それいけ機獣潜艦マッコウ君

 ところでいっぱい倒したけど、討伐証明回収しないのかね?


 “証明部位が文字通り海の藻屑ですからね。それよりさっさと貨物運ぶ方が金になるのでしょう。他のハンター達も気にしてないようですし。錫乃介様はさっきの戦果あるじゃないですか”


 ダツ一匹な。これで50cか……安いんだか高いんだか。網でガサッととれれば良いけど無理だろうしな。


 “昔は普通の魚は網でとったのと釣った物と価格が何倍も違ったんですよね?”


 そうそう、和食に居た時それ初めて知ったよ。物にもよるけど、定置とかの“網どり”と“釣物”で2〜3倍は価格差があったな。まぁ日本人くらいじゃねぇの? そんなに魚の取り方とか鮮度にこだわってたの。


 “そうでもないんですよ。確かに魚を生で食べる文化が乏しい国ではそうでもなかったんですが、和食、特に寿司ブームで鮮度の良さも注目されるようになったんです。庶民にも高値で売れる事から、スクラッチ前では世界中の国で刺身がスーパーで売られる様になって、【sashimi】は【sushi】と並んで世界共通語になったんです”


 寿司ブームってそんなに長いこと続いてたんだ。すげぇな和食。


 “先進国は元より世界中で、ですからなかなか収まりませんでした。そのせいで条約を無視した乱獲が各国で行われる様になり、水産資源はみるみるうちに……”


 あぁ、それね、もういいよ。それで合点がいったよ。魚機獣になんでこんな襲撃される理由がほんとよくわかったわ。得心したよ。納得いった。腑に落ちたよ。

 

 

 機獣の襲撃第一波を抜けたエクラノプランもどきに2時間後再び大群が押し寄せていた。その規模は一波を超える規模で、錫乃介がいた3番銃塔とは反対側の4,5,6,番銃塔もフル回転。更に今回は海中で音響デコイや対魚雷ドローンに引っかかった魚型魚雷がボンボン爆発しており、凄まじい揺れの中での迎撃戦になっていた。

 既に錫乃介の3番銃塔周りにはダツ、サヨリ、サンマ、タチウオ、ヤガラ、ケンサキイカの機獣達が突き刺さってビヨンビヨンしている。



 ご先祖様の復讐してんだなコイツら。地球人代表して謝るからホント許して、見逃して、勘弁して下さい。でも魚食べるのやめません。


 

 と思った瞬間、船は大きな衝撃を受ける。照準から目を離さずとも察することが出来る。隣の2番銃塔がやられ爆発を起こしたのだ。


 

 “ホラ、そんな事思うから……”


 え!俺の所為⁉︎

 わかったよ週二回くらいにするから。



 とその瞬間錫乃介の目の前で風防が爆発。やられたか! と目を瞑りながらも操作桿から手を離さず射撃は続けていた。瞬時に無事な事を把握し、目を開けると防弾ガラスの風防は見事にヒビだらけ。


 

 「3番大丈夫か! 生きてたら直ぐに返答せよ! 死んでたらあばよ!」


 「残念生きとるわ。 暑苦しかったんでな、ちょいと風通し良くしただけよ」


 スピーカーから流れる野太い声に軽い声で調子良く返し、足で見通しが悪くなったヒビだらけの風防を蹴破る。



 “へっちゃらな感じで言ってますけど、漏らした事私にはバレてますから”


 黙りねぃ!!!!!


 

 ナビの解析では、2番銃塔がやられ弾幕が薄くなった瞬間を狙いカタクチイワシロケットが目前まできたらしいが、偶然ウルメイワシミサイルも飛んできて風防目前でぶつかり合い爆発したらしい。



 マジで⁉︎ もうヤダ! 怖すぎる! 死んじゃうよ!


 “さっきの余裕の返しはなんですか”


 それはホラ、見栄ってあるじゃん! もう逃げたいよ!


 “でもその発射ボタンから指離した瞬間に本当に死にますよ”


 ですよねぇ! もう君たち魚食べないからぁ! 助けてぇ!!!



 穴が空いた2番銃塔ではM134機関銃を持ってきて撃ち続けていた。それからどれほど時が経ったのか、銃身が焼きつくまで撃ちつづける! という表現があるが、まさにその通りエクラノプランもどきに搭載されている機銃や弾薬が皆限界に来ていた。



 「あかーーーん、死ぬーーーー!」


 “数は減ってますよ!あと少し”


 「さっきから1万回はそのセリフ聞いたーーー!」


 “まだ185回しか言ってません”


 

 もう脳内ではなく、声に出して泣き言を言ってる事に気付かなくなって来た頃であった。


 突如立ち上がった水柱

 

 纏った水を振り落とし覗く肌


 夕陽に照らされる漆黒の艶


 空中で開く何かは深い谷を思わせる


 バツンと音がした


 数十メートルを超える波


 漆黒の谷はその波と共に沈み、再び海中より半身を立ち登らせバツンと口を閉じる


 夕陽が赤く荒れた海を照らす


 魚群の襲撃は


 いつの間にか止んでいた


 

 尋常ではない波がエクラノプランを襲うが転覆は免れる。あわや大惨事であるにも関わらず、ずぶ濡れになりながら空いた口が塞がらないとはこのことか。あまりの巨大で異常な光景に、いつも軽口を忘れない錫乃介も、銃を撃つ事も漏らした事も忘れ呆気にとられていた。


 

 「で、でかい……ありゃあ……」


 “機獣潜艦マッコウ君……200メートルはありそうですね……”



 マッコウ君は三度魚群を腹に収めるべく、海中よりその谷底のような口を開き、空中にその身を曝け出す。


  

 「今のうちだぁ! この海域を抜けるぞぉ! ボヤボヤしてっとこっちまで食われるぞ!」


 

 錫乃介だけでなく、おそらくその光景を見た殆どの乗組員が動けなくなっていたのだろう。スピーカーから響く艦長の一喝により慌てて自分の為すべき事を始めた。




 魚機獣の襲撃を抜けたエクラノプランもどきは、夜間は照明をできるだけ落として航行を続け、どうにかこうにか明け方日の出と共に目的地クーニャンへと辿り着く。

 もう乗組員は全員疲労困憊心神喪失状態であったが、大規模な魚群の襲撃と伝説的な機獣に出くわしながらも死者は無く、怪我人が数名と奇跡の着港を果たすのであった。




 もう海ヤダ。


 “魚はしばらく食べられませんね”


 は? 今度は俺がやり返す番だし。食いまくってやるし。


 “嘘つき〜”

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