満たせぬ腹
荒野に並び立つ風車は荒々しい風に当てられ異音をならしながら羽根を回す。使われることのない電気を発電し、その電気は空で大地で放電され、生まれた意味を全うすることなく役目を終える。
男は荒れ果てた、もはや廃墟とすらいえない瓦礫の上に一人立っていた。
徹底的に破壊された廃墟の現調を終えたドローン達が帰還していくのを見送り、殲滅作戦の凍結を伝えるべく地下都市に訪れたが、既にもぬけの殻になっていた。
また別の居場所を求めて機獣達は旅立ったのだ。洞窟内を見回せば、ほんの数時間前まで居たようなぬくもりや残り香が感じられた。別れは済ませてあったはずだが、物寂しさはどうしても拭えない。せめて、交易の可能性が示唆されたことは伝えたかったがーーいや、これでいい。また何処かで再会するさーーそう、心に留め地上に戻るべく足を向ける。
“彼らなら必ずどこかで街を復興させますよ。錫乃介様はこれからどうされますか?”
気遣いなのか、ナビらしからぬ定形文な言葉を使うのはどこか新鮮な気分だ。
そうだな。さ、どうするかな。
錫乃介のすべき事、それは新宿開放時に契約された1,000万cの連帯保証人、その借金の早期返済のためだ。
新宿をサンドスチームの巡回路にいれることで、天然または人的資源やスクラッチ前から残る遺産の売買、経済的な交流による産業の復興で他の街との交易を促すためだ。その目的は達成された。終ってみればなんてことはない。命がけの瞬間は幾度もあれど、この旅おおむね楽しかった。喉元過ぎれば……だけかもしれないが。
とりあえず、リボルバに行くか。
“そうですね”
……………………
サンドスチームは既にリボルバの街に到着しており、街の入口付近で船首の口が開きタラップが下りている。周辺には追随してきたトレーダーやハンター、コンテナを積んだトラックや、商品を積んだ小型のターレットトラックが走り回っている光景に既視感を覚える。この世界で始めてたどり着いた街、アスファルトに入る前のときに見たのだ。懐かしさを覚えその景色をしばし見やる。回顧していると、思い出したことがある。サンドスチームが立ち寄っている時の街は、トレーダーやハンターなどで多くの人で賑わい、宿がすぐに満室になるのだ。これはいかんと街へ入り何よりも先に宿を探す。もう随分長いことーーと言っても10日ほどだがーー風呂にも入っていないし、フカフカベッドも恋しい。多少高い金払ってでも良い宿に泊まりたかった。
幸いにも街で一番良い宿『バンカーバスター』に空きがあり、そこの部屋をとることができた。一番良いといっても錫乃介が前時代に一人暮らししていた6畳ワンルームユニットバス付き程度だが、この世界基準では充分スウィートルームと言えた。燃料を補充しジャノピーを宿に預け街を散策する。弾薬は減ってないが食料などの物資が目減りしているため補充するため市場に出向く。
リボルバは事前情報にあった通り銃器の製造が盛んな街だ。そのせいかあちこちで試射をする音が聞こえてくる。ハンドガン、マシンガン、ミニガン、時には機関砲さえ聞こえてくる。油断していると跳弾も飛んでくるので気が抜けない。さっきは顔面横を通り過ぎたのが肌で感じられるほどの近さで弾丸が通っていった。通りにやたらとフルフェイスに防弾ベスト・コートなどの重装備のまま歩いてる人間が多いのはそのためだろう。
ある意味今までで一番恐ぇ街だな。
“現在動体視力や聴力、反射をマックスまで上げないと危険で歩けないですね”
賑わいを見せる市場で物資を買い込み、付近の情報収集のためハンターユニオンへ赴く。分厚いコンクリート製の建物は頑強極まりない造りで、屋根には受電設備の巨大なパラボラアンテナがあり、各方面から極太の送電線が集合している。受付で軽く挨拶を済まし端末で周辺データを落とす。リクエストの掲示を見る。
“久々にハンターらしい行動してますね”
だな、この普通ムーブに新鮮味すら感じるわ。おっ、けっこうあるな。
☆ハンターユニオン リクエストボード
サンドスチーム 人足 1日50c
野良ドローン ハント 1台50c
野良機獣犬 駆除 1体50c
暴走キックボーダー 駆除 1体50c
