第6話 地獄の夜

 丈も服を脱いだ。

 ゴムを付け、ワセリンを塗りたくって、丈は、入り口に先端を押し付けた。熱いものを、北斗は入り口に感じた。


 ムリだ。

 指だけでも、あんなにキツかったのに、男の、怒張したものを、なんて。入るわけ、ない。


 丈が、北斗の腰をつかむ。

 無理やり立膝にさせられ、狭い入り口に、丈のものが当てがわれた。


 怖い。

 緊張して、体に力が入る。

「力、抜けって」

 丈のいらついた声がする。だが、北斗は、どうしていいかwからない。

 指で、ある程度、慣らされたとはいえ、本来、そこは出すところであって、入れる場所ではない。抵抗するつもりがなくても、そう簡単には入らない。


 結局、丈は、力任せに押し込んできた。熱鉄のような肉棒。

 めり込むようにして、入ってくる。

「カリが入ればな」

 先端の、太い部分、雁首が入れば、あとはどうにかなる。と言いたいのだろう。


 痛い、なんて生易しいものではなかった。

 体が、真っ二つにかれるような、凄まじさ。

 息ができない、苦しい。

 一瞬、意識を失いかけた。

 北斗の苦痛と引き換えに、丈は、はじめての感覚に夢中になっている。

「クソッ、締め付けやがって」

 ついに北斗は丈のモノをすべて受け入れさせられた。内部で動かされ、北斗はさらに苦痛にあえいだ。


痛い、やめて。

そう訴えたかったが、うめき声しか出ない。

ピストン運動が激しくなり、北斗は何度か気が遠くなった。

「あっ」

 丈が、やっと達したらしい。

「ふう。よかったぜ」

 まだ硬度を保ったものが、いきなり引き抜かれる。

 それがまた、北斗に痛みを与えた。


 それでも、北斗は安堵していた。

 やっと終わった。

 これで丈も満足だろう。

 北斗は、ほっと息をついた。


「痛かったか」

 分り切ったことを、丈が聞いてくる。早くも服を身に着けだす、北斗は裸のまま、起き上がる気力もないのに。

「痛かった」

 死ぬほど痛かった、と言いたいのをこらえて、そう言った。

「初めてだからな。そのうち慣れるだろ」

 慣れる、こんなことに?


 まだ、やる気なのか。

 一度きりだと思ったから、杏里との間接キスの気分を味わいたくて、承諾した、つもりだった。

 なのに、まだ、続ける気か。

 北斗は、目の前が暗くなった。


 由衣から、次の金曜の夜。食事しないかと誘いがあった。

「杏里先輩も来るよ、もちろん。青木丈は、どうだか知らないけど」

 丈の名が出ただけで、ぎくっとなる。

 杏里に合わす顔がない。

北斗は改めて、自分がしてしまったことが恐ろしくなった。 

 その頃は、仕事が追い込みだから、と適当なことを言って、断った。


 由衣は、自分の気持ちを知っているんだろうか。

 兄が、杏里にあこがれていること、初恋の相手であることは、もちろん話していない。

 だが、鋭い由衣のことだ。普段、何が楽しくて生きてるのか分からないような兄が、杏里の前では、いきいきしている、目が輝いている。その程度は、気づいているのではないか。

 だからこそ、進展の見込みはゼロにしても、兄を杏里に会わせてやろうと気遣っているのかもしれない。


 丈に関しても、由衣は本性を見抜いていた。

 一見、清潔そうに見えて、中に、汚いものをいっぱい抱えている。裏表がある。


 北斗に持ち掛けた「実験」のおぞましさ。それも一度切りだと思ったら、まだ続けるつもり、らしい。

 丈は、婚約して、先が見えているから、男と交わるとはどういうものか、試したいのだと言った。ほんの好奇心なんだと。


 勝手すぎる、とわかっていながら、拒否できなかった。利用されているだけ、いい思いをするのは丈だけ、なのに。


 杏里には、きっと、とろけるほどに優しいのだ、丈は。だからこそ、杏里は八年も、丈とつきあってきて、婚約した。何度も浮気しただろうに、そのたびに、杏里は、丈を許した。決して杏里一筋だった、とは思えないのだ。


 そうした、表の面を、杏里には全面的に見せて置き、裏の、汚れた陰の部分は、北斗へと向けられた。

 自分の前では、暴君のようにふるまう。童貞であること、女性とはキスすらしたことがないと知ると、思い切りコケにした。唯一のキス経験の相手は、丈なのだ。


 どれほどの女を知っているのか。ディープキスで、北斗の舌を自分の口腔に誘いこんだのは、相手の口の中でベロベロやると、舌を噛まれる恐れがある、と、うそぶいた、

 無理やりキスして、舌を噛まれたことがあるのだろうか、丈なら、多分あるだろう。


 次の金曜の夜。

 丈は、部屋に来なかった。

 杏里、由衣と一緒に食事し、談笑しているのだろうか。


 一週間前の、地獄のような夜を思い出して、北斗の心は乱れる。

 もう来ないでくれ、と丈に言うべきなのだが。

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