革命と戦争
@odoradeku
第1話 ゴットルプ家の落日
とっくに日も落ちた冬の夜、首都オドラデクの郊外。凍てつく寒風が建物に吹き付けて二人の男を震わせていた。
連隊詰め所の一室で暖炉の前の机に向かいあって座っている。
一人は初老を過ぎた男でグスタフと言い、王軍のエースを意味する近衛連隊長を務めている。しかし風貌には誇らしげなところはなく、むしろ自身の人生を諦めているかのような趣さえあった。
対するもう一人は凛々しく背筋もしっかり伸びていて若い男だった。
グスタフの部下で大隊長を務めているエミールは、今しがた自分の耳にした言葉を理解できなかった。
自分の聞き間違いだろうと思い、寡黙なグスタフの拙い説明に対して慎重に確認を取る。
「つまり連隊長……、それはわたくしの任を解くという認識で間違いないでしょうか?」
「厳密には任の辞退を提案するものである。理由は明快で、このままでは我が家の資金が尽きてしまうからじゃ」
なるほど、ゴットルプ連隊の評判の悪さはその長であるグスタフ・ゴットルプの懐事情によるものかとエミールは納得した。
金が無いと兵士に十分な給料が払えないのである。不満を持つ兵士は転職先を探すか、不正に走るのである。
「わたくしは王家に忠誠を誓い、王宮南門を警備しているここゴットルプ連隊への配属を希望したのです。他に退く者はおらんのですか」
もちろん嘘である。
エミールは王都にほど近い実家から遠い領地を与えられたり、もしくは交戦の可能性がある辺境警備を避けるためにここを希望したのであった。
領地の土地はやせており民は貧しく、金の入ってこないマンネルヘイム家の負担を少しでも減らそうと王都内の任官先を探すべく奔走し最後の最後に手に入れたポジションであった。
ここで飛ばされたらあとがない。
そんなことを知ってか知らでか、
「マンネルヘイム君の将来を考えると我が連隊では昇進が狙えんがのぅ、じゃがそこまで言うのであれば他の大隊長に聞いてみるか……」
グスタフ・ゴットルプは深いため息をつく。ここで追い打ちを掛けた。
「ゴットルプ連隊にて陛下へのご奉公をできるのであれば何でもする所存でございます」
「なんでも?」連隊長の眼がキラリと不気味に光ったがエミールは気にしなかった。
「その通りであります、ゴットルプ連隊長!」
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