第4話 女神、覚醒
・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
先程まで広がっていた絶望的な景色は失われ、目の前に広がった景色はハーティが今まで見たどんなものよりも美しかった。
その世界はキラキラとした白銀の光が広がり、美しい木々たちがどこまでも広がっていた。
空にはいくつもの大地が美しい水を讃えながら浮かび上がり、美しい木々の先にはどのような技術で建築したのか想像もつかないような、芸術的で荘厳な純白の神殿が聳え立っていた。
そして、その美しい景色に溜息を漏らした直後に場面は切り替わる。
次に浮かんだ場面では、先程見た純白の神殿の中のようであった。
内部もそれは見事な意匠であり、その美しさはどんな有能な王宮お抱えの彫刻家も再現できそうなものではない程見事なものであった。
そんな美しい建物の中には、絶世の美貌を持つ男女が多数存在した。
彼らや彼女らの瞳や髪の色は、皆総じて濃淡はあれど美しい白銀色であった。
そして、何故かハーティに向けて親愛の表情を浮かべて微笑んでいた。
そんな人々を眺めていると、それらの内数人がハーティに向かって歩み寄って跪いた。
「ハーティルティア様・・・」
「親愛なる主君・・」
「敬愛する主様・・」
およそ人の口から発せられるとは思えないような美声でハーティに向かって声を掛けた男女も皆美しかった。
そして、何故ハーティに向かって『女神』の名前を呼ぶのか。
そう疑問に思った瞬間に再び場面は変わる。
次の場面は、先ほどと同じ場所のようであったが、その様子はまるで異なっていた。
無限に続く焦土。
あらゆる物が焼ける匂いが立ち込める。
先ほでまであったはずの美しい草木、草原の姿は無かった。
あの美しかった神殿も、崩れ落ちてその美しさを失っていた。
空は赤黒く染まり、美しい白銀の光は失われていた。
急な景色の変化に唖然としていると、突如隣に先ほど自分の側で跪いていた男女が現れた。
(わたしは・・・この人達を知っている・・)
そんな考えがよぎった瞬間、ハーティの脳裏に膨大な情報が浮かび上がってきた。
・・・・・。
「敬愛する主様。もはや一刻の猶予もございません。このままでは『邪神』の力が我々にまで及んでしまいます」
「ハーティルティア様。例え我々が消滅したとしても『邪神』を滅ぼした後に新たな世界が続くのであれば本望です」
・・・・・。
「ハーティルティア様。我ら神々は皆、ハーティルティア様を敬愛しています」
「そして、ハーティルティア様が新たに創造される世界の為であれば、喜んでその存在を差し出しましょう」
・・・・。
『アラユル並行異世界ヲ滅ボシテキタ我ガ、滅ビルナド!』
『コノヨウナコトナド許サレナイ!愚カナ神々ヨ!例エ我ノ存在ガ滅ビヨウトモ、必ズ!必ズ我ハ復活スルデアロウ!』
『必ズヤ!必ズ・・・!』
・・・・・。
(願わくば、新しい世界で『愛し子』たちに安寧があらんことを・・・)
・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
その時、ハーティは
自分が、『女神ハーティルティア』であったこと。
神々の『存在』を引き換えに、『この世界』を創造したこと。
そして、消滅の最中に新たな世界の安寧を願ったことを。
(『この世界』は、私たちの願いによって
そして、再び目の前の世界が白銀の光に包まれた。
その光に身を委ねながら、ハーティは静かに目を開いた。
すると、そこは先程と同じく、ユナと共に死にゆくはずだった広場の芝生であった。
ハーティが気を失っている間に天候が変わったのか、空には黒く厚い雲が広がって激しい雨が降っていた。
そして、ハーティは先程まで身体中の痛みに耐えながら転がっていたはずの体になんの痛みも感じないことに気づいた。
更に、ハーティは何故か立ち上がっていたのだ。
「『女神』・・さま??」
ふとハーティの耳に入った声の方向に視線を向けると、変わらず血まみれで倒れていたユナが、信じられないものを見るような目をしていた。
「??」
いまいち現状を把握できなかったハーティは、徐に自分の掌を見た。
すると、その掌からは淡い白銀の光があふれていた。
そして、同時に視界の端へ何か
徐にその光るものを手に取ると、それは自分の髪であった。
そして、何故か激しい雨が降っているはずなのにハーティは全く濡れている気配がなかった。
(・・・わたしは、人間として生まれ変わったのね)
全てを思い出したハーティは、自分が『女神ハーティルティア』の生まれ変わりであることを悟った。
何故人間として生まれ変わったのかはわからない。
だが、目の前に倒れているユナを見ると、熱く強い意志が湧き上がってきた。
(かつて、『神界』と神々の『存在』を代償にしてようやく創造したこの世界・・)
(たとえ生まれ変わっても、もう
その瞬間、ハーティの中に爆発的な力が生まれてくるのがわかった。
それが『マナ』だと悟ったハーティは『極大浄化魔導』を発動し始める。
浄化魔導は上級程度の魔導でも、聖女のような選ばれた高位神官が膨大なマナと儀式を併用して行う。
極大魔導ともあれば、人の身で発動するのはほぼ不可能である。
しかし、『女神』の力を顕現したハーティは、空気中のエーテルから必要分のマナを無限かつ瞬時に精製できる。
そして、かつて最も神格の高い『女神』であったハーティにとって、『極大浄化魔導』の発動など、まるで呼吸をするように造作もないことであった。
ハーティから発動された『極大浄化魔導』の光が広がってゆく。
その光に触れたアンデッドは瞬く間に消滅していった。
同時に、その光に触れたユナの体の傷が瞬時に回復していく。
「か、身体の傷が・・・!?」
治癒魔導といえば、神官や魔導師ですら軽微な怪我を治したり回復力を高める程度のものである。
聖女ほどにもなれば大怪我であっても完全治癒するであろうが、ハーティのように死にかけた人間を瞬時に治癒することなどあり得ない。
ユナは目の前で起こる奇跡の数々にただ惚けるしかなかった。
そして、光が収まった後、そこには元の美しい芝生が広がっていた。
先程まで降っていた雨は止み、空は晴れ渡っていた。
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