7、勝手

 スーパーで孫と手を繋いでるあなたを見付けた。あの日からずっと五十年間会わなかった、でも、あなただとすぐに分かった。優しく孫に微笑みかけて、私に気付かない、私は立ち竦んで、何か声を掛けよう、違う、棚の陰に隠れてその場を去った。

 ――あなたとは別れなくちゃいけないわ。どれだけ愛されているか知ってる。でも、さよなら。

 私は一方的に、あなたが失意の底に沈んだのは想像に難くない、あなたが婚約指輪を準備していたことは知っていたし、だから私は別れを切り出したのだから。私は別の男性と結婚して、孫がいる。選んだ人生の答え合わせをされる時期に来ている。私は幸せだったのかな。多分そう。愛されたし、愛した。選択に間違いがあったなんて思わなかった。だけど、ときにあなたの顔が浮かんで、どうしているのだろう、きっと私のせいで不幸になっている、何度も胸が悼んだ。

 でもあなたは笑っていた。その顔の皺にはきっと刻まれている艱難辛苦もあって、だからこそあなたが孫に向ける微笑みが優しくて、暖かで。

 その表情が私に悟らせた。

 あなたがあの後幸せだったかに、私の人生がどうだったかは関係ない。

 人と人は、別れた瞬間からもう別の人生、だから勝手に幸せになる。

 彼からしても同じ、私は勝手に幸せにも、不幸にもなった。そして、私は幸せだった。きっとあなたが私を見付けても、そう思う筈。

 お互いに、勝手に幸せ。だから、もう交わってはいけない。私は遠くからあなたの背中をほんの少しの間、視線で追って、息を飲むと、足早にスーパーを後にした。


(7、勝手、了)

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