第2話 リストラのなかの天使

 エミールは連隊長より退室を促されて部屋を出ると、入れ替わりでゴットルプ連隊の士官が――たしか第一大隊長だったと思うが――入っていくのが見えた。


 寒いし早く士官宿舎へ戻ろう。

「俺が一番新米大隊長だもんなぁ、やっぱり俺が最初に暇を出されるんだろうなぁ」 つい心の中の声が口から出てしまった。

「っつえええ?? ミルさん、お仕事クビになるのです?」と後ろから暗殺者の刺突を食らう。エミールはそのまま雪の中にうつぶせに突っ込んでしまう。

 背後の一突きを食らうとは貴族の恥だ。今後独り言は止めよう。

「タルヤか。お前はいつも元気そうだな」

 タルヤはエミールの上で跳ねる。

「元気そうじゃなくて、元気なんですぅ~~」

「そうだったな、それより俺凍えるよ」

「ミルさん、もっと早く言って下さいよ。こんな薄着じゃ風邪引いちゃいますよ? さあ早く宿舎に戻ってください。泥まみれになった服を着替えましょう!」

 誰のせいで雪の中に突っ込む羽目になったんだと思ったが、怒る気にはならなかった。

 タルヤはまだ幼い子どもなのだ。

 親の愛を受けたい年頃なのだろう。

「もう寒すぎて歯がガチガチ鳴ってるよ。戻ろう」

 士官宿舎は連隊詰め所のすぐ横にあるので、寒風に晒されるのは一瞬のはずであったが、それでもやはり真冬にしっかりした防寒着を着ずに外に出るのは寒冷なオドラデクでは愚行だったと後悔した。



「ミルさんの部屋はホント掃除のし甲斐があります」

 タルヤはエミールの汚れた服――汚したの間違いではあるが――を脱がし、新しい部屋着を着せ、ついでに部屋のぬし本人がいるとあって、普段であれば憚らねばならなかった本棚や机の上の書類の山を片付けてくれているようだ。

 エミールはそんなタルヤを眺めながら暖炉に手をかざして暖を取る。

 暖炉にくべられた薪のはぜる音がした。

 タルヤは目にも止まらぬスピードで机の上を掃除したようだ。すぐに埃たたきを動かす手を止めてエミールに振り返った。

「ミルさん、ホントに隊長さんクビになるのです?」

「エミールだっつうの。いいかげん覚えてくれ」

「それでクビになっちゃうのです?」

 やはり覚える気はなさそうだ。

「まあ、俺は魔法もあまり使えんしな。

 かと言って学問が出来るわけでもない。だから王宮で仕えるのもむつかしい。せっかく『王宮の警備を担当する近衛連隊』に入ったのだが転職先を探さねばならんかもしれん。辺境警備になると出費がかさむなあ……」

 タルヤはきょとんとした顔でエミールを見つめている。

「何言ってるんですか、ミルさんは魔力に満ち満ちていますよ?」

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革命と戦争 @odoradeku

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