ナンパって上手くいくと逆に怖い
こんだけ命をかけて300c……だと……。
収支26,828c
“今回は運が悪かったとしか言いようがないですね。ボーナスは事故もなく船も無傷で航海出来て初めて付くかも? くらいのものですから。正規の報酬が出ただけマシじゃないですか”
そ、そりゃそうだが、丸2日寝ることも出来ずに命がけで戦ってこれか。
なんてヤクザな商売なんだ……
今更ハンター業の恐ろしさを味わったぜ……よく暴動がおきねぇもんだ。
“それはそれ、皆承知でやってますからね。下手に喚いてユニオンに喧嘩売っても碌な事にならないでしょうし”
確かに。暗殺されかねん。
クーニャンも港町だけあって多くの船が行き交う。ショウロンポンとは違い派手な建物は無いが、防壁が広く築かれているのか土地に余裕はありそうだ。多くのバラック小屋とここでは木造建築もチラホラ見られることから、近くに森林があるのかもしれない。
受電設備でもあるユニオンは街の中心部。港側にも支店的な施設があり、錫乃介はその港支店で報酬を受け取ったのだが、くたびれ儲けな金額に、はぁぁぁと深く溜息を吐いて愕然とする。呆然としながらユニオン内の鉄骨で組まれたベンチに座り込むと、疲れからかそのまま寝入ってしまう。
ふと目覚めるともう日暮れであった。ベンチなんかで座ったまま寝たので、首肩腰がバキバキに痛くなり、そのまま伸びをして関節をほぐす。
防犯とか大丈夫だったのか気になるが、ナビが聴覚を駆使して警戒してくれていたのもあるが、銃を持った軍人がウロウロする施設内で悪さをするような太々しい奴はいなかったようだ。
とりあえず気を取り直して、今夜の宿と復讐の為の魚料理屋を探す事にして、ユニオンを後にする。
建物外では先程の錫乃介と同じ様に深い溜息を吐いて、空を見つめて呆然としているハンターらしき女性がいた。
歳の頃は20代前半くらいか、ウェーブのかかったブラウンショートヘア。カーゴパンツにロングのミリタリーコート。ダボっとした中に着込む黒いレザーのチューブトップがセクシーだが、黒縁の眼鏡はヒビが入り、怪我をしているのか首元にコルセットを巻いている。
ん? あの人確か同じ船にいたハンターだな。確か2番……銃塔……
“錫乃介の所為で爆発の被害を受けた方ですね”
そんなわけねぇだろ。ねぇよな? まぁ挨拶くらいするか。
「おーい、怪我大丈夫だった?」
少し気になったので声を掛けてみると、こちらをチラッと見て、再び深いため息を吐いて項垂れる。
「ナンパにしてもこんなおっさんはないでしょ神様」
ナンパと思われたら嫌だなぁと思ってはいたが、やはりド直球な返しが来るが、錫乃介はこの程度では動じない。
「やっぱりナンパみたいかね?」
「違うの? もう、こっちは踏んだり蹴ったりなの。爆発に巻き込まれて怪我するわ、報酬は安いわ、治療費の方が高くつくわ、その所為で飯代すら無くてピーピーなの。この上変なおっさんのナンパの相手ならもう神様呪うわ」
錫乃介の方を見もせず痛めた首を項垂れたまま辛辣な言葉を並べる眼鏡っ娘は、そのまま踵を返して去ろうとする。
「まぁまぁそう言うなよ、同じ釜の飯食った仲じゃねぇか」
同じ釜の飯なんていつアンタなんかと、と言おうとして錫乃介の方にようやく顔を向けて数秒してからハッとする。
「あぁ貴方、同じエクラノプランに乗ってたハンターね……ごめんなさいイライラしちゃって」
「いいってことよ。あんな目にあってあれっぽっちの報酬だったからな、みんな肉体的にも精神的にも疲れた中でトドメの一撃って感じだったな」
「そんなのまだいいわ。私なんて気絶しててユニオンの治療室でさっき目覚めたと思ったら、治療費500cだって。赤字もいいところよ」
「それはまた、何と言うか、なんか、すいません」
なんとなく、自分の所為では無いのはわかっているが、妙な責任を感じて謝罪してしまう。
「何で貴方が謝ってるの?」
「いや、別に。それより飯食う金すら無くてどうするんだコレから?」
「宿は馴染みのツケが利くところあるから大丈夫よ、心配ありがとう。それじゃまた生きてたらどっかでね」
「なぁ、それなら飯付き合ってくれよ。1人じゃ寂しいからよ」
サッと手を振り去ろうとするが、錫乃介の言葉に立ち止まり逡巡しているのか妙な間ができる。
「やっぱりナンパじゃないの」
「別にいいだろナンパでも。ただ飯食えるならよ」
「奢ってくれるの?」
「もちろんだ。ただし、ジャンルは魚限定な。魚機獣に襲撃された恨みを晴らすためにだ。これは譲れないね」
「変なナンパね。いいわその復讐付き合ってあげる」
「よっしゃ、ひっさしぶりのナンパ成功!! ところでいい店知ってる? 俺この街初めてで、なんもわかんないんだよね」
「そっちからナンパしといてエスコート私なの⁉︎」
「案内宜しく!」
少し早まったかと軽く後悔した眼鏡っ娘だが、致し方ないと錫乃介を連れて来たのは港街ならではの海上に作られたシーフードレストランであった。
波にプカプカと浮かぶ桟橋に、幌の様な屋根がある木造船が幾艘も繋がれ、その一つ一つが個室の様になっている。船に据えられている行燈が朧月を思わせる優しい光をユラユラと放ち、もうすぐ終わる夕焼けに顔を出し始めた三日月との交わいは幻想世界を思わせる。
「ちょっ……何ここ、えらいオシャンティ何ですけど、いきなりデートですか? アダルティな関係に突入しちゃう?」
「ふふ、どうかなぁ? 奢ってくれるって言ったから、高いお店来ちゃったの。どうするおじさん?」
「やってやろうじゃん。こう見えて結構稼いでるからねおじさんは」
“主にコソ泥で”
おまーはいきなり出てくるな!
「それじゃ、甘えちゃおうかなぁ」
と腕を組んでくる眼鏡っ娘はなかなかにして胸があるようだ。
ちょっ……なんかこう上手く行くと、またなんかさ、なんか悪い事起きそうな気がしちゃうのは、職業病みたいなもんかね?
“どんな職業ですか……”
「このお店はね、お客さんの好きな料理を作ってくれるの。魚料理なら作れない物はないんだって! 私一度入ってみたかったんだぁ」
こんな店俺の時代でもそうは無かったぜ……と思いつつ、スタッフの案内で恐る恐る桟橋から木造船に足を踏み入れ、幌の中を覗くと、中心には5〜6人はかけられる半円型のソファに丸テーブルが置かれ卓上にはトルコランプが輝く。
「何食べる?」
「先ずは酒だ。ビールとそれからポートワイン。今夜は好きなだけ飲み食いしてくれ。俺は錫乃介。君、名前は?」
「錫乃介? 錫乃介さんね。私はアッシュよ。宜しくね“ドブさらいの錫乃介さん”」
向かいに座るアッシュの割れた眼鏡に、錫乃介の少し驚いた意外そうな顔が映っていた。
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