孤独なエロス
その後数軒の風俗?と飲み屋とBARをはしごし、ハンターユニオンに戻って来た頃にはすっかり暗くなっていた。
“またずいぶんと遊び歩きましたね”
シースルーボルダリング、浮気妻酒場、バニーガールBARメスガキ、エチエチガイノイドカフェ、クラブ踏み付け、SM社交会パーフェクト女王様、筋トレジム姫騎士、ポニーテールシュッシュッシュッ、搾乳ボイン・ザ・サード、まぁ3ヶ月分は遊んだか。
“シースルーボルダリングは半裸のおっさんすらいなくて壁が半透明なだけ、エチエチガイノイドカフェは下着つけたドラム缶が配膳してるだけ、ポニーテールシュッシュッシュッはポニーテールの髪型したヤンキーがシャドーボクシングしてるだけ、クラブ踏み付けはブドウの足踏み体験、バニーガールBARメスガキなんてただの子ウサギがいただけじゃないですか”
BARが1番癒しになったな。
“隣の客ウサギ肉のソテー食べてましたけどね”
甘いヴィンコットソースかけてな、あれ美味そうだった。
“サイコパスですかアンタ。でもどれもこれも裏切られて、途中から開き直ってましたね”
ああ、どうせ期待外れならその場を100%楽しむのが俺の主義、いや美学なのさ。
“格好良く言い繕ってますが、目から血がでてますよ”
アレおかしいな?でもなある意味本当。前の世界の時もな、しょぼくれた閉園間際の第三セクターが運営してる“○○の里“とか“○○村”とか行くとさ、しょっぺぇ土産物屋とか着ぐるみショーとか移築してきた古民家とかしないから、そこでどうやって楽しむか頭を捻るわけだ。そんで全力で楽しむ。これよこれ。
“物凄いお金減りましたけどね”
残金10,580c
後で回収できるさ。
“大丈夫ですかね?”
……………………
「おぉ、ご無事でしたか」
ユニオンの屋上で出迎えた権爺は昼間の鋭い雰囲気から元の温和で穏やかな、腰の曲がった老人に戻っていた。
携帯コンロでお湯を沸かし粉茶でお茶を入れてくれる。
「どうですか、そちらの方は」
「問題ありません。軍の指揮官には動きがあり次第作戦開始と」
「信頼出来る人物ですか?」
「私の教え子です。もし裏切るようなことがあれば……」
「わかりましたわかりました。またあの触れた物は皆傷つけるモードにならないで」
権爺を宥め茶を啜りながら、闇夜にそびえ電飾で映える三つのビルを眺める。
中折れしているビル、ワン・ワールド・トレード・センターにはウマトラ組の根城。つららのような形状のビル、ラフタ・ツェントルにはセーベー組の本拠地。二つのビルに挟まれた白菜の様なビル、一番派手なグランド・リスボア・マカオが二つのマフィアを取り成すのか、いやボクシングのレフリーの様に“BOX"とファイトを促しているのか、どちらの様にも映る景色である。
「そろそろ頃合いですね」
「それでは……」
権爺の刀を持つ手がほんの少しブレたかと思うと、三棟のビルへの送電線に繋がるケーブルがプラリと落ちる。と、同時にビルを中心とした区画が一瞬にして闇夜に同化した。
「感電大丈夫なんですか?」
「送電線を直接切ったわけではないので大丈夫です。電源を落としただけですから」
「そしたら次は俺の番ですね」
権爺にそう言い残してユニオン階下に向かうと、ジャノピーに乗り込み暗闇となった区画にむけてアクセルを回した。
そして数分後に最初はワン・ワールド・トレード・センター、その次にラフタ・ツェントル、そしてまたワン・ワールド・トレード・センターと、交互に連続したカノン砲の砲撃音とビルの外壁が破壊される音が幾度となく響き渡った。
早速蜂の巣を突いたように二つのビルからチンピラが出てきましたな……
闇夜に目を凝らして、錫乃介が二つのビルの間を走り回りながらリヴォルバーカノンで砲撃している様子を見守る権爺。
しばらくするとひと筋の汗を流した錫乃介は戻ってきて、冷めた茶を一気飲みする。
「これでそのまま両者共にカジノの防衛と奪取に総力を挙げるでしょう。当然軍が見過ごせないレベルの抗争になります」
「軍による鎮圧平定がその後行われる。それがこの街に必要なんですね」
「少々荒療治ですが、銃撃戦レベルでも動き出さなくなってしまった軍に喝を入れないといけなかったんですよ。権爺さん1人で壊滅させたところで、またすぐに同じ様な組織が生まれます」
「流石はポラリス様が見初めた御仁だ。アダッ!! な、なんと……」
「ブヘッ!! な、何で俺まで……」
“誤解させたのアンタでしょ! と通信がありました”
……ったく好き過ぎだろ俺の事。
……………………
大きな爆発音が闇夜に幾度となく鳴り響き、銃声が鳴り止むことは瞬きの間もなかった。そして数刻が経つこともなく、前もって準備されていた軍隊が出動し、夜明け前にはマフィアの抗争は鎮圧された。
そう、錫乃介は昼間から単に風俗店?巡りをしていた訳ではなく、今夜互いのマフィアが停電を起こし闇夜に乗じてカジノを乗っ取りもう一方の組織を潰す計画だ、という噂をあちこちで流していたのだ。バラック小屋ビルで店を営む住民達は当然この重要と思われる情報をケツ持ちのマフィアに教える。
急に同じ様な情報が集まる事で怪しさはあるのだが、本当に停電が起き更には錫乃介の砲撃が決め手となった。
リヴォルバーカノンで砲撃したのは情報の信憑性を増すためだ。今まで小規模な銃撃戦はあっても、軍が出動する騒ぎにならないようにお互いどこかでセーブがかかっていた。それをぶち壊すために敢えてビルに直接砲撃をしたのだ。
と、ここまでは計画通りであったが、抗争を鎮圧した軍隊に少し奇妙なことが起きた。
「あれれ〜?おっかしぃぞ〜。セーベー組のビルには軍が乗り込んだけど、ウマトラの方には警戒網張るだけで突入しないぞ。後から乗り込むのかな?」
「それはないですね。混乱している今が1番のチャンスです。奴らに首輪をかけるには今でしょう。でなければボスを逃す時間を与えるだけです」
「ということは……」
「私の教え子がお恥ずかしいですな。出ます、アイツの首を刎ねてきます。手伝いはいりませんよ」
「待て待て、身内を人質にとかあるかもしれないじゃん!」
「ならばまずは問いただしてから、首を刎ねるとしますか」
「なら……いい……かな?」
“ええんかい”
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