5、病欠
頭痛の理由が分からない。体が
「このまま死ぬのかな」
明日になれば快復する、明後日かも知れない、だけどきっと快復するのに、終わりを想う。自殺するときの受動的なものではなくて、病に殺されると言う能動的な終わりへの想い。服を着込んでいるのに寒い。このまま冷えて死ぬ。死んだら無断欠勤になる。そのときにはもう責任を取らなくてもいいのだろうか。病名が分かったら安心するのだろうか、診療所に行ったところで対症療法をされるだけだ。その程度の症候だとは自分で分かる。あともう少し熱が高ければ大事になるのに、そこまで行かない。中途半端。半端なのに、苦しさは一人前ある。注文した料理が量が少なく味もいまいちなのに、料金はしっかり取られるような。注文などしていないのに。
うとうとする度に夢を見て疲れる。目を覚ます度に頭痛が酷くなる。悪化している実感が不安を呼ぶ。
この不安は正当な不安なのか。それともウイルスに侵された体の悲鳴なのか。症状としての不安なら、無視したい。でも脳がやられているから、判断出来ない。サボったと思われるのが嫌だ。苦しみをアピールしたくても、客観的な指標では大した病魔ではないから、もう少し熱が出ると、明日宣伝出来る。頭が痛い。着る服がどんどん厚くなる。でもそれだけ。明日の不安に眼を向けている間は、死ぬかも知れない恐れから意識が逸れる。その事実に気付いてしまえばまた同じことを思う。一日中これをしている。
「何も創れないまま死ぬのは嫌だ」
だが試そうにも頭がガジガジで、始めることも出来ない。生命活動に左右されるのが悔しい。情熱が不足していると突き付けられる。愛が偽物だと断言される。違う、俺の情熱も愛も間違いなくある。でも抗いは届かない、現実に何も創れない。明日は来るのだろうか。快復することはあるのだろうか。俺はここから抜け出すことが出来るのだろうか。削がれた希望と不安の量は釣り合って、同じループから俺を出さない。
永遠に今日が続く、そこに疑いを差し挟ませない、体の声。
(5、病欠、了)
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