フィールドオブドリームスのさトウモロコシ畑の球場っていいよな
地の果てまで続くかのような広大なトウモロコシ畑。畑を切り裂くように引かれた一筋の街道ともいえぬ荒れた車道。ひた走る一台の武装ジャイロキャノピー。ジャイロキャノピーといっても面影は運転席くらいなもの。屋根にはブローニング重機関銃М2の改良型M2032が鎮座している。強化樹脂で軽量化され持ち運びの負担が軽減され、屈強なものなら銃架無しで手持ちで撃てるように改良されたが、その際は高コストな専用の銃弾が必要で結局少数しか生産されなかった機関銃だ。
後部のリアボックスは巨大化しADENリヴォルバーカノンが搭載。ポルトランドの整備士サカキによって改良され口径30㎜の弾丸を毎分1,500発以上でばら撒くことができる兵器に、無限軌道の被牽引車を取り付け、荷台の上は106ミリ連装無反動砲が黒々とした光沢を放っている。見た目はジャイロキャノピーというより、オート三輪やトゥクトゥクが大砲を牽引しているような姿だ。
そういえばさ、と無精髭をこすりながら運転を任せる電脳ナビに声をかける。声をかけるといっても脳内で語りかけているので、実際に声を出しているわけではない。
大谷ってどうなったの?
“彼はハンセン病で苦しみながらも関ヶ原で奮闘しますが、小早川の裏切りによって攻められ最期は自害したと言われています 。享年36もしくは42と言われています。辞世の句は 「契りとも 六の巷に まてしばし おくれ先立つ 事はありとも」 いやはや壮絶な人生だったようですよ”
大谷吉継じゃねーよ!
“ピカチュウですか?”
大谷育江じゃねーよ! 大谷って言ったら翔平だろ! 大谷翔平だよ! 俺大谷ずっと応援してたんだけどさ、二刀流でメジャー挑戦っておいおいマジかよ無茶言ってんじゃねーよ、いくら日本で二刀流無双したからって、どうせパッとしない成績で終わってすぐ帰って来んだろ? って思ってたら新人王とってすげぇじゃん! やっぱ俺が応援してただけあるわ! ってなったら、翌年トミージョンで打者専念でボチボチな成績に終わって、まあ手術明けならこんなもんか、ようやったって思って、次の年は故障で全然出場できないまま終わってさやっぱ駄目じゃんコイツ! 無理なんだよ俺の言った通りじゃん! ってとこまでしか知らねーんだよ。(作者注 錫乃介は2020年の大晦日に未来に飛ばされています)。
“どうなったと思います?”
故障が止まらずパッとしない成績、そうだな…… 率2割半ば、ホームラン12〜3本、投手の方が3勝8敗、防御率5点代くらいの酷くはないけど、なんともいえない成績を4〜5年くらいやって、日本球界復帰。それから7〜8勝ホームラン20本くらいの成績を続けたってとこかな。まあそれでも凄いことなんだけどな。行く前はメジャーでサイ・ヤングにホームラン王とるとか言われてたのにさ。期待値が高すぎたかな。こりゃちょっと可哀想だな。いや、よくやったよ翔平は。うん。
“そのタイトルならとってますよ”
は? 馬鹿言うなよ、サイ・ヤングならなんかまだ日本人でも可能性ありそうだけど、ホームラン王なんて無理に決まってんだろ。松井の31本が限界だったじゃん。松井で31だぜ。あの松井で。
“ホームラン王6回、首位打者3回、盗塁王2回、打点王2回、最多安打1回、五冠王1回、三冠王2回、最多勝4回、最優秀防御率3回、最多奪三振4回、シーズンMVP5回、ワールドシリーズMVP3回、ベーブ・ルース賞3回、サイ・ヤング賞2回、シルバースラッガー賞5回、エドガー・マルティネス5回、ハンク・アーロン賞6回、まだまだありますよ。更に言うと国際大会WBCのMVPも3回受賞してます”
は?
は?
は?
は?
“もう一回言いましょうか? ホームラン王6回、首位打者3回、盗塁王2回、打点王2回、最多安打1回、打者主要五冠1回、三冠王2回、最多勝4回、最優秀防御率3回、最多奪三振4回、シーズンMVP7回、ワールドシリーズMVP2回、ベーブ・ルース賞3回、サイ・ヤング賞2回……”
待て待て待て待て待て待て待て! メジャーの打者投手主要タイトル全部とってるじゃねぇか!
“はい、総なめしてます”
うっわ! マジすげぇ! やっぱ俺が見込んだだけあるわ!
“手の平にドリルでも付いてるんですか?”
チートじゃん! 完全にチートじゃん! 世界中の化け物身体能力を持つ者共が集まるメジャーでトップとってるじゃん! もうイレギュラーじゃん!
“はい、他の選手からは野球やってるのが馬鹿馬鹿しくなるとか、同じゲームをしてる気がしないなどと言われています”
そりゃそうだろうなぁ! あー生で見たかったなぁ。リアルタイムで感じたかったわ。
“アーカイブ映像なら無数にありますから御覧になりますか?”
頼むわ。こりゃしばらく退屈しそうにないぜ。この辺トウモロコシ畑がずっと続いてっから景色に飽き飽きしてたんだよ。
“あーそれで野球思いだしたんですね”
そういうこと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ナビが脳内に流す大谷翔平のアーカイブ映像に興奮し絶叫と叫び声をジャノピーから垂れ流しつつトウモロコシ畑を走っていくと目的地が見えてくる。
“錫乃介様、マダックスに到着します”
おー、すげぇなやっぱ大谷は。俺の期待値を遥かに超えてたとはなぁ。まったくとんでもねぇ奴だったんだな。ん? マダックスってことはもしかしたら野球が盛んな街なのか?
“プロフェッサー、精密機械の異名を持つグレッグ・マダックスからきているのでしたらそうかもしれませんが、前の街では特にそんな情報はありませんでしたね。
でも、なんかあの外壁ってアメリカの球場っぽくない?
“確かにあのアーチ状の外壁はニューヨークメッツのベースボールパーク『シティ・フィールド』に似てますが”
あ、なんかボール拾いしてるガキがいるじゃん。こりゃもう確定だね。野球の街だよ。
“こんなところにボールが転がってるなんて、場外ホームランですかね。だとすると街入ってすぐフィールドが広がってるってことになりますけどね”
いや、さすがにキャッチボールとかのとりそこないとかだろ……
入国ならぬ入街審査を終えて分厚い鋼鉄製のゲートが開かれるとそこには──
「いきなりフィールドじゃねーか!」
外壁側に客席を思わせる階段状の四階席まであはあろうかという高さまでテラス席がある。席といっても実際に客席があるわけではなく、そこにバラック小屋をメインとした建築物が所狭しと建ち並んでいた。錫乃介が入場したのは球場スコアボードの下。
この街はマダックスは、通常のスタジアムより遥かに広大で街全体がスタジアムだった。
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