ウォン釘バット ハント 1体 100c
トンプソンガゼル ハント 1体100c
ウージー虫 ハント 1体150c
堂々トードドードー 駆除 1体150c
カラシニャコフ ハント 1体200c
ラスティスネイル 駆除 1体250c
ジャッカルカノ ハント 1体300c
シックスマシンガゼル ハント 1体500c
M2ホッパー 1体 500c
デミブル ハント 1体1,000c
ガトリングガゼル ハント 1体2,000c
サスティナ・ブル ハント 1体2,500c
ハイエナジーレーザー ハント 1体3000c
ジャイアントコンドルモア ハント 1体 5000c
盗んだバイクライダー ハント 1体5000c
キャノンジラフ 1体8,000c
バルコンドル 1体8000c
ゴリゴリラーテル 討伐 1体10,000c
タイガーモスキート 討伐 1体20,000c
気狂いレシプロ 討伐 1体30,000c
棍バットマン 討伐 1体50,000c
ウルトラマンヤクザ 討伐 1体100,000c
暴走バギー ハント 150,000c
遭難インベーダー 捕獲 200,000c
アヴェンジャーフライ 討伐 300,000c
キャタピライノックス 討伐 1,000,000c
ワイルドタンク ハント 3,000,000c
ケツァルコアトル 討伐 5,000,000c
エレファンク 討伐 10,000,000c
フライングオクトパス 討伐 50,000,000c
鉱山開発陸上戦艦エクスカベーたん 討伐 80,000,000c
お、トムのやつのってるじゃん。やるじゃないか。
“三種のガゼルいますが、全部トム様だったら笑えますね”
なぁ、タイガーモスキートってただの蚊じゃねーか。なんなんだよこいつ。
“錫乃介様が言うのはヒトスジシマカ、早い話がヤブ蚊です。このリクエストは虎サイズの蚊でして、徹甲弾もビックリの貫通力あるクチで燃料だろうが血液だろうがなんでも吸い取るとんでもないやつです。飛行能力反射能力ともにすぐれ、撃墜が激ムズの蚊です”
蚊恐すぎぃぃぃぃ!! なんだこのウルトラマンヤクザってなんだよ?
“身長20メートルの長ドス持った巨人です。とりあえず目につく物に因縁つけてドスを振り回してきます”
くっそ迷惑。遭難インベーダーは?
“正体不明で丸いUFOに乗ってます。捕獲しようとすると、謎の怪光線で焼き尽くされます。成層圏から出れないそうで、宇宙に帰りそこなった宇宙人と言われています”
う〜む、バラエティ富みすぎ。他にも色々と聞きたい機獣がいるけど、今はサンドスチーム来てるから、どうせ街周辺は居ないだろうな。持ち金も心許なくなってきたし、折り返して戻るにしても、このまま冒険を続けるにしても、それなりにまとまった金必要だし、さてどうするか。ん? サンドスチームで人足募集か……そうか、いいこと思いついたぞ。
“この人足はサンドスチームに乗船できるわけじゃありませんよ……あ”
そうだよ、俺そもそも乗船許可もらってんじゃん。もう余計なこと気にせず乗って安心安全にポルトランドに戻るわ。サンドスチームなら行きみたいに生死をかけた大冒険する必要ないし、マフィアに絡まれることもないし、名あ〜ん。
“マフィアはもうフギ様が対処してくれたから大丈夫なのでは?”
その油断が命取りよ。もう絶対安全路線で行くからね。そうと決まれば今日は豪遊だぁ!
ユニオンを出ると錫乃介は食べ歩きまくった。飲み歩きまくった。なんせ、サンドスチームに直談判しにいった日から今日までの三日間、ろくにご飯を食べていなかったのもあるが、いくら食べて飲んでも何か満たされない気持ちがあった。その夜最後に立ち寄ったBAR『ヴォーパルバニー』で、はちきれんばかりの腹をさすりながら、この店自家製アブサンをチビリと飲む。ニガヨモギとアニスの強烈な風味と芳香が鼻を貫き脳を揺する。その刺激に酔いしれ、ふぅと息を吐くのは腹が苦しいからか、それともポチ達を思ってのことか、ナビは珍しく錫乃介に何も語りかけなかった。
残金2,364c→1928c
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