続くとすれば、私が大人になって結婚して、子供ができたならばまた参加できるかもしれない。


 そんな期待もあった。


 そして、祭り初日。


 集合場所に集まった私の視線の先にはひとりの男の子がいた。


 身長はさほど高くはない。


 細身ではだは白い。


 一見するとひ弱そうな背格好なのだが、その切れ長の眼には、彼がこの地区で縄張りをはったガキ大将だとわかる。


 いつも彼に回りに人がいた。


 まるで小さな町の小さな地区だけの世界が彼で回っているのではないかと錯覚してしまう。


 なぜか、彼がいると見てしまう。


 嫌なやつのはずなのに、いつも彼を見てしまうくせはいつからだったのだろうか



 会場へと向かいバスが来て、祭りが行われる施設へと送られていく。


 そして、昼間はグループごとに別れて、山を探索。


 それが終わり、夕方になると祭りが行われる。


 縁日が開かれ、お立ち台では巫女姿のお姉さんたちが舞う。


 太鼓や笛が鳴り響き、人々が楽しげに踊り始める。


 私もまた縁日でかったわたあめを食べながら、友達と他愛のない話をしていた。


「さて、子供たちみんな集まってください。」


 そういわれて、お立ち台へと向かうと大人がお菓子を配り始めた。


 毎年のことだ。お菓子の袋をもらい、何が入っているのかと除き混む。


 いつもと同じ駄菓子。


 それでも嬉しい。


 お菓子の袋のなかからうまい棒を取り出して、食べはじめる。


 すると、あの男の子がなぜか片隅にある木のところに隠れるようにたたずんでいる姿をみつけた。


 私はなにげなくそこへと向かう。


 友達は怪訝な顔をしていた。


「どうしたの?」


 私が話しかけると、はっと振り返った。


「なっなんでもない」


 彼は慌てて顔を隠す。



 けれど、見てしまった。


 彼がないでいた。


 驚いた。


 あの負けん気の強いガキ大将が泣いているのだ。


 どうしたっていうんだ。


「別に。寂しくてないているんじゃないんだよ。ごみが入っただけだよ」


 寂しくて泣いていたのだ。


 これが最後と思って


 近所の悪がきの以外な姿に私はおかしくてたまらなかった。


「なんで笑うんだよ。笑うな」



「べつにい。あんたって結構さみしがりやなのねえ」


「ちっ違う」


「そうかなあ。そうかなあ。いいふらしちゃおうかな。おーい、みんなあ」


「まてよ。誤解だ。誤解」


 あわてふためくガキ大将を尻目に私はみんなのいる方へと歩き出す。


 背後には慌てる彼の姿がる。


 顔を赤くしている彼の姿がかわいくて


 かわいくて


 私は思わず笑みを浮かべた。


 なんだか


 最後の「さよなら祭り」が


 最高の祭りになりそうだ。

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