第6章 ことばの通り 【2】

「さて、俺たちは雪かきの続きかな」

 陣内が言った。

「それはありがたいが、お前たちは、家に帰らなくていいのか」

 森本先生が、尋ねた。

「うちには三人の姉プラス孫が来ているもんでね。邪魔はしたくないんですよ」

「陣内が、気配りの人だったとはね」

 美砂が混ぜかえす。

「そういうお前さんは、どうなんだい」

 陣内が訊くと、美砂は笑って――。

 答えようとして、ふいに頼りない表情になった。

「あたし……あたしは、……どうしてここにいるんだろう」

「まあ、コーヒーでも飲んで、落ちつけよ」

 陣内が淹れたインスタントコーヒーに美砂は口をつけた。

「あたしがここにいるのは――」

 言いかけて、美砂は絶句した。

「どうした、美砂」

 森本先生が訊くと、美砂は目を泳がせた。

「なんでもないんです。ただ、他に行く所がないだけです」

「行く所か……」

 つぶやいて陣内は、雪かきを手にした。

「このまま滅びるのはまっぴらだ。無駄だとしても、俺たちはやるべきことをやるしかない」

「明日、世界が滅びるとしても、私はリンゴの苗を植えるだろう、か」

 森本先生は眼鏡を直した。

「とにかく、俺たちが生きてきた証を、残そうじゃないか」


(この章、終わり)

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