月が綺麗ですね
おっとり刀で駆けつけたクーニャンの軍隊によって二人は確保されたが、ユニオン内の病院へ即入院となった。
もちろんタダではなく後だろうと先だろうと払わなねばならない。踏み倒そうとすれば抹殺される、ある意味最も入りたく施設だ。借金が怖い人は街中の民間病院へ行くが、医師免許など無いこの世の中、信頼性はクチコミだけ、というこちらもまた恐ろしい世界であった。
幸いにも錫乃介は存在がユニオンに知られており、金の有無関係なく入院することが出来たが、一目で支払い能力が無いような輩は見捨てられるのが日常だった。
今回は大騒ぎをしたとはいえ、クーニャンの悩みの種であったマフィア、ブラッドクラブの幹部とボスを討ち取り、事実上の壊滅させた報酬代わりに、錫乃介もアッシュも治療費は軍持ちという高待遇になった。
とは言え全身打撲に骨折10数箇所の大怪我を負った錫乃介は、最低でも1ヶ月は入院かと自己診断で思ったが、この時代の最先端医療には宇宙人の謎技術の恩恵が残っており、投薬とナノマシンで僅か一週間で完治との事だった。その分料金が嵩むが今回は軍なので安心して請求出来ると、頭頂部がハゲた医者は悪どい笑みを浮かべていた。たぶんボッタくるつもりなのだろう。
先に三日で治療が終えて首のコルセットもとれたアッシュは、まだベッドから出られない錫乃介の元へ来ていた。
「そうか、ショウロンポンの男の元へ帰るか」
「間違って無いけどなんか気に触るわね、本当に弟だから。まだ幼いからほったらかしには出来ないし」
「幾つなんだ?」
「11歳」
「うっわ微妙。普段は姉ちゃんいてウゼェと思ってるかもしれないけど、居ないと居ないで心細いと思ってる年頃だわそれ」
「でしょ」
「後二、三年で強烈な反抗期になって、青い性に目覚めるからな、覚悟しておけよ」
「弟はそんなことになりません〜」
「うっわブラコンだこいつ。キッモッ!」
「キモくないし、可愛いし」
「キモいのはお前の事だ」
「失礼ね! あ、賞金ありがと。本当に半分いらないの?」
「いらん、何度も言わせるな。無駄遣いすんなよ。特にギャンブル」
「わかってるわよ!」
他愛のない事でじゃれあい、ふと言葉が途切れる。
アッシュは未だレンズの入って無い黒縁眼鏡を外して沈黙を破る。
「ねぇ、もしまた会ったらクーニャン蟹一緒に食べ行こ」
「あぁ、話したくない相手と飯食わなきゃならない時の定番だったな」
「そっ」
「悪くねぇな」
「それじゃ、船あるから」
「ああ、また生きてたらな」
バイバイと手を振るアッシュに、サッと手を挙げ応えた。
部屋を出て見切れる最後、ほんの一瞬だけ目が合ったような気がした。
いやいや、弟だなんてどうせ男だろ。わかってんだよおじさんには。
“ひねくれてますねぇ”
女はそういう期待だけさせるのが超得意な生き物なんだよ。
何度も飲んだり遊んだりして仲良くなってイケると思ったら、そのすぐ後には“彼氏できたんだぁ”とか言ってきやがったりするんだこれが。
“まぁよくある話ですけどねぇ”
だろ? さ、ハーレムの夢でも見よっと。
……………………
治療を始め本当に一週間で完治に至った。その事に感動し次なる目的地へ、と意気込んだが先立つものが無い。
とりあえず金でも稼ぎますかぁ。今日から退院だし、宿代も弾薬も燃料も物質も全部買い揃えなきゃなぁ。
“それでは、ユニオンの端末から周辺データを落としますよ”
へいへい。
“ふむふむ、ん?”
どうしたぁ。変な機獣いるのか?ってか、もう海は行かねーぞ。
“いえいえ違いますよ。大した事じゃありませんので”
あっそう。
“なんですかね、変な情報が入ってますねぇこの端末”
[ここクーニャンでは、クーニャン蟹は食べている時が無言になる事から、“話したくない相手とご飯を食べなきゃいけない時の定番料理”と言われている。
それが転じて、無言でも一緒にいて心地が良い人と食べる料理、とも言えることから、“一緒に蟹食べ行こう”は、相手に好意を示す意味で使用するケースもある]
“プフッ、これを教えるのは少し野暮でしょうかねぇ”
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