砂漠と餓鬼と塵芥26
アクタからお小遣いを貰い三人を見送ったヤーテは入国管理ゲートで勤務を開始し、今は休憩中であったた。少々精神がおかしくなっていた事に気づかなかった彼だが、毎日の職場に戻ったせいか落ち着きをみせていた。たまに駄々をこねる旅行客や妙なそぶりのトレーダーなどはいるが、そんなものはいつものことで突っぱねてしまうか、厳重な検査をすればよいだけだ。もう二度と買収なんかには巻き込まれないぞと彼は決心していた(現金除く)。
日も完全に落ちて大地が保っている熱が放射されていく。荒野の世界は寒暖差が激しい。あと1〜2時間もすれば寒さを感じ始めることだろう。
今夜の食事は何かな? 今日は、いや昨日から色々ありすぎて何も食べてない。最後に食べたのは昨日の昼飯だ。衛士達で交代で作っているまかない飯だ。何食べたっけ? そうだ、マヨネーズとケチャップとマスタードがたっぷりのった魚肉ソーセージのホットドッグ一つだけだ。パンの表面がカリカリしてて美味かったな。そうだ今休憩中だしおやつで食べよう。
そんな事を思い炊事場に向かおうと席を立ったヤーテの元に一本の通信が入った。
“非常招集。緊急ゲートを封鎖し現在当番の衛士を残してその他の衛士は全て屯所に戻るように。非常招集。緊急ゲートを封鎖し現在当番の衛士を残してその他の衛士は全て屯所に戻るように”
ヤーテはその場で膝を突きこの世の全てを恨んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「な、簡単に侵入できたろ」
USSの西側ハイウェイ建つ20メートル程はあろうかというコンクリートの壁は一部がオジサンの無反動砲によって破壊された。アクタ達はそこを通り難なくシュレッダーの城に向かう。
「西側のハイウェイからコンクリ壁を無反動砲でぶち破るとは思わなかったぞ。お前本当はテロリストなんじゃないか?」
「あーそういえば、そんな疑いかけられたことある」
「オジサンテロリストだったの?」
「疑いだよ! 主に俺の連れが新宿ってところで暴れまわってて、俺はただの付き添いだったの! テロリストはそいつ!」
「テロリストの付き添いってそれもうテロリストじゃないの?」
「そーかもしんない!」
「じゃあ僕もここでテロリストの勉強するね!」
「せんでいい。お前アクタの教育に悪いぞ」
「だってこれからやろうとしてるのもテロリストみたいなもんじゃん」
「──否定はできんな」
その時密林に似た園内から銃声が聞こえる。だがその着弾はまるで関係ないところだった。
「おっとここでもセキュリティ生きてるぞ。ただなんか変だな。侵入者として感知してるようだが、明後日の方向むいてるぞ。おっさん暗視スコープは持ってるか?」
「あるぜ。そうだアクタがこれ着けろ。そんでダーと連携してセキュリティを潰していくんだ」
「わかった!」
ダーお願いね!
“木端がやるようなつまらん役目を我にさせおってからに……”
11時の方向から何かワラワラ来てる!
“ボッキーマンだな映画シュレッダーのマスコット的なキャラだ。そら!”
それから2時から操り人形みたいのが来てる。あれもセキュリティロボかな?
“ピノキオーガだな。それもシュレッダーのキャラだ”
アクタが暗視スコープで視認し、それに反応してダーが重機関銃で撃ち抜いていく連携で、障害をものともせずに二台の武装車両はシュレッダー城へとたどり着く。
もっともスムーズに来れた一番の理由は固定砲台のセキュリティ兵器がことごとくターゲットであるアクタ達を捉えられずに無力化されたことにある。どれもことごとくあらぬ方向を向いていたからだ。
さあ城に侵入しようというその時、少し離れた所から突如として銃声と砲撃音の嵐が始まった。
「なんだ? なんかエントランスの方でなにか起きてるな」
「まるで戦争だな。なんだかよくわからんが巻き込まれる前に終わらせよう」
シュレッダー城裏手に車を置きそのままキャスト用出入口から入っていく三人であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突如として開園したテーマパークは砲撃と銃声のセレモニーから始まった。最盛期の頃は園内のシーンに合わせて雰囲気を盛り上げるために配置されたマスコットキャラの石像や恐竜のオブジェ、翼竜のアトラクションにアヌビスの巨像、近未来をイメージしたガジェットやジェットコースターが今や外敵排除用のセキュリティへと外観はそのままに成り代わっていた。園内を闊歩していたキャラクター達は演ずるキャストの人間からアンドロイドに変わっていた。
しかしこのセレモニーはアクタ達に向けられたものではない。正面入口巨大な地球のオブジェがあるエントランスには武装衛士が集合し突入をしかけていた。カメラがハッキングされている今、独立したアンドロイド以外のセキュリティ兵器は役にたたず、ただ侵入者排除のために明後日の方向に砲撃や銃撃を繰り返していた。
ジュラシックアースの住人ティラノザウルスやラプトルはそのまま固定砲台としての役割を全うできずに爆破され、機関銃を持ったミニヨンク達はパワードスーツの重武装衛士によって一掃され、ササミストリートのエロモやビックリバード、ボッキーモンスターの自爆特攻は一斉掃射で次々と消し飛んで行った。
「タレコミでは監視カメラは麻痺、セキュリティレベルは最低のまま固定されている。今がテロリストを捕える千載一遇のチャンスだ! 行けぇ!!」
隊長が鼓舞する近くでこの戦いの場に駆り出されたヤーテも頑張っていた。二徹目が始まりさらにほとんど食べていないフラフラの身体で彼はシンガポール軍の正式採用小銃であるSAR21を担ぎ、わけのわからん人形達と戦っていた。
もうテロリストなんてどうでもいいよ……
早く寝かせてくれよ……
腹減ったよ……
もういっそのことテロリストにやられて名誉の負傷でもして戦線離脱したいよ……
あ、それいいかも!
「ムッ! でかいのが来るぞ! 気をつけろヤーテ!」
隊長らしき声が聞こえる。
よし! これだ! これでやられたふりして戦線離脱! しばらく傷病手当に休暇のゲットチャンス! と思って隊長を見れば、指をさされた方向は自分の上空だった。
上を見上げれば、元米軍ヘリMH-53ペイブロウからロボットスタイルに空中でトランスフォームする大型セキュリティロボの姿であった。その着地点は……
あれ、これって傷病手当から恩給にレベルアップしちゃうやつ?
でも……
それはやだな──
ヤーテは上空に向かってSAR21から5.56ミリ弾を弾倉が空になるまで撃ち続けるのだった。
